『酒房たちばな』由紀子ママ
「最近はフィットネスジムに通って運動を頑張ってるの」
『酒房たちばな』の扉を開けると、粋な洋装の由紀子ママ(66歳)が迎えてくれた。ご覧の通り、横丁のファッションリーダー的な存在である。
「前はね、イッセイミヤケの『プリーツプリーズ』が好きだったの。でも、この髪にしてから似合わなくなって、今は『45R』ばっかり」
表では中国人のアルバイト女性が通行人に声をかけている。コロナ自粛で店を閉めている時は生活が大変だろうと、スマホの操作を教えてもらうお礼としてバイト代を払っていたそうだ。
赤羽の人情、ここにあり。
一番街の左手にある路地がOK横丁。この店は群馬県渋川市出身のママが30年ほど前に始めた。調理師・栄養士の資格を持つ彼女が作る看板メニューはおでん。カキやホタテなどを毎日補充する出汁がじつに絶品なのだ。
「『出汁もらえませんか?』って言う客もいるけど、出汁が一番高いんだから悪いけどあげられないよ(笑)」。
最後はこの出汁を使ったおでん雑炊715円で締めるのがたちばな流。
『酒房たちばな』店舗詳細
『青森』満子ママ
「ハリウッドにいたのは1年ぐらい。お客さんと踊ったりしてさ」
2軒目は青森県弘前市出身の満子ママ(77歳)が切り盛りする『青森』。5年前に居酒屋に業態替えしたそうだが、中身はどう見てもスナックだ。
「お兄さん、ちょっと待っててね! お通し、今出すからね!」
ハスキーボイスと津軽弁のイントネーションが旅愁をかき立てる。そんな満子ママの趣味は麻雀だという。
「私は一人で雀荘に行くの。ほぼ毎日よ。お店を開けなきゃなんないから、半荘2回しかできないけどね」
ちなみに、この店は周年パーティーの類いを一度もやったことがない。
「だって、お客が損するんだもん。みんな包んでくるじゃない」
赤羽、やはり人情の街でした。
青森県弘前市出身のママは2018年に惜しまれつつ閉店した赤羽の有名キャバレー、「ハリウッド」にも在籍していた。この店をオープンさせたのは40年近く前。ドリンク単品が1杯550円~、ボトルを入れるセット料金は1100円という赤羽価格がうれしい。
この日いただいたのは津軽の銘酒、じょっぱりの並々盛り660円。お通し550円はママお手製の春雨。こちらもおいしゅうございました。
『青森』店舗詳細
取材・文=石原たきび 撮影=加藤昌人
『散歩の達人』2021年6月号より