白ポストはなぜあの色と形なのか?

しかし今でも、東京近郊の駅に行けば白ポストにお目にかかることができる(東京でも狛江市や三鷹市などには設置されている)。特に何の世話にもなっていない白ポストではあるが、駅前にあると旧友に出会ったような懐かしさを覚え、つい写真に収めてしまう。そうして各地で集めた白ポスト画像を眺めていると、ひとくちに「白ポスト」と言っても様々なバリエーションがあることに気づく。

まずは形の面。四角い形が主流かと思いきや、円柱形のものもある。そもそも白ポストの起源は1963年、尼崎市の母親たちが有害図書を回収するためにドラム缶を白く塗って設置したところにあるというから(朝日新聞「まだまだ現役、32年目 白ポスト、悪書追放2000点」2000年1月8日朝刊・茨城版)、円柱形が本来の姿なのかも知れない。ちなみに尼崎市には現在も白ポストが設置されているが、ステンレス製の背の低い箱形になっている。

次に色。「白ポスト」というだけあってやはり白が多い印象だが、上記の尼崎市や小田原市、岩国市のものなどはステンレス地の銀色である。奇抜なのはJR寒川駅の「有害図書追放ポスト」。「アブラムシなどの害虫を食べる」という意味合いを込めてテントウムシ型になっているという(タウンニュース寒川版「夏休み後はぎっしり 寒川駅の『てんとうむしポスト』」2019年10月4日号)。有害図書を入れる側としてはひっそり立っていて欲しい筈の白ポストが、まさかの赤地に黒い斑点の巨大テントウムシ型。駅でひときわ目立つ存在となっている。

白ポストに書かれた文言いろいろ

ポストに書かれた文言にも個性があらわれる。「悪書追放」と大書して威圧感を与えるハード系白ポストもあれば、「読み終った雑誌等はこのポストへ……」(JR彦根駅)という有害図書の「ゆ」の字も見せないソフト路線の白ポストまでさまざまだ。「有害図書」をいかに遠回しに伝えるかという表現に苦慮した挙句、「青少年に見せてよくない雑誌類は、このポストに入れてください」(阪神甲子園駅)と、日本語表現として少々微妙になってしまったものもある。JR福島駅の白ポストは薄い水色と白という上品な佇まいに「少年に見せたくない雑誌など、家庭職場などに持ちこまないでこの白ポストに入れて下さい。」と書かれ、「など」の多さは気になるものの細やかな描写で投入を促している。

 

なぜかDVDの割合も増加中?

中には「入れるものを細かく指定する系」の白ポストもある。その多くは「子どもたちに見せたくないコミック誌、写真集等はこの『白い箱』に入れて下さい。」(JR蕨駅)と紙媒体を指定している。しかし時代が進むにつれ、「青少年に見せたくない有害な雑誌ビデオ等はこの白ポストに入れて下さい」と書かれたJR近江八幡駅の白ポストのように、投入物に電子媒体が登場する。更に最近では「青少年に見せたくない雑誌・DVDなどは家庭に持ち込まないで、このポストに入れて下さい」(阪急芦屋川駅)と遂にDVDが書かれるようになった。ビデオテープやDVDを入れるのであれば、わざわざ駅前に設置する必要はないのでは……と思ってしまうが、回収物の中にDVDが占める割合は増加しているようである。

現代の白ポストに存在意義はあるか?

インターネットで手軽に画像が見られる現在、白ポストの存在意義は薄まっている気もする。しかし有害図書、ビデオ、DVDと呑み込むものを変えながら白ポストは今も日本各地で現役である。風雨に晒されて古びた姿になりながら、「街の風紀を守っていますよ」という雰囲気で駅前にひっそり佇む白ポスト。投入するものは持ち合わせていなくとも、街角で出会ったときにはまた旧友に会ったていで写真を撮っておきたい。

オギリマコレクション

絵・文・写真=オギリマサホ

M&M’sというチョコレートをご存じだろうか。赤、黄、青のカラフルな糖衣をまとったアメリカ生まれのチョコレートで、「お口でとろけて、手にとけない」というキャッチコピーも有名だ。
紫陽花の咲く季節、高幡不動の駅を降りて参道を歩いていた時、ふとパチンコ店の店先に目が留まった。3歳児くらいの大きさはあろうかという、巨大な熊のぬいぐるみが座っている。その瞬間、これまでに見てきた数々の店の様子が頭に浮かび、そして思った。「なぜ商店は巨大な熊を店頭に置きたがるのだろうか」と。