四川名物のお好み火鍋「串串(チュアンチュアン)」を囲む『尋味楽山(シュンウェイローシャン)』【四川料理】
「近くの専門学校に通ってるんです」
中国人、韓国人、日本人の若いグループはそう言いながら、みんなでお好みの串を選んでいる。豚や牛のモツ、練り物、野菜、それに鴨の舌とかアヒルのミノなんて見慣れないものも並ぶ。合わせて50種類ほどの具材からあれこれピックアップしてスタッフに渡すと、企業ヒミツの特製スープで茹(ゆ)でて味つけされ、さらに自家製の紅油(香りの高いラー油)ベースのスープで満たされた大鍋に入れられてやってくる。なるほど、みんなでワイワイ食べるにはちょうどいい。
この紅油香辣鍋底(ホンユーシャンラーグゥオディ)、店のスタッフは「お客さんはだいたい、ひとり20本くらい食べる」と言う。楽山名物の冷たいスープに浸すものも人気。留学生で賑(にぎ)わう、高田馬場でも旬の店だ。
『尋味楽山』店舗詳細
発酵が生み出す奥深い辛さと香り『湘遇(シャンユー) TOKYO』【湖南料理】
「湖南料理は中国でいちばん辛いと言われているんです」
社長の劉振軒(リュウシンケン)さんは言う。唐辛子の辛さと、発酵の酸味が渾然(こんぜん)一体となった湖南の味を求めて、留学生で連日の大盛況だ。2008年に来日した劉さんはラーメン屋や居酒屋でアルバイトをしながら日本語学校で学んだ後に起業。高田馬場ではこの店のほか『李厨(リチュウ)』も営み、上野にも支店を持つ。
「いまの留学生は僕たちの頃と違って豊かだから、アルバイトしてる子はあまりいないですね」
唐辛子は茨城の自家農園で栽培。日本では育ちにくい辣椒王という激辛唐辛子は輸入するなど原材料は厳選している。「コストはかかるけど、味のためには仕方ない。それがうちの考えです」と語る。
『湘遇 TOKYO』店舗詳細
とことん羊まみれになりたい日もある『馬記 蒙古肉餅(マーキーモウコローピン)』【内モンゴル料理】
「店を開いたのは2016年。その頃の高田馬場は中国料理の店がまだ少なかったこともあって、この街にしたんです。お客さんは90%が日本人でした」
店主の孔秀華(コウシュウカ)さんは言う。高田馬場でも老舗の“ガチ中華”の店だろう。お客さんに留学生が多くなったのはコロナ禍の後からだそうだ。「それに、旅行で来る中国人もずいぶん増えましたね。こんなに中国人が多い街になるとは思わなかった」。
街は変わっても、味は変えていない。「素材の味をそのまま食べてほしい、だからあまり調味料を使わない。それがモンゴル料理なんです」。
店名にもなっている肉餅は、羊の挽き肉と葱、醤油を混ぜたタネをひと晩寝かせて味をなじませ、注文ごとに焼く、自慢の一品だ。
『馬記 蒙古肉餅』店舗詳細
水牛ミルクのなめらかプリンは優しい甘さ『良縁糖水(リャンユェンタンシュイ)』【広東料理】
「使っているのは水牛のミルクと卵の卵白と砂糖だけなんです」
侯子樑(オウシリョウ)さんは言う。故郷の広東省順徳で有名なミルクプリン、双皮奶が店の看板だ。朝に搾ったミルクを3時間以内に仕込む新鮮さがおいしさの秘訣で、とろりなめらかな舌触りとほのかな甘さ。
2015年、旅行で来た日本には甘さ控えめな広東のスイーツ店がないと感じ、それなら自分でやってみようと夫婦で移住。当初は自由が丘か吉祥寺を考えていたが、いい物件が見つからず、やってきたのが中国人留学生は多いがまだ飲食店の少ない高田馬場だった。
2018年のことだが、それからほんの数年で“ガチ中華”の街になり、一躍人気店に。結果として良かったわけだが「いまの留学生は味に厳しいから、たいへんです」と苦笑する。
『良縁糖水』店舗詳細
取材・文=室橋裕和 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2025年6月号より