街の素敵なプラ看板たち

プラ看板に書かれている絵は、全体的に画力が高い、という印象を私は持っている。たとえば新井薬師前にある精肉店のプラ看板には、店名の周囲にしっかりとした筆致で描かれた牛・豚・鶏・調理された肉の絵があしらわれている。

牛・豚・鶏が余白にうまく配置された絵。料理は何の肉なのだろうか(2018年)。
牛・豚・鶏が余白にうまく配置された絵。料理は何の肉なのだろうか(2018年)。

何のてらいもない、誠実な作風は好感度が高い。府中の自転車店のプラ看板に描かれた女性も、かっちりとした迷いのない線であらわされ、正方形という難しい構図の中にぴったりと収まってさわやかな雰囲気を醸し出している。

ペダル等の余計な要素を省き、シンプルに自転車を描いている上手さ(2020年)。
ペダル等の余計な要素を省き、シンプルに自転車を描いている上手さ(2020年)。

一方、かわいらしいキャラクターが描かれているケースもある。狛江の総菜店やつつじケ丘のカラオケ店には、店名から着想を得たと思われる、コマドリやペキニーズの絵が描かれていて微笑ましい。

色あいがコマドリっぽい鳥のキャラクター(2021年)。
色あいがコマドリっぽい鳥のキャラクター(2021年)。
ペキニーズっぽさが出ていてかわいいキャラクター(2021年)。
ペキニーズっぽさが出ていてかわいいキャラクター(2021年)。

三軒茶屋の「キッチンおばさんのお店」に描かれる女性も、ゆるいタッチの絵柄ながら、配色にセンスがあって素敵である。

この女性がキッチンおばさんだろうか(2009年)。
この女性がキッチンおばさんだろうか(2009年)。

ザ・80年代な絵柄のプラ看板

そしてプラ看板はなぜか、80年代的な絵柄と親和性が高い。北赤羽の理髪店は店名の字体も含めてまさに「ザ・80年代」という感じであるし、北千住のベーカリーのキャラクターも、80年代の小学生女子が持っているぬいぐるみのようなクマである。

店名がひらがな表記なところも80年代っぽい(2021年)。
店名がひらがな表記なところも80年代っぽい(2021年)。
こういうキャラクターがサンリオなどにいた気がする(2021年)。
こういうキャラクターがサンリオなどにいた気がする(2021年)。

三軒茶屋の携帯ショップ(現在は別の店が入っており、看板だけが残されたものと思われる)のプラ看板は、携帯ショップなので恐らく90年代の看板だろうが、パステルカラーの配色が何とも80年代的だ。

二つ折りの携帯が時代を感じさせる(2021年)。
二つ折りの携帯が時代を感じさせる(2021年)。

切り絵系プラ看板の美

ところで、この携帯ショップの看板のように、プラ看板の絵柄の特色の一つは「切り絵のような表現技法」ではないだろうか。実際にカラーのプラ板を切り抜いて作られているものもあり、そのぎこちなさも味わい深い。こうした切り絵系プラ看板は、配色の美しさにも注目したいところだ。

絵ではないが、色の組み合わせがかわいらしい銭湯の看板(2021年)。
絵ではないが、色の組み合わせがかわいらしい銭湯の看板(2021年)。

三軒茶屋の青果店のプラ看板は、店名の両端に盛りだくさんの野菜や果物の絵が切り絵風にあしらわれている。

同じプラ看板の左と右に野菜と果物が勢ぞろい。全体的に迫力がある(2021年)。
同じプラ看板の左と右に野菜と果物が勢ぞろい。全体的に迫力がある(2021年)。

一つ一つの野菜を見てみればぎこちなさもあるが、全体としてカラフルで迫力のある絵になっており、こういう勢いのある絵を描いてみたいと思わせる。一方、草津温泉の酒店の切り絵系プラ看板は、湯もみをする女性たちが細かく描かれていて、バランスの良い仕上がりになっている。

これを切り絵で作ろうとすると、かなり細かい作業になる(2019年)。
これを切り絵で作ろうとすると、かなり細かい作業になる(2019年)。

かわいらしい切り絵系プラ看板もある。新宿のフルーツパーラー、狛江の寿司店のプラ看板は、果物や寿司がちんまりと切り抜かれていて、まるで色画用紙で制作したかのような愛らしさがある。

色画用紙で作ったような、かわいらしいフルーツ盛り合わせ(2020年)。
色画用紙で作ったような、かわいらしいフルーツ盛り合わせ(2020年)。
細部は割と凝っているが、全体的に見るとかわいらしい寿司(2021年)。
細部は割と凝っているが、全体的に見るとかわいらしい寿司(2021年)。

プラ看板は屋外で日光や風雨に曝され、いずれ劣化していくものでもある。永久に残り続けるわけではない街角の絵たちを、せめてその看板が設置されている間は、楽しんで鑑賞していきたいものだ。

絵・取材・文=オギリマサホ

私は夜の街が好きだ。と言っても、夜に営業する店に行くのが好きな訳ではない。きらびやかな照明に彩られた繁華街の風景を、ただぼんやり眺めるのが好きなだけである。逆に山奥の夜はあまり好きではない。真っ暗で怖いからだ。バイクで遠出をする時も、夜は必ず街に宿泊し、その土地で最も栄えている街をぶらつくことが多い。灯りに囲まれている方が安心できるのだ。光のある方にフラフラと引き寄せられる私は、前世が蛾か何かだったのかも知れない。
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