塩見さんの人生に影響を与えたある職人との出会い

西荻窪駅から神明通りを吉祥寺方面に歩くことおよそ10分。一本路地を入ると、小さな看板が見えてくる。金曜と土曜の週2日だけオープンするカフェ『La Petite Surprise』だ。

焼き菓子や生菓子が並ぶ。

扉を開けると、焼菓子が並ぶカウンターとその下の生菓子が入ったガラスケースが目に留まる。反対側には2人掛けのテーブル席が3つ並び、奥には厨房がのぞく。

店主の塩見さんが自宅の1階部分を利用し、この店をオープンさせたのは2017年のこと。そのきっかけを「スイーツを食べることが好きだったから」と話す。スイーツ好きが高じて、自身でも本格的なスイーツ作り、さらにはカフェ経営を始める人は多いが、彼女はほかとはひと味違うバックグラウンドを持っていた。

店内の奥には本格的な厨房がのぞく。

銀行員として長らくキャリアを積んでいた塩見さんは、スイーツの食べ歩きを趣味にし、次第に作ることにも興味を持ちはじめたという。フランス菓子教室のレッスンを受けながら、さまざまなパティスリーの開拓に励む日々。その後、結婚して仕事を辞めたのを機に、フランスへ短期留学の旅に出る。そうして、本場の洋菓子作りの技術を学んだ塩見さんが帰国して新たにスタートした仕事はWebライターだった。

「その頃は年齢の壁を感じて、パティシエの仕事、ましてや自分で店を開くなんてことはできないと思っていたんです」。それからは、パティスリーとブーランジェリーを営む多くのシェフの話を聞きながら、彼らの技術を目の当たりにしてきた。そこで、後の塩見さんの人生に大きな影響を与えることとなる一人の菓子職人と出会う。

塩見さんが作るお菓子もシンプルながら奥行きのある味わいが特長。

「当時は、華やかで複雑なお菓子がもてはやされていた時代でした。私がそれまで取材をしてきた方たちも、そういったお菓子を得意とする方ばかりだったのですが、そんな中で出会った彼が作り出すお菓子はどれもシンプルだったんです。実際にいただいてみると、それはもう美味しくて。シンプルでいながら奥行きのある味わいに、衝撃を受けたんです」。

トレンドに左右されず、自分の信念を貫き通す姿勢から、「私も自分独自の味作りで人の心を動かす菓子を作りたい気持ちになった」と話す塩見さん。それから一念発起し、パティスリーやカフェで修行を積み、洋菓子作りの道を極めていった。

誰もが知っている定番スイーツに“驚き”をプラス

これまで趣味で学んできたことや、Webライターの取材を通じてプロから見聞きしたこと、そして修業で身に着けたことのすべてを総動員して、塩見さんオリジナルの「優しい味でありながら奥行きのある」スイーツを作り上げる。その多くは、ショートケーキやプリンなど、よく知られた定番のものばかりだ。しかし、ひと口食べると今まで抱いていたイメージを上回る美味しさで驚きを与えるのが、この店のスイーツの特徴である。

苺のショートケーキ650円、ホットコーヒー500円。

ショートケーキなら、粉を少なめにし、卵黄を多めに使用することで、しっとりと仕上げたスポンジケーキに、乳脂肪分100%の生クリームでデコレーション。実際にいただいてみると、スポンジと生クリームの口当たりが同じくらい滑らかなため、飲めるような食感が味わえる。スポンジとフルーツの間にはカスタードを挟み、味に深みを出しているという。フルーツは、イチゴやアメリカンチェリー、桃など、季節によって変化するため、一年を通して楽しめるのも魅力だ。

有精卵のカスタードプリン600円、ホットコーヒー500円。

また、イートインでしか味わえないプリンも、卵黄を多めに使用してリッチな味わいを表現している。そこに、生クリームとキャラメルをミックスしたクリームとキャラメリゼしたナッツをトッピング。そうすることで、味わいと食感に変化が生まれ、最後まで飽きずに食べることができるという塩見さん流の“サプライズ”が加えられているのだ。

「少量ずつ丁寧に作り立ての美味しさ」をモットーに作り上げられる塩見さんのスイーツは、仕込みに手間暇が掛けられている分、シンプルながらも手の込んだ美味しさが伝わってくる。ぜひあなたも、『La Petite Surprise』で“小さな驚き”を味わってみてはいかがだろう。

『La Petite Surprise』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺東町4-10-11/営業時間:12:00~18:00/定休日:日~木/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩10分

取材・文・撮影=柿崎真英