「孤高の画家」像に投げかける新たな光

髙島野十郎《絡子をかけたる自画像》大正9年 福岡県立美術館(左)、《蝋燭》大正時代 福岡県立美術館(右上)、《壺とりんご》大正12年 福岡県立美術館(右下)。
髙島野十郎《絡子をかけたる自画像》大正9年 福岡県立美術館(左)、《蝋燭》大正時代 福岡県立美術館(右上)、《壺とりんご》大正12年 福岡県立美術館(右下)。

本展では、約170点の絵画作品と書簡などの資料を展示。「孤高の画家」と称されてきた野十郎の交友関係や、同時代の画家から受けた影響にも光を当てる。

29歳の野十郎の姿を捉えた《絡子をかけたる自画像》に始まる第1会場には、フランスなど欧州各国を旅しながら描いた風景画や、光の一粒一粒に至るまで緻密に描いた静物画などが流れるように並ぶ。

また、《海の幸》などで知られる青木繁をはじめ、野十郎と交友のあった画家たちの作品や、同時代の画家からの影響が見られる野十郎作品も展示。美術団体にほとんど属さず、強い精神性を感じさせる作品を残した野十郎だが、その芸術を深化させた背景や、親密な関わりを持った人々の言葉と重ね合わせることで、「孤高の画家」像の再検討を試みている。《月》や《けし》、《からすうり》といった代表作と静かに対峙しながら、野十郎の画業の背景にあった時代や、日本近代美術の空気を感じることができる。

第1会場より。野十郎の存在を世に知らしめた髙島野十郎《すいれんの池》昭和24年 福岡県立美術館 に目が引きつけられる。浄土宗住職の家に生まれ宗教をテーマにした作品を手がけた洋画家・古賀春江など、野十郎と交流のあった画家の作品も多数展示する。
第1会場より。野十郎の存在を世に知らしめた髙島野十郎《すいれんの池》昭和24年 福岡県立美術館 に目が引きつけられる。浄土宗住職の家に生まれ宗教をテーマにした作品を手がけた洋画家・古賀春江など、野十郎と交流のあった画家の作品も多数展示する。
髙島野十郎《ひまわりとリンゴ》大正時代(1912-1926)頃 個人蔵。ゴッホへの憧憬を感じさせる本作は、姉・スエノに贈られたもの。野十郎は自らの愛するリンゴを書き加えているが、ヒマワリとリンゴの組み合わせはゴッホ作品には見られないという。
髙島野十郎《ひまわりとリンゴ》大正時代(1912-1926)頃 個人蔵。ゴッホへの憧憬を感じさせる本作は、姉・スエノに贈られたもの。野十郎は自らの愛するリンゴを書き加えているが、ヒマワリとリンゴの組み合わせはゴッホ作品には見られないという。
髙島野十郎《からすうり》昭和10年 福岡県立美術館(左奥)などとともに、デッサン「魚介類の観察図」大正4年頃 福岡県立美術館(手前)を展示。魚類の感覚に関する研究を行っていた野十郎の学生時代をしのぶことができる唯一の資料。
髙島野十郎《からすうり》昭和10年 福岡県立美術館(左奥)などとともに、デッサン「魚介類の観察図」大正4年頃 福岡県立美術館(手前)を展示。魚類の感覚に関する研究を行っていた野十郎の学生時代をしのぶことができる唯一の資料。

あらゆるものに等しく注がれた視線

裏面に般若心経の一節を記した髙島野十郎《空》昭和23年以降 個人蔵 や、無数の花が一本一本浮き立つような《菜の花》昭和40年頃 ブルーミング中西株式会社 などに、仏とともにあった野十郎の心を感じる。
裏面に般若心経の一節を記した髙島野十郎《空》昭和23年以降 個人蔵 や、無数の花が一本一本浮き立つような《菜の花》昭和40年頃 ブルーミング中西株式会社 などに、仏とともにあった野十郎の心を感じる。

第2会場では、日本全国を旅して描いた四季おりおりの風景画や、青年時代から傾倒していた仏教の思想をにじませる作品、親族や知人らの書簡などを通し、野十郎のパーソナリティにより深く迫る。

ソファに腰掛けると、日本各地の季節ごとの景色を描いた風景画や、野十郎が強く影響を受けた仏教思想のエッセンスが込められた作品が並ぶ。草木の一本一本、砂の一粒一粒まで描きこむ野十郎の筆使いには、すべての命を等しく見、あらゆるものへの慈悲を説く仏教の思想が込められているかのようだ。

「エピローグ 野十郎とともに」に展示される《蝋燭》。野十郎が生涯にわたって描き続けた作品で、大切な人たちへ手渡されたものだという。炎の強弱、周囲に立ち昇る熱、見る者に向かってゆらめく卓上の光などが、それぞれに込められたメッセージを想像させる。
「エピローグ 野十郎とともに」に展示される《蝋燭》。野十郎が生涯にわたって描き続けた作品で、大切な人たちへ手渡されたものだという。炎の強弱、周囲に立ち昇る熱、見る者に向かってゆらめく卓上の光などが、それぞれに込められたメッセージを想像させる。
野十郎が使用していた絵画箱や携帯用のイーゼルのほか、野十郎の写実が仏教的な考えに基づくものであったことを明らかにした『遺稿ノート』、野十郎の書き込みが残る『昭和新纂 国訳大蔵経』なども展示。
野十郎が使用していた絵画箱や携帯用のイーゼルのほか、野十郎の写実が仏教的な考えに基づくものであったことを明らかにした『遺稿ノート』、野十郎の書き込みが残る『昭和新纂 国訳大蔵経』なども展示。
《睡蓮》昭和50年 福岡県立美術館 がプリントされたマイクロクロスファイバータオル、《りんごを手にした自画像》大正12年 福岡県立美術館 をイラスト化してあしらったマルチポーチやブックカバー、又吉直樹氏書き下ろしの短編を収録する図録など、豊富なオリジナルグッズが用意されている。
《睡蓮》昭和50年 福岡県立美術館 がプリントされたマイクロクロスファイバータオル、《りんごを手にした自画像》大正12年 福岡県立美術館 をイラスト化してあしらったマルチポーチやブックカバー、又吉直樹氏書き下ろしの短編を収録する図録など、豊富なオリジナルグッズが用意されている。

開催概要

「没後50年 髙島野十郎展」

開催期間:2026年7月4日(土)~9月6日(日)
前期:7月4日(土)~8月2日(日)
後期:8月4日(火)~9月6日(日)※会期中、一部展示替えあり
開催時間:10:00~18:00(入館は~17:30)金曜日10:00〜20:00(入館は〜19:30)
休館日:月(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)、8月12日(水)
会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)
アクセス:京王電鉄井の頭線神泉駅から徒歩5分、JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩15分
入館料:一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)
※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料
※土・日曜日、祝・休日及び夏休み期間は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者及び付き添い1名は無料

【問い合わせ先】
渋谷区立松濤美術館☏ 03-3465-9421
公式HP:https://shoto-museum.jp/

取材・文・撮影=増山かおり