多くの会場の礎となった臨海副都心という土壌
都内だけでも14もの競技場が点在する東京ベイゾーン。これほどの会場が一気に準備できたのは、受け入れる土壌があったから。
1970年代、東京都は首都の活路を埋め立て地に求めた。港湾機能のほかに交通や都市機能、憩いの場である海上公園などの役目も埋め立て地が担う。今回の競技会場だったお台場海浜公園や有明テニスの森、夢の島公園などが計画された。
長年東京都港湾局に勤務し、湾岸の歴史を知る海寳博氏さんに伺うと、「埋め立て地の中でも特に台場・青海・有明は、東京の7番目の臨海副都心として開発されました」という。
そのお披露目の場として1996年開催の「世界都市博覧会」が計画された。期間は約300日、1日最大20万人を動員できるインフラが整備された。ゆりかもめが会場内を巡り、りんかい線2駅が玄関口として開業。副都心を貫く大通路のシンボルプロムナード公園も造られた。
今大会のプレスセンターとなった東京ビッグサイトはすでにあり、まさに街全体が巨大イベント会場だった。しかし都市博は中止。でも海寳さんは「私はゆりかもめ勤務でしたのでむしろそこからが始まり。安全な運営に必死でした」と振り返る。
そんな彼らの努力のかいあって、臨海副都心は25年後のこの夏、ようやく世界の脚光を浴びたのだった。
会場群はすでに未来に向かっていた
連載中お世話になった、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部の担当者にお疲れ様と声をかけると、「開催までは選手の方々に活躍の場を用意してあげたいという一心でした」と胸を撫(な)でおろす。が、「でも都職員としてはこれからがスタートです」と語気を強めた。
恒久施設はそれぞれ都民利用のための整備工事が始まる。ベイゾーン全体が臨海スポーツゾーンとして計画され、スケートボードなどアーバンスポーツパークの整備も計画中。
これは各競技団体の悲願でもある。身近に練習場があれば子供たちがスポーツに親しめて、いつかオリンピアンとして成長するかもしれない。そんな種をまく場所が、2020大会を機にいくつも生まれたのだ。
都心のヘリテッジゾーンでも明るい知らせを聞いた。1964年に建設された国立代々木競技場が、国指定の重要文化財に指定された。
東京2020大会の思いは、すでに未来へと歩み始めているのだった。
東京ベイゾーン
臨海スポーツゾーンに生まれ変わる会場跡地
東京都は臨海部の2020大会会場を中心に4つのスポーツを楽しむエリアを計画中だ。
まずは「大井ホッケー競技場」。海の森水上競技場とカヌー・スラローム会場は「ウォータースポーツエリア」。アーチェリー会場などの「マルチスポーツエリア」。そして「有明レガシーエリア」には、アーバンスポーツの場の整備を計画中。一方、仮設ではあるがしっかりした建築の有明体操競技場は展示場になる予定。
有明レガシーエリア
有明テニスの森駅周辺や有明アリーナなどは「有明レガシーエリア」として、商業施設などとも連携してスポーツや文化イベントの場となる予定。今大会では仮設だったアーバンスポーツ競技施設の大会後の活用も計画中。オリ・パラシンボルなどモニュメントも設置予定。写真(上)の一帯はかつて貯木場だった海面で2016年大会招致時には選手村予定地だった。
辰巳・夢の島マルチスポーツエリア
常設アーチェリー場ができた夢の島公園と辰巳の森海浜公園は、マルチスポーツエリアとして整備される。辰巳は競泳が開催されたアクアティクスセンターができたため、水球会場だった隣の辰巳国際水泳場(写真)はいずれアイスリンクに。
ヘリテッジゾーン
都心部で輝き続ける2大会活躍レガシー
都心部にあり前回も使われた競技会場群。東京体育館や2代目国立競技場などがある。中でも国立代々木競技場は丹下健三設計の名建築で、この8月に国指定重要文化財に。
取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2021年10月号より