今和泉隆行
今和泉 隆行
空想地図(実在しない都市の地図)を描く空想地図作家。通称「地理人」。近著は「どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本」(だいわ文庫)。

赤羽は昼飲みの聖地! 北千住は……?

吉玉 : 編集部曰く、「赤羽と北千住は街の規模こそ異なれど、どちらも活気ある酒場や商店街があって、暮らしやすさも向上中の“穴場”と言われ、ライバルともいえる街」とのことですが、赤羽と北千住にはよく行きますか?

今和泉 : 頻繁には行かないですけど、もちろん行ったことはあります。北千住のほうが行く頻度は高いですね。

吉玉 : 私は今日(※緊急事態宣言前)初めて行ってきました。赤羽と北千住って遠いんですね。なぜか隣町だと思い込んでいました。

今和泉 : 初めて行って迷いましたか?

吉玉 : 両方とも迷いませんでした! 目的地が決まっていたらたどり着けなかったかもしれないけれど、気ままに歩くぶんには大丈夫です。

今和泉 : 赤羽の一番街(飲み屋街)はどうでした?

吉玉 : そこも迷いませんでした。お昼頃行ったんですけど、小さな赤提灯のお店がたくさん営業していましたね。テラス席というか、お店の前にテーブルが出ていて昼飲みできるような。そのあと北千住に行ったんですが、北千住はあまり昼間にやっている飲み屋がなくて。

今和泉 : たしかに、北千住はそんなに昼飲みのイメージはないですね。

吉玉 : 北千住の飲み屋街はどこなんでしょう? 北千住駅の西口側を歩いてみましたが、赤羽みたいな飲み屋街は見つけられませんでした。

今和泉 : そう、北千住は飲み屋街がわかりにくいんですよね。駅の西側には「千住ほんちょう商店街」「宿場町通り商店街」「北千住サンロード」などの商店街がありますが、飲み屋より生活用品店の割合が大きい。西口南側に「飲み屋横丁」というディープなのがありますが、あとはポツポツ散らばっているんです。だからこそ、穴場を探すのが面白い街だと思います。一方で、赤羽は一番街にガッと飲み屋が集まっているから、飲んべえにとっては吸引力のある街でしょうね。

吉玉 : たしかに赤羽=せんべろってイメージですよね。でも、赤羽のおすすめスポットを検索したら意外とカフェが出てきたんですよ。いくつか出てきたんですが、それらのカフェが、赤羽駅よりも地下鉄赤羽岩淵駅のほうに近いんです。そういうお店を目指して歩いたら迷ったかも。

今和泉 : へぇ、赤羽でカフェ!(スマホで検索する)本当だ、意外とおしゃれカフェも多いんですね。赤羽駅周辺は家賃が高いから、赤羽岩淵駅のほうでカフェを始める人が多いのかな。

飲み屋ばかりが目について、カフェのイメージがない赤羽。実は教えたくないほど素敵なカフェや喫茶店が潜んでいる。こだわりのコーヒーにスイーツ、音楽、インテリア……と、店主の好きな物で満たされた店内は、まさにワンダーランド。でも、構えなくても大丈夫。コーヒーは飲みやすさ重視のブレンドで、店主も赤羽出身か、ゆかりの人が多いから。勇気を出して扉を開けて赤羽カフェを満喫しよう。

吉玉 : 北千住は、商店街の脇道にインスタ映えしそうなスイーツのお店がありました。

今和泉 : 北千住は、赤提灯とおしゃれな店が駅の近くに混在していますよね。逆に、駅から離れれば離れるほど古いお店ばかりになる。でも大学が増えたからか、駅の栄えてない側に新しいお店が増えてきています。

儲からなくても続けられるお店のひみつ?

今和泉 : 赤羽と北千住、それぞれ街の印象はどうでしたか?

吉玉 : 両方とも昔ながらの商店街があって、そこがいいなぁと思いました。どっちの街も、商店街にある八百屋さんが安くて羨ましいです。

今和泉 : そこはミソですよ。八百屋があるってことは、住人が多いってことです。昔から住み続けている人が多いし、引っ越してくる人も増えてますからね。

吉玉 : 昔からと言えば、北千住駅前通りの歩道に屋根がついているアーケード、すごく昭和っぽいですね。東京でもこんなアーケードがあるんだってびっくりしました。

今和泉 : むしろ東京のほうがありますよ。地方だと大型商業施設に飲まれちゃって、個人店があまり残っていないので。

吉玉 : たしかにそうかも。他にびっくりしたのが、北千住のアーケードにマスク屋がたくさんあったこと。いろんな種類のマスクが1枚50円くらいからあるんです。蛍光色とかキラキラしたのとか、よく言えばデザイン性のあるマスクを売るお店が乱立していました。

今和泉 : おぉ、今ってそんな感じなんですね!

吉玉 : 前からマスク屋のわけはないから、元は何屋だったのか気になります。

今和泉 : 上野とかでありがちな、常に閉店セールをしている店じゃないですか。

吉玉 : あ、たしかに閉店セールのポスター見かけました。

今和泉 : やっぱり!(笑)

吉玉 : 赤羽の商店街も、けっこうレトロなお店があってよかったです。化粧品屋の店先のワゴンに、普通のドラッグストアでは見かけない基礎化粧品が並んでいて。私のおばあちゃんが使っていたクリームとか。売ってるってことは売れるんでしょうね。

今和泉 : あるいは、売れてなくても成り立つとか。

吉玉 : そんなお店あるんですか?

今和泉 : 昔から店をやっていた人が、店を建て替えてビルにしたとします。仮にお店の名前が越後屋だったら、ビルに「越後屋ビル」みたいな名前をつけて、1階でお店を続け、2~5階をマンションや店舗として貸す。すると、家賃収入でやっていけるから、1階のお店は儲からなくていいんですよ。顔見知りが買いに来る程度でも慣性の法則で続く。

吉玉 : 慣性の法則って、力を加えない限り永遠に続いちゃうんじゃ……。

今和泉 : そういう店は、店主の体調や跡継ぎ問題によって閉店することが多いです。閉店すると、ビルの名前は「越後屋ビル」だけど1階は越後屋じゃなくてコンビニ……みたいになる。

吉玉 : そういうお店よくある!

駅の構造、出口の選択……駅そのものの迷いやすさは?

今和泉 : 駅構内に関しては、圧倒的に赤羽のほうがわかりやすいのでは。なんたってJR1社ですから。対して北千住は、JR・東京メトロ・東武鉄道・つくばエクスプレスが乗り入れてますからね。

吉玉 : 北千住は、千代田線の乗り場がわかりにくかったです。でも、改札を出て左右どちらに向かえばいいかの選択は赤羽のほうが難しい気がしました。

今和泉 : 方向音痴さんって、改札出て人の流れについていきますよね。

吉玉 : そうです。でも、赤羽は西口と東口のにぎわい度が同じくらいだったんですよ。人の流れも同じくらい。だからまずは東口に行って、そのあと西口を見ようと思いました。東口を出たらすぐに一番街の看板を見つけたので、「たぶんあそこが有名な飲み屋街だな」とわかりました。

今和泉 : ここの二択を間違えていたら、ヨーカドー側に出ちゃってたんですね。赤羽は東と西でまったく性格が違って、東は小さい店がひしめいているし、西はヨーカドーに代表される大型商業施設スペシャルですからね。

赤羽駅東口。一番街もすぐ。
赤羽駅東口。一番街もすぐ。
赤羽駅西口を出ると目の前に「イトーヨーカドー」が。
赤羽駅西口を出ると目の前に「イトーヨーカドー」が。

吉玉 : 北千住は、どっちに行くか悩むことなくにぎわってるほうに出ました。

今和泉 : 北千住は、西口と東口の差がわかりやすいですからね。西口には「マルイ」と「ルミネ」があり、東口はがらんとしている。あと、北千住は建物の高さのコントラストが効いているんですよね。駅周辺の建物は大きいけど、それ以外はそこまで高くない。

北千住駅西口。ペデストリアンデッキ(高架歩道)が印象的だ。
北千住駅西口。ペデストリアンデッキ(高架歩道)が印象的だ。
西口とは明らかに雰囲気の違う北千住駅東口。
西口とは明らかに雰囲気の違う北千住駅東口。

吉玉 : たしかに、北千住は駅の方角を見失いづらいなと思いました。駅の周りを歩いていても、「あ! マルイだ!」って目印になるし。赤羽は意外とまわりのビルが多くて、ちょっと離れると駅が見えなくなってしまう印象でした。

北千住駅西口駅前のマルイ。
北千住駅西口駅前のマルイ。

道のわかりやすさと迷子トラップの存在

今和泉 : 赤羽はちょっと歩けばすぐ大きな通りに出られるというのがポイントです。道も歩道も広いし、そういう意味では赤羽は歩きやすいと思います。それに比べて北千住は、店に接している道が狭くないですか。たとえば宿場町通りと交差する細い通りにある飲み屋へ行くとして、初見でたどり着くのはハードルが高いと思うんですよ。あの辺は「これ、1本にカウントしていいのか?」と不安になるような細い小路があるから。

吉玉 : ありました! サンロードから駅のほうへ戻るときに、よくわからない動きをしているお兄さんがいたんですよ。両手を交互に空にかざしていて。その人がすごく細い小路に入って行ったので、「ここ通ってもいいんだ」と思ってついていったら、駅のほうに出ました。

今和泉 : 怪しい人についていっちゃダメですよ(笑)。あと、東口の商店街を抜けたあたり、ふにゃんと道が曲がっているところはトラップですね。昔の川の流路に沿ってて道が曲がってるんでしょう。赤羽も、西口の弁天通りと赤羽並木通りみたいに斜めになっている道は、地図で見た瞬間に気を付けるタイプの道です。西に行くのかなと思ったら南に向かってたり、北に向かってたりするので。

北千住の細い路地。
北千住の細い路地。

吉玉 : そういえば、さんたつ編集長が「赤羽も北千住も北を取りづらいのではないか」と言ってたそうなんですが……「北を取る」って言い回し、初めて聞きました(笑)。意味はなんとなくわかりますが。

今和泉 : 方向感覚ある人の発言ですよね。

吉玉 : 逆に聞きたいんですが、たとえば駅を出てどのように北を取るんですか?

今和泉 : たぶんですね、この会社(交通新聞社)の人はある程度、地図と路線図が頭に入っているんですよ。電車に乗っているときすでに、進行方向から方角を割り出していて、電車を降りてすぐに東西南北がわかるんでしょう。だけど、赤羽も北千住も、駅が南北から微妙に斜めになっているから、北が取りづらいのでは。

吉玉 : 電車を降りてすぐ方角わかるとか、それもう特殊能力ですよ。

決め手はミスド!? 住むならどっち

吉玉 : 印象がよかったのは赤羽です。物理的に広い感じがするから。

今和泉 : あぁ、それはそうだと思います。北千住は道路が狭くて、建物がギチギチに立っているから。地図を見比べるとわかりますが、赤羽のほうが道路が広くて、建物ひとつひとつが大きい。

吉玉 : 私は北海道出身なので、パーソナルスペースを確保できないのが嫌なんですよ。視界が狭いのが落ち着かない。だから赤羽に惹かれるけど、北千住は「マルイ」と「ルミネ」があるから便利だし……。

今和泉 : 私も多摩地区で育った人間として、駅ビルの重要性は痛いほどわかります。食品も本屋も電気屋も、買い物がすべて1つのビルで済ませられる便利さは捨てがたい。車が運転できて郊外に行けたら、駅ビルじゃなくてもいいんですけどね。

吉玉 : そうなんです!

今和泉 : 「マルイ」と「ルミネ」って、吉玉さんが住んでいる町田と同じ組み合わせですね。そういえば、最近町田に行ったら「東急ツインズ」の力が弱まってまして……。

吉玉 : 力……!?

今和泉 : 入っている店舗の引力が弱まっている気がします。

吉玉 : 能力者バトルみたいですね。

今和泉 : 「マルイ」と「ルミネ」のバトルも、「ルミネ」が完全に勝者になってしまいましたし。

吉玉 : そうなんですか?

今和泉 : 以前なら「マルイ」と「ルミネ」を行き来する人たちでにぎわっていたのに、今はもう、町田市民のみなさんが「ルミネだけでいいんじゃね?」と思っているような……。

吉玉 : それは今和泉さんの主観では……?

今和泉 : 小田急も百貨店度を弱めてきているし、町田の勢力図が変わってきましたね。そんな町田を支える「マルイ」と「ルミネ」の組み合わせが、北千住にもあると。

吉玉 : でも、赤羽には「ミスタードーナツ」があったんですよ。近年どんどん減ってきている貴重なミスドが。だから赤羽でミスドを見つけて、「ここは絶対いい街だ!」と嬉しくなりました。ミスドがある街って大抵いい街ですよね。

今和泉 : そんな観点があるんですね(笑)。

吉玉 : 北千住は、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」があったんですよ。クリスピーも嫌いじゃないけど、ちょっとがっかりしちゃって。北千住にもミスドがあれば、街の好感度が引き分けになるのに。

今和泉 : (スマホで検索する)「ミスタードーナツ北千住ショップ」、「マルイ」の1階にありますよ!

吉玉 : やった!

今和泉 : 赤羽と北千住、好感度対決は引き分けですね。

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結果、今和泉さんと吉玉の独断と偏見による「赤羽vs北千住」対決結果はこちら。

・駅の構造の明解さ……赤羽勝利
・東西出口の違い、改札を出て最初の一歩のわかりやすさ……北千住勝利
・目印の存在と見えやすさ……北千住勝利
・迷子トラップの少なさ……赤羽勝利
・好感度……引き分け

というわけで結果は引き分け!

個人的に、どちらの街も歩けば歩くほど味が出てくる気がします。それが可能な状況になったら、たくさんお散歩したいです。

 

さて後編も引き続き今和泉さんとのおしゃべりです。コロナの影響で変化した空想地図界隈の話や、吉玉の地元・札幌の“執念”の話など、話題はますますあらぬ方向へ。次回もお楽しみに!

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama