日本酒は飲んで食べて2度おいしい
きっかけは、約10年前。アサリの酒蒸しをつくるときに、片手間に飲んでいた日本酒を勿体ないなあと思いつつ、なんとなくジャ〜っと注いだことでした。待つこと数分。完成した酒蒸しを味見してびっくり。アサリはぷっくりして甘く、何と言っても汁が旨い。貝の旨味と日本酒の旨味が淡く重なり、しみじみとした滋味になる。日本酒は、素材を生かして料理をおいしくすると実感します。
また、その汁をすすった後に飲む日本酒は、さらにおいしい。そうか、とひとりごちる。どんなつまみを合わせたらわからないときは、飲んでいる日本酒を料理に使えばいいのだと、このときにハッとしたのでした。
以来、日本酒は飲みものというだけではなく、料理の相棒として活躍しています。
肉や野菜を炒めている最後に日本酒を少し注ぐと、素材の味がまろやかになり、香りもいきいきします。前に紹介したマグロの漬けや七味に入れるなど、火を通さないつまみにも使うと日本酒の旨味が加わり、日本酒のほのかな苦味が舌を飽きさせないアクセントになるので、酒もつまみも進んでしまいます。
日本酒の底力がもっとも発揮されるのは、煮物でしょう。
わかりやすいのは玉ねぎや人参、ジャガイモ、トマトなどの野菜で、おいしい日本酒を加えて煮ると野菜の甘みが深くなり、汁の旨さは感涙ものです。日本酒が秘めている自然な旨味や甘味が、野菜と一緒になることでさらに花開くのです。
というわけで使っていただきたいのは、その時々に飲んでいる日本酒がベストです。でも、開封後、少し味が落ちたかな、つまり、開けたてに比べるとおいしさに影が出てきた日本酒も無理して飲んだり、いつまでも放置するくらいなら、どんどん料理に使うのがおすすめです。
料理に使うことで、日本酒のおいしさは再び蘇ります。日本酒は、飲んで食べて2度おいしいアルコールなのです。
おいしい日本酒で鮎のつまみをつくる
今回のつまみは、日本酒のおいしさが再び花開く一品。それが、実山椒と鮎が旬の季節になると必ずつくる、鮎の酒煮です。このつまみは、日本酒の味も重要なエッセンスになるので、ぜひとも飲む日本酒でつくってほしいです。
鮎2尾、キュウリ一本、実山椒小さじ2、塩小さじ4、日本酒、水。
汁もつまみにするので、できれば水もおいしいものを使ってくださいね。また、このつまみは常備つまみにするため、鮎を2尾使いますが1尾でも。その場合の材料は上記の半分です。
今回飲むのは、奈良県の「風の森」です。メロンのような凝縮した果実味があり、一般的な日本酒に比べて17度と度数が高く、全体的にリッチな味わいです。
もちろん「風の森」も料理に使いますよ。写真にあるコップの1/3くらいの量を用意します。
鍋かフライパンに用意した日本酒を注ぎ、鮎が浸るくらいの量の水を加えて火をつけ、中火弱で煮ていきます。
おいしい日本酒がたっぷり入ったフライパンに、浮かぶ鮎がうらやましくなり、つい舌なめずり。私もここに浸りたい!
フライパンの中が少し温まってきたら実山椒と塩を入れ、軽くフライパンを揺らして全体をざっくり混ぜます。
短冊切りにしたキュウリも入れ、吹きこぼれないように注意しながらさらに煮て、汁の塩味を鮎やキュウリに染み込ませましょう。5分くらい煮たら完成です。
粗熱をとったら鮎が崩れないように汁ごとタッパーに移し、冷蔵庫に入れて冷やしてくださいね。あとは涼しげな器に盛って、さあ、飲みましょう。
「風の森」は度数が高いので、今回はロックにしてみました。ロックにするとまったりした甘みが少しシャープになり、香りが高くなります。カラカラという氷の音も涼しげで、耳元も気持ちいいですよ。
鮎の苦味やキュウリの青さと、メロンのような風味の「風の森」が合いすぎて、ひとりで静かに唸る私。メロンとキュウリはどちらもウリ科なので、酒とつまみの風味がスッと重なります。鮎のワタと実山椒のニガ辛コンビも、飲んべえの心をわしづかみ。この苦味がたまらないのです。
ちなみにキュウリは煮てもおいしいんです。火を通したズッキーニの食感に似ているかもしれません。
汁の旨さはぜひ飲んで体感してほしいです。日本酒の甘味と鮎の旨味、苦味が一体になった塩気がある汁は、最高のつまみになるんです。それもこれも、おいしい日本酒のおかげですね。
そのまま飲んでもいいのですが、ところてんに汁をかけるのもおすすめです。実山椒の鮮烈な辛味と汁のほろ苦さが、つるつるのところてんによく絡んですてきな大人味に。実山椒の香りも涼やかです。これまた日本酒が止まらなくなりますよ。
私が開けた「風の森」はもうすぐ空になりそうで、む〜悩ましい。
文・写真=山内聖子