やわらかな毛並みまで見事に表現
菱田春草(1874〜1911)が明治43年(1910)の第4回文展に出品した作品、「黒き猫」(重要文化財)。柏の葉が金泥を用いて平面的に描かれるのに対し、猫は墨のぼかしによって柔らかな毛並みまで表現されているのが特徴だ。その装飾性と写実性の調和が発表当時から高く評価され、春草晩年の代表作の一つと位置付けられている。
『永青文庫』の設立者である細川護立(もりたつ/1883~1970)は、同時代の日本画家たちにいち早く注目し、彼らの作品を積極的に蒐集。護立の近代日本画コレクションのなかでも、36歳の若さで夭折した菱田春草の「黒き猫」は、不動の人気を誇る。
クラウドファンディングをはじめ、国、東京都、文京区からの補助によって初めて本作の本格的修理が行われ、本展はその修理完成を記念して開催。「黒き猫」や「落葉」(重要文化財)など、所蔵される春草作品全4点が前・後期に分けて公開される。
学芸員の舟串彩さんは「今回の見どころは、何といっても菱田春草の『黒き猫』。初めての本格的修理を終え、当館の“看板猫”がより美しくなって帰ってきます。『黒き猫』は11月3日(月・祝)までの限定公開となりますが、11月7日(金)からは、春草のもう一つの代表作『落葉』を展示します。どちらもなかなか東京で公開する機会はありませんので、どうぞお見逃しなく」と見どころを語る。
横山大観や下村観山ら名だたる日本画家の作品も一堂に
菱田春草作品4点のみならず、竹内栖鳳(せいほう)、横山大観、下村観山、鏑木清方(かぶらききよたか)、小林古径(こけい)、安田靫彦(ゆきひこ)といった名だたる日本画家たちの作品が一堂に展覧されるのも見どころ。
細川護立の近代日本画蒐集は、画家たちと親交を深めながら進められた。『永青文庫』には、その特徴的な交流を示す作品や資料などが数多く所蔵されている。本展では、護立が依頼した手拭の下図や扇面といった貴重なコレクションも展示される。
また、後期には中国墨蹟の特別展示も。中国の禅僧・清拙正澄(せいせつしょうちょう)と楚石梵琦(そせきぼんき)による墨蹟2点(いずれも重要文化財)が修理後に初めて公開されるので注目したい。
細川護立生誕142年記念プレゼントも
10月21日(火)当日に限り、設立者の細川護立の生誕142年を記念し、来館者にポストカードがプレゼントされる(※予定枚数に達し次第終了)。
開催概要
重要文化財「黒き猫」修理完成記念「永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰ってくる!―」
開催期間:2025年10月4日(土)~11月30日(日)
《前期》2025年10月4日(土)~11月3日(月・祝)
《後期》2025年11月7日(金)~30日(日)
開催時間:10:00~16:30(入館は~16:00)
休館日:月(ただし10月13日・11月3・24日は開館)、10月4日(火)・11月4日(火)・5(水)・6日(木)・25日(火)
会場:永青文庫(東京都文京区目白台1-1-1)
アクセス:都電荒川線早稲田停留場から徒歩10分、JR山手線目白駅からバス15分
入場料:一般1000円、70歳以上800円、高校生・大学生500円
※中学生以下、障害者手帳をお持ちの人と付き添い1名は無料 。
【問い合わせ先】
永青文庫☏03-3941-0850
公式HP https://www.eiseibunko.com/
取材・文=前田真紀 画像提供=永青文庫





