コーヒー店オーナーからの次なる挑戦

西荻窪駅から高架下沿いを荻窪方面へ数ブロック歩くと『浅煎りコーヒーと自然派ワイン Typica』(以下Typica)にたどり着く。入り口付近にかけて一面ガラス張りの造りが目印で、店の外からも開放感あふれる店内の様子がうかがえる。カウンター席とテーブル席がゆったりと配された空間で、訪れる客をもてなすのは、オーナーの相原さんと妻の沙季子さんだ。

相原さんは、吉祥寺にあるコーヒー店『LIGHT UP COFFEE』を開業した経歴の持ち主でもある。そこでバリスタとしての経験を培うも、事業が拡大していく中で、次第に従業員のマネジメント業務に追われていく状況に、自身が求めていたこととのギャップを感じるようになったという。「自分で店に立って、お客様に伝えていきたい」という想いを強く抱いていた相原さんは、6年間運営に携わってきた同店を退職することを決意。その後、2020年9月に夫婦で『Typica』をオープンした。

店を切り盛りする相原民人さんと妻の沙季子さん。

この店をオープンするにあたって、相原さんが着目したのは“食のセレクトショップ”という視点。コーヒーを通してさまざまな食に触れていく中で、それぞれにコーヒーと同じように生産者の想いや考えが込められていることに気付かされた。そのことがきっかけとなり、コーヒーだけではなく、「もっと多面的に、いろんなものを扱うお店がやりたいというビジョンが明確になっていった」という相原さん。そして、専門店の持つ専門性とカフェの持つ多様性を組み合わせた、“食のセレクトショップ”のような店があったらおもしろいのではないかと考えた。

和紅茶の茶葉(上)とコーヒー豆の販売も。

その考えが如実に反映されているのが、この店で提供しているワイン、コーヒー、紅茶すべてに「檸檬」や「調和」など風味に由来した7種類の名前をつけ、カテゴリ分けしている点である。店の看板に掲げた、相原さんの原点である“コーヒー”と、相原さんがさまざまな食を勉強した中で一番ハマったという“ワイン”。それら一つ一つの専門性と、ワインやコーヒーというジャンルを越えた横の多様性を組み合わせることで、目指していたビジョンをかたちにさせた。また、銘柄で判断できなくても、カテゴリの名前で味を連想させることができれば、お客さんがオーダーしやすいのではないかという配慮もあったようだ。

コーヒー(ホット)500円。

さらに、相原さんはこのような期待も口にする。「例えば、檸檬のカテゴリにあるワインを飲んで美味しいと思ったら、コーヒーも檸檬のカテゴリのものを気に入ってもらえるんじゃないかと思うんです。そういう選び方をすることで、コーヒーを飲んでワインが好きに、ワインを飲んでコーヒーが好きになってくれるお客さんが増えたら嬉しいです」。

コーヒーやワインのカードも一枚一枚手作り。

扱うドリンクの全銘柄には、それらの生産過程のストーリーを織り交ぜたカードも作成。オーダーしたお客さんに、ドリンクとセットで提供している。そこには、「素晴らしい美術作品に触れたときのような感覚で、カードの情報を解説代わりに、生産者がその液体に込めたメッセージを読み解いてほしい」という想いが込められている。

ほかでは食べられない“邪道系”パフェ

季節のパフェ1200円。

オープン当初からメニューに並ぶパフェも、この店の人気メニュー。ワインやコーヒーとどう引き立て合うかを考えながら、毎月テーマを変えて、コース料理のように風味や食感までこだわり抜いて作られている。ここでしか食べられないような組み合わせも特徴で、五香粉のアイスクリームやキュウリのしば漬けなど、パフェのパーツとしては珍しい食材を使った斬新な構成も人気の一つだ。

ギミックを取り入れるなどエンタメ性も意識。

また、取材時に提供していた「梅雨のパフェ」(現在は終売)には、遊び心のある仕掛けが施されていた。紫キャベツのアイスクリームに別添えのレモン汁をかけると、それぞれの成分が反応して、アイスクリームの色が紫からピンクに変わるのだ。相原さんは、そんなエンターテイメント性も意識しているという。

ほかにも、これまでワインに合う前菜系のおつまみを15種類ほど提供していたが、緊急事態宣言の影響で、2021年6月中旬の取材時にはフードメニューが大きく変更。今後、状況に応じて徐々にメニューを復活させていくという。

生産者の想いを伝えながら、人生を豊かにしてくれる嗜好品の楽しみ方を啓蒙する相原さん。『Typica』を訪れたら、きっと今までとは異なる感覚で食を楽しむことができるはずだ。

『浅煎りコーヒーと自然派ワイン Typica』店舗詳細

住所:東京都杉並区西荻南3-18-10/営業時間:13:00~21:00/定休日:水・木/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩3分

取材・文・撮影=柿崎真英