趣味から極めたカレー作り
JR高円寺駅北口から純情商店街を抜けて、高円寺庚申通り商店街の途中に現れる『スパイスカレー青藍』。ここまでの道中も、さすが10以上もの商店街を抱える街だけあり、たくさんの商店を眺めながら楽しい時間だった。
店内には、カウンター席がずらりと並ぶ。券売機での先払いシステムとなっており、まずは食券を購入する。この店の看板メニューは、スパイシーチキンカレーZ定食。この店のコンセプトである“香りを食べるカレーライス”を体現している一品で、店主の梶田さんも初めてこの店を訪れた客には、まずこちらをおすすめしている。
早速、梶田さんが厨房でカレー提供の準備を始めた。大きなケースの中には、オリジナルでブレンドされたホールスパイスがたっぷり。それをフライパンに入れて、油と炒める。
ほどなくして、スパイスの香りが店内を包み込む。その後、寸胴からカレーをすくって加え、ひと煮立ちさせたら鮮やかなターメリックライスの上に回しかけていく。
そのまわりには色とりどりの副菜。梶田さんは、この作業をオーダーごとに行う。それもすべて、いかにスパイスの香りをフレッシュな状態で提供できるか計算されてのことである。
辛さよりもスパイスの効いたカレーにこだわる梶田さんは、会社員時代から独自のカレー作りを続けていた。その美味しさが仲間内で評判となり、2014年から西早稲田のバルでカレーイベントを開催することに。3年後、独立をきっかけにIT系事業と二足のわらじで、平日ランチだけの営業となる間借りカレー店を高田馬場でオープンした。
今でこそ、都内のあちこちに間借りカレー店が増えているが、当時はまだそれほど多くなく、梶田さんの店はその先駆けといえる存在だった。間借りカレー店での活動を通して、さらに多くの客の反応に触れる機会を得たことで、梶田さんは次第に自身の店を持ちたいと思うようになったと話す。そして同年11月、高円寺に『スパイスカレー青藍』をオープンした。
スパイスカレーの新境地
さて、出来たてのスパイシーチキンカレーZ定食をいただいてみる。ひと口頬張っただけで、梶田さんこだわりのスパイスの香りが鼻孔に達するのではないかと思うくらいまで広がり、続いて刺激的な爽快感が口いっぱいに押し寄せてくる。直前に炒めていたホールスパイスがよい仕事をしており、カルダモンやクミン、花椒(フォアジャオ)などの香りと刺激が、咀嚼するごとに新鮮な状態で感じられるのだ。
また、カレーの食べ歩きを趣味としている梶田さんの経験から、毎日でも食べられるような“軽さ”を意識して作られているのも、このカレーの特徴。そのため、バターや小麦粉などは使わず、鶏ガラやかつお節、昆布出汁などで旨味を出している。「ラーメンのダブルスープのようなものですね」と、梶田さん。油分を抑えて旨味をプラスすることで、カレー全体に軽さが出て、スパイスの香りもより一層引き立つのだそうだ。
製法のこだわりはほかにも。玉ねぎを、炒め玉ねぎ、ボイルした玉ねぎ、オニオンパウダーの3種類に分け、それぞれ適した工程で使用することで、コクと甘みの奥行き、そして香りが生まれるという。また、調理段階ごとに食材を寝かせるのも美味しさの秘訣で、提供されるのは5日前から仕込まれた熟成カレーとなる。
カレーのまわりに添えられた野菜も忘れてはいけない。メニュー名に“定食”とあるように、この野菜惣菜もセットで一つのメニューなのだ。よくある付け合わせとしての野菜という存在ではなく、味わいや食感、栄養のバランスまで考えられた、カレーと一緒に食べても美味しい野菜総菜に仕上がっている。
スパイスカレーの概念を覆すような、新感覚の味わいが魅力のスパイシーチキンカレーZ定食。梶田さんのスパイスにかける想いもかみしめることで、カレーのさらなる境地に達したような気がした。
『スパイスカレー青藍』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英