中野駅前エリアを抜けて、暮らしの音のする門前町へ
中野ブロードウエイを越え中野駅の活気から早稲田通りを越えると、人々の歩みも薬師あいロード商店街の速度へと変わる。大正時代からの店もあるという、縁日を中心にした生活の残る通りには味噌屋さん、呉服店といった昔ながらの専門店が並んでいる。そんな中、ガラスケースに和菓子や総菜が並ぶ店先から手招きするように誘う「みつ豆」の暖簾(のれん)をくぐると店奥の厨房から声がかかる。ゆったりした座卓へと腰を据えると、周囲は和菓子とお茶を楽しむひとあり、ラーメンをすするひとありの昼下がりらしい時間が流れている。
毎日、あずきを煮てお餅をついて。チャーシューも手作りよ
昼の一番人気のラーメンだが、ここは甘味処でこその餅入りラーメンを選んでみてほしい。客席と同じくらいの奥行きのある厨房では、ちゃんと杵つきの餅を網で炙る。餅はぷっくりと膨らんで割れたり剥がれたりしない。
餅が美味しいなあ、としみじみ。そりゃあ本職だからと言いますが、さりげなくチャーシューも自家製。お餅とチャーシューがそれぞれ売り切れたらその日はお終い。なのであまり遅いとこのセットはお目にかかれないそう。
こちらが甘味処の本領、一番人気のクリームあんみつを召しあがれ
餅だけでこの説得力、入り口で見た和菓子やお品書きの札を眺めて目移りの末、一番の人気を問うとご夫婦で顔を見合わせ、やっぱりクリームあんみつかな?と頷き合う。一緒にお願いします!と頼むと、よく出るのもあるけど奥さんと来た旦那さんとか男性がよく頼まれるんですよ、とにっこり。子供の頃からのアイドルのような艶姿はそりゃあ一生ついて行きたくなるもので。
三代目、変わらず愛し愛される通りとお店の関係
昭和9年に初代がお店を開けてから、2021年で87年。子どもの頃からお店の手伝いをしていた繁さんが、和枝さんとお店に出るようになって37年、三代目として店を継いでからもう17年ほどになるという。そんな話を聞いている間も、厨房の奥で仕込みに励む繁さんを眺めつつ「奥の大きな機械であんこを作ってるのよ、御菓子もラーメンもこの人が毎日作ってるの。いなり寿司や、五目ごはんとかは私の手作り。」と和枝さん。
お昼や夕飯に毎日いらっしゃるご近所の常連さんも多い。「子どもの頃に親御さんに連れてこられたお客さんが、今度は自分の子どもを連れてやってくるような距離感、存在感の場所ね。気心がしれて、ざっくばらんに素直に話せる良いお人柄のお客さんが多いの。」
そう言いながら、大福を買いに覗くお客さんのもとに小走りで向かう和枝さん、見送りながら厨房で黙々と仕込みを再開する繁さん。集まるお客さんのお人柄の良さは、お店の姿でもあり、街や通りと長きに続く相思相愛の関係の理由(わけ)を映し出していた。
取材・文=畠山美咲 撮影=荒川千波