吉祥寺の商店街に突如現れる、物語への入り口
吉祥寺駅からまっすぐに続く商店街「中道通り」を歩いていると、突如現れるお城のような建物。この正体は「とびらを開けば絵本の世界」をコンセプトにした小さなテーマパーク『吉祥寺プティット村』だ。オープンから約3年が経つが、いまだに道ゆく人たちが振り返ってしまうほど不思議な雰囲気を放っている。
「絵本の世界」というコンセプトの通り、入り口から一歩足を踏み入れただけで、現実とはかけ離れた世界が広がっていた。まるで幼い頃に読んだ絵本の世界に入り込んだかのような空間は、大人たちを一瞬で童心に帰らせてくれる。
森の中に迷い込んだようなティーハウス
『吉祥寺プティット村』内には猫カフェや雑貨店など複数の店舗が集まっているが、その中にはこだわりの紅茶やスイーツが楽しめる『TEA HOUSE はっぱ』も併設している。はっぱの形をした看板と木の扉は、まるで物語の世界へ続く入り口のようだ。
店の入り口で、『吉祥寺プティット村』の“村長”、泉田さんが出迎えてくれた。このテーマパークが誕生した経緯を尋ねてみると、「『吉祥寺プティット村』は、吉祥寺東急の裏手にある『Cat Cafe てまりのおうち』という猫カフェを運営している、猫を愛するオーナーの“吉祥寺に猫の森をつくりたい”という想いから始まりました」と説明してくれた。
泉田さんは『Cat Cafe てまりのおうち』から『吉祥寺プティット村』のオープンと同時に移り、現在はこのテーマパークの村長を務めているのだそう。
ぐるぐると螺旋階段を上り2階に上がると、木で作られたテーブルや椅子が並べられ、天井はドライフラワーなどの植物に彩られていた。泉田さんは、「各店舗が絵本の1ページのように違った雰囲気を楽しめるのですが、その中でも『TEA HOUSE はっぱ』は、まるで森の中に迷い込んだような空間になっています」と話す。
物語の主人公が、森の中で出会った小人のおうちに招かれて……そんな物語も始まりそうだ。
この世界観を表現するため、店内の髄所にこだわりが散りばめられている。カウンター席に並ぶ木の椅子は、教会で使われていたアンティークの椅子を使用。趣のある風合いが、店の世界観とよくマッチしている。
また、店内にはテーブル席以外にも小上がりになった座敷席があるため、親子連れでお茶を楽しみに来るお客も多いという。絵本の中のようなメルヘンな空間に、子どもが大喜びしている姿が目に浮かぶようだ。
こだわりの紅茶とスイーツで至福のティータイム
紅茶をメインに提供する『TEA HOUSE はっぱ』では、ダージリンやアッサムなどのスタンダードな紅茶のほかに、フレーバーティー、スペシャルティー、フルーツティーなど、20種類ほどの豊富な紅茶を楽しむことができる。この日は、きれいなピンク色の、香りの庭770円を味わってみることにした。
紅茶には、ハーブのほかに、グレープフルーツやレモンなどの柑橘がふんだんに入っている。泉田さんによれば「通常のフレーバーティーは茶葉の色がそのまま出てくるのですが、このフルーツティーは入れるフルーツの色によって紅茶の色合いが変化するので、目でも楽しんでいただけますよ」とのこと。
味わってみると、華やかな紅茶の香りがふわっと鼻を抜けたあと、ほのかにフルーツの酸味とハーブの爽やかさが後を追ってきた。香りの庭は、通常のフルーツティーよりもハーブの割合が多めに作られているので、リフレッシュしたいときなどにおすすめだ。また、フルーツティーは時間の経過による味わいの変化も少ないそうなので、誰かとおしゃべりしながらゆったりと楽しめる。
紅茶と一緒に楽しめるスイーツメニューも種類豊富に揃っているが、その中でも一番の人気メニューがフレンチトーストだ。猫好きが問答無用で頼んでしまいそうな、猫型がかわいらしい。
国産小麦を使ったフレンチトーストの生地は店内で焼き上げているため、注文してから少し時間はかかるが、焼き上がるのを待ちながら紅茶を飲んでゆっくりとする時間もまた心地よい。作りたての温かいフレンチトーストがテーブルに到着したら、お好みでシロップをかけて味わおう。
シロップと生クリームをたっぷりつけて食べてみると、芳醇なバターと小麦の味わいとともに生地がとろっと溶けていく。生地の中までしっかりと味がしみ込んでいて、最後の一口まで夢中になって味わってしまった。
ふと窓に目を向けると、枝葉がそよそよと風に吹かれていた。「夏は窓の外が緑のツタに覆われ、秋は葉が紅葉するなど、季節ごとに窓から見える景色も変わるんです」と泉田さん。『TEA HOUSE はっぱ』では、四季の変化を感じながら、香り高い紅茶とともに至福のひとときを楽しめるのだ。
また、ゆっくりと紅茶を楽しんだあとは、敷地内にある猫カフェ『てまりのおしろ』で猫たちと戯れたり、雑貨店『とことこ雑貨店』で記念に雑貨を買ったりなど、ちょっとした観光気分を味わうことができる。
日常を離れたくなったときは、吉祥寺にある絵本の世界で、物語の主人公になった気分でティータイムを楽しんでみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=稲垣恵美