ベテラン編集部員たちに聞く、時刻表の30年と1kgに込められた矜持

国鉄時代は誌名や判型も頻繁に変わっていたが、JR発足以後はほぼ現在まで形を変えずに毎月発行されている『JR時刻表』。JR線の全線・全駅が掲載されており、久しく手にしていないという人も、ひとたびめくればその情報量に圧倒されるはずだ。創刊号から、象徴的な号の表紙をピックアップ、年表と共に並べてみたので時代の変遷を楽しんでほしい。

2021年8月号ではついに通巻700号を達成。この30年あまり、時刻表はどんな歩みをたどってきたのか? JR発足以後の時刻表を長年支えてきた、ベテラン編集部員たちに話を聞いてみた。「編集部のメンバーは若手が増えたけど、おれたちは変わらず時刻表に携わってるね」。集まれば思い出話にも花が咲く。

編集作業は、毎月各社から資料を入手・分析し、データ入力、そして複数回にわたる校正……と、多くのステップを緻密(ちみつ)なスケジュールでこなしていく。山場は毎春のダイヤ改正にあたる2〜4月号。「活版印刷時代は原稿を手書きしていたし、2010年代後半までの改正作業は泊まり込みが恒例でしたよ」と、往時の苦労に苦笑い。ここ10年はシステムの改良も進んだが、それでも質を担保するための苦労は絶えない。「間違いのないことが当たり前」。何よりも正確さが使命なのだ。

今や乗換案内アプリなどで簡単に時刻を検索できるようになったが、紙の時刻表は「読み物」として楽しむのが鉄道ファンの共通認識。「今の時刻表も数年後に見れば時代を映す鏡のひとつになるかも」と、アーカイブ的な側面も語ってくれた。

ちなみに『JR時刻表』の重さはおおむね1㎏未満が原則。「限られたページ内に時刻をはじめとしたたくさんの情報を収めるのが編集の腕の見せ所。大変だけど、きれいに収まった時はテンション上がりますね」。細部に宿った編集の妙が、パズルのように組み合わさって1冊が完成する。この1㎏に、今も昔も変わらぬ矜持(きょうじ)が詰まっているのだ。

使用されている記号にもこんなに変化が!

1963年。国鉄時代は等級制が当たり前だった。
1963年。国鉄時代は等級制が当たり前だった。
1988年。本文で使われる記号も様変わり。「エル特急」「カフェテリア」の記号が懐かしい人も多いはず。
1988年。本文で使われる記号も様変わり。「エル特急」「カフェテリア」の記号が懐かしい人も多いはず。
2021年。2021年の誌面では「プレミアムグリーン」や「グランクラス」のロゴが時代を象徴する。
2021年。2021年の誌面では「プレミアムグリーン」や「グランクラス」のロゴが時代を象徴する。

JR時刻表のあゆみ

1963年5月号(B6判)

「全国観光時間表」として創刊。
「全国観光時間表」として創刊。
食堂車のメニュー表からは、当時の物価がしのばれる。カレーライス100円!
食堂車のメニュー表からは、当時の物価がしのばれる。カレーライス100円!

1964年10月号(A5判)

「大時刻表」に誌名変更、国鉄全線全駅を掲載。東海道新幹線開業の年。表紙には東京オリンピックのマークをあしらった華やかな号だ。
「大時刻表」に誌名変更、国鉄全線全駅を掲載。東海道新幹線開業の年。表紙には東京オリンピックのマークをあしらった華やかな号だ。

1968年10月号

「ヨン・サン・トオ」と呼ばれる大規模なダイヤ改正(白紙改正)があった。たくさんの特急が生まれた。
「ヨン・サン・トオ」と呼ばれる大規模なダイヤ改正(白紙改正)があった。たくさんの特急が生まれた。

1975年3月号(A4判)

観光ガイドつき「大時刻表」に再び誌名変更。歴代最大の判型になる。観光ガイドつきというだけあり、時刻だけでなく観光情報も超充実の読みごたえ。
観光ガイドつき「大時刻表」に再び誌名変更。歴代最大の判型になる。観光ガイドつきというだけあり、時刻だけでなく観光情報も超充実の読みごたえ。
読者投稿欄のほほえましい質問。窓口できっぷを買うのが当たり前だった時代ならでは。
読者投稿欄のほほえましい質問。窓口できっぷを買うのが当たり前だった時代ならでは。

1987年4月号(B5判)

JR発足に伴い、この1号のみ「JNR編集時刻表」として発行。現在と同じ判型に。
JR発足に伴い、この1号のみ「JNR編集時刻表」として発行。現在と同じ判型に。
新宿駅の構内図も今と比べるとずいぶんシンプル。これならまだ迷わないかも?
新宿駅の構内図も今と比べるとずいぶんシンプル。これならまだ迷わないかも?

1987年5月号

JRグループ共同編集の「JR編集時刻表」第1号発行。さくいん地図や駅構内図をカラー化。
JRグループ共同編集の「JR編集時刻表」第1号発行。さくいん地図や駅構内図をカラー化。

1988年5月号

『JR時刻表』として現在の誌名に。

1988年8月号

本文2色刷り& 欄外の乗り換え案内スタート。現在の原型ができる。本文の2色刷りは、これまで黒一色だった時刻表初の試みとして、当時話題になった。
本文2色刷り& 欄外の乗り換え案内スタート。現在の原型ができる。本文の2色刷りは、これまで黒一色だった時刻表初の試みとして、当時話題になった。
どれが特急・急行か一目でわかる。やっぱりここがお気に入り! という編集部員も多い。
どれが特急・急行か一目でわかる。やっぱりここがお気に入り! という編集部員も多い。

1989年3月号

JR線の時刻が活版印刷から電算写植に。この頃からシステム化準備が始まる。

1990年9月号

表紙イメージを刷新。親しみやすい 「小動物シリーズ」 が始まる。(2000年12月号まで続いた)

1994年3月号

時刻表専用システムを導入。

1997年3月

この頃から時刻データの第三者提供を開始。Web上での乗換案内システムの発展に寄与。

2000年1月号

コンピューター2000年問題が列車にも影響。0時をまたがる列車は運転を見合わせる旨が巻頭ページにも。
コンピューター2000年問題が列車にも影響。0時をまたがる列車は運転を見合わせる旨が巻頭ページにも。
不測の事態に備え、列車だけでなく航空機などもこのタイミングは運航を見合わせたそう。
不測の事態に備え、列車だけでなく航空機などもこのタイミングは運航を見合わせたそう。
2001年1月号も編集部員にとっては印象深い号。ミレニアムを祝したキャッチがおしゃれ。
2001年1月号も編集部員にとっては印象深い号。ミレニアムを祝したキャッチがおしゃれ。

2002年4月号

定価据え置きのまま、JR線の掲載を16ページ増。

2004年12月号

通巻500号達成。

2013年4月号

時刻表創刊から50周年&通巻600号達成。これを記念してヘッドマークを作成、その写真が表紙に!
時刻表創刊から50周年&通巻600号達成。これを記念してヘッドマークを作成、その写真が表紙に!

2014年4月号

17年ぶりの消費税率改定により、大規模な旅客運賃改定が行われた。新運賃・新料金を掲載。運賃以外も駅弁の値段など多くの影響が。「春改正作業とも重なり、本当に大変でした」。
17年ぶりの消費税率改定により、大規模な旅客運賃改定が行われた。新運賃・新料金を掲載。運賃以外も駅弁の値段など多くの影響が。「春改正作業とも重なり、本当に大変でした」。

2015年

『デジタルJR時刻表Pro/Lite』サービス開始。スマートフォン・タブレットで『JR時刻表』を見られるように。

2019年10月号

『JR時刻表』より駅弁マーク廃止。ファンからは惜しむ声も…。

2021年8月号

通巻700号達成。さまざまなキャンペーンで盛り上げ中!

記念号では特別イラストの表紙やさまざまな企画で盛り上げ。次の100号へ歩み続ける。
記念号では特別イラストの表紙やさまざまな企画で盛り上げ。次の100号へ歩み続ける。

時刻表編集部 YouTubeチャンネルでもオリジナル動画公開中!

to be continued…

 

取材・文=吉岡百合子(編集部)
『散歩の達人』2021年9月号より