神に感謝して手作りロケットを奉納

秩父市の下吉田にある椋神社の、秋季例大祭に奉納する神事として行われる「龍勢祭」。龍勢とは手作りロケットのことで、白煙を噴いて打ち上がる様子が龍の昇天する姿に似ていることからそう呼ばれている。

その起源については諸説ある。1.日本武尊が持っていた鉾(ほこ)から光を発した、その仕草を尊び氏子が龍勢を祀ったという説、2.農民が戦国時代にノロシを発展させたという説、3.天正3年(1575)に吉田の河原で木を燃やして、燃え残った棒を神事として投げ合ったという説。いずれも明確ではないが、400年以上前から吉田地域に伝わる伝統行事だ。

龍勢を作って打ち上げるのは命がけ!?

吉田地域には27の流派があり、各流派が1年間かけてこの日のために龍勢を完成させる。「松をくり抜き火薬を詰めて、タガと呼ばれる竹を縛り付けて火薬筒を作ります。使用する火薬は黒色火薬と呼ばれるもので、吉田の龍勢は免許を持った者が手作りをしています。空洞ができないように火薬を固く詰める作業を何度も繰り返すことで、点火した時に下から徐々に燃えて推進力を生むのです」と教えてくれたのは吉田龍勢保存会の加藤五郎さん。

できあがった火薬筒を、乾燥させた約18mの青竹(重さ約15㎏)にくくり、落下傘や花火、唐笠などの背負(しょ)い物を取り付けて龍勢を仕上げる。「総重量約45㎏にもなるロケットを上空300mまで飛ばしてしまう、ものすごく危ない祭りなんですよ」と加藤さんは笑う。

こうして完成した龍勢は、神社から300mほど離れた場所に組まれた櫓(やぐら)から15分おきに次々と打ち上げられる。櫓に龍勢を無事にかけ、打ち上げ3分前になると独特の節回しの口上が始まる。口上が終わると導火線に点火され、龍勢は瞬く間にごう音とともに火を吹き空高く舞い上がるのだ。「龍勢は手作りでアナログだからうまくいく流派もあれば、筒がはねて飛ばないで終わる流派もある。でもそこがまた魅力なんです」(加藤さん)。観客は桟敷席から固唾を飲んで見守り、打ち上がるたびに大いに盛り上がる。

龍勢は頂点に達すると、上空で煙や音、光による演出を展開する。
龍勢は頂点に達すると、上空で煙や音、光による演出を展開する。

高齢化などさまざまな理由でお休みしている流派もあり、2024年は23の流派が28本の龍勢を奉納する。「1年間かけて龍勢を作るのは体力勝負でもあり、本当に好きじゃないと続けられない。年に1回の一発勝負はわずか5、6秒で終わってしまうのですが、仲間たちと目標を達成する喜びがあるんです」(加藤さん)。先人の知恵や技術を受け継ぎ、流派の方々の情熱とロマンを乗せて打ち上げられる手作りロケットをぜひ現地で見届けよう。

開催概要

「龍勢祭」

開催日:2024年10月13日(日)
開催時間:8:40~16:15
会場:下吉田椋神社周辺
アクセス:秩父鉄道皆野駅から臨時直通バス下車、徒歩10分

【問い合わせ先】
吉田総合支所地域振興課☎0494・72・6083
公式HP:https://navi.city.chichibu.lg.jp/p_festival/1195/

 

取材・文=香取麻衣子 ※画像は主催者提供