好きな人にもそうじゃない人にもいろんな日本酒の世界を知ってほしい
意外にもそこはJAZZが流れる落ち着いたオトナの空間だった。2020年7月に日本酒バルとしてスタートを切った『日本酒バル ポン〇』のコンセプトは「人×日本酒×料理」。そこに込められているのは「お客様にもっと日本酒の楽しさとおいしさを伝えたい!」ということ。
店長の秋本篤さんと料理長の大山恭平さんがこの店の2本柱だ。オープン以来試行錯誤を繰り返し、今では稀少価値の高いものも含めてバラエティに富んだ日本酒を取り揃える店へと変化してきた。日本酒には欠かせない料理メニューの充実にも力を入れる。
おもしろいのは従来の日本酒のイメージだけに捉われず、より自由な楽しみかたを提案しているところ。たとえばそれは日本酒を使ったデザートカクテルだったり、あるいは様々な銘柄の日本酒をソーダで割ってみたり。
「日本酒本来の味を楽しみたい生粋の日本酒好きは、邪道に思ってしまうのでは?」そんなちょっと意地悪な質問を秋本さんにぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「日本酒ってこういう世界もあるよ。ということをお客様に伝えたいんです。」
それは日本酒が苦手な人やアルコールに弱い人にも日本酒を楽しんでほしいという思いからだ。
そうか。最近は世代交代する蔵元も多く、日本酒業界もさまざまな試みにチャレンジしていると聞く。昔ながらの日本酒の概念に捉われすぎず、もっと自由な楽しみかたをしてもいいのかもしれない。
秋本さん自身、以前は「日本酒は飲みにくい」というイメージで苦手だったそうだ。それがアルバイトとして働き始めてから、日本酒の魅力に目覚めたのだという。
「日本酒って香りもフルーティーなものからチョコレートのようなものまでいろいろあるんですよね。しかもお燗や冷酒、常温と、好みや気分で飲みかたを変えられる。季節ごとにお酒の味わいも違ってすごくおもしろいんです。」
不思議な巡り合わせで日本酒の楽しさと出合い、今では店長としてスタッフをまとめる立場だ。
大事なのはスタッフ自らが日本酒を楽しむこと
お店に来たら、まずは日本酒3種飲み比べ1200円を試してみてほしい。自分の好みの日本酒を選んで少しずつ飲み比べてみる(新政3種飲み比べは1500円)。それぞれに個性があることがはっきりと分かるはずだ。
『日本酒バル ポン○』ではスタッフが見つけてきたおすすめの日本酒を随時メニューに取り入れている。置いてあるお酒も少しずつ変わってゆく。中には手に入りにくいプレミアム日本酒もあり、充実した品ぞろえとなっている。
冷蔵庫の中にはそれらの選りすぐりの日本酒がずらりと並ぶ。ビンにはラベルがぶら下がり、それぞれに手書きでお酒の情報や特徴などが書き込まれている。
中にはかつての秋本さんのように日本酒がちょっと苦手というスタッフもいる。そんな場合は、果実酒やデザートカクテルなど、自分の視点から見つけた日本酒のおすすめの飲みかたを提案しているそうだ。
「大切なのはまずスタッフ自身が日本酒を楽しむこと。」と秋本さん。だからこそお客様にも自分自身の言葉で、その楽しさを伝えることができるのだろう。
日本酒と料理のマリアージュ
『日本酒バル ポン○』の主役である日本酒にとって、大事なパートナーとなるのが料理だ。その責任者である大山さんは旬の食材の情報収集を欠かさない。季節ごとの味わいがある日本酒に合うのはどんな食材か?調理方法は何がベストか?まさに日本酒と料理のマリアージュを常に模索している。
「料理は必ず手間がかかるもの。」と言う大山さんは、お客様においしいものを提供するためには決して妥協しない。ブレない男なのだ。
ちなみに『日本酒バル ポン〇』では日本酒同様、料理についてもスタッフ参加型だ。だからメニューにはスタッフ考案の料理も並ぶ。こちらのさつまいもチーズスティック580円もそんなメニューのひとつ。さっくりと軽い食感で、さつまいもとクリームチーズの相性が抜群の一品だ。
料理の素材の味を引き立ててくれる日本酒
筆者が何品かオーダーすると、すかさず秋本さんが「このお酒が合うよ。」と教えてくれた。
脂のり抜群で身が大きく締まった長崎県産のカンパチには、辛口ながらもフルーティーなのど越しの菱湖純米ドライ(新潟)が相性ピッタリ。
ジューシーでボリュームのある食べ応えの月見つくねには重厚感のある風の森 山田錦807(奈良)を!
レバー好きにはたまらないしっかりとたれが絡んだレバー串には、飲みごたえ抜群で超辛口の男酒の刈穂 山廃純米 原酒 番外品(秋田)がお互いを引き立て合う。
日本酒について語る秋本さんの言葉も次第に熱を帯びてくる。本当に日本酒が好きなんだなあ! それがひしひしと伝わってくる夕べであった。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪