お皿に花を咲かせるシャルキュトリーの探究者『bistro amano』
コンロの上に、ベーコンとなる豚バラ肉を吊(つる)すシェフの天野直樹さん。「自然と温度が30℃ぐらいになり、肉の成分がまろやかになるんです」。豚モツのソーセージなど、メインや温菜に使うものまで含めると仕込むシャルキュトリーは20種以上に及ぶ。「注文後にババッと作る料理より、仕込みの方が好きなんです。肉の状態・水分量・塩分量まで見極めて、全部一から作りたい。パンもデザートも、一から作るからこそのおいしさってあると思うんです」。
ロースハムのしっとり感とシルキーな脂、熟成5カ月目で旨味最高潮のカモの生ハムに、シェフの矜持を実感する。さらに、カモコンフィとソーセージ、豚バラの塩漬けを煮込んだカスレの、濃厚な味わいとスパイスの洪水にはもう耽溺(たんでき)。アラカルト主体のため、グラス7種、ボトル100種以上と料理に合わせるワインは幅広い。各皿に伴走する一杯を、ソムリエである妻・通子さんが提案してくれる。
『bistro amano』店舗詳細
仏・伊の2本の筆と愛媛産食材で描く自由な色彩『ChatGatto(シャガット)』
北イタリア伝統のパスタ、卵たっぷりのタヤリンがサーブされると愛媛産金ゴマの鮮烈な香りがフワリ。愛媛の魚の軽いマリネはワカナ(ブリの若魚)の上品な味わいとキンカンの甘み、自家製つぶマスタードの酸味のバランスが美しい。「自分がイタリアン、妻がフレンチ出身。その2つの手法を生かし、愛媛の食材で自由に料理をしています」と、愛媛出身の薄田(すすきだ)貴志さん。
フランスから日本、ジョージアの白まで、ナチュール主体のワインリストはソムリエでもある宜子(やすこ)さんが担当。「ただナチュールというだけでなく、おいしくなるからナチュールで造る、というワイナリーにひかれます」。カウンターの上には、宜子さんの両親が茨城で栽培した梅を使った梅干しのオイル漬けも。今からどんな料理に使うか思案中だ。「春は愛媛のアスパラガスに初夏はアマゴ、緑の草を食(は)んだ夏鹿(なつじか)に秋はクリ。旬の食材と料理で四季を伝えられたら」。
『ChatGatto』店舗詳細
自然なワインと食材の乗算(じょうざん)が美味を生む『bistro mele』
店名の「メレ」はフランス語で“混ざり合う”という意味。「メインやデザート以外はほぼハーフサイズOKですので、お一人さまからでも気軽に楽しんもらえれば」と、桜井乗シェフ。混ざり合いの妙は、オーガニック野菜が彩る各皿にも。アワビととうや(ジャガイモの1種)のグラタンにはキノコとカルダモンの出汁を使ったり、ブリのカルパッチョには発酵大根やトマトジュレを加えたり。極めつけは、極厚で提供するフレッシュマッシュルーム! 生のマッシュルームのふくよかな味わいとクルミの野趣あふれる香り、パルミジャーノの塩味とコクが白ワインと抜群に合う。
「既成概念にとらわれず、おいしい組み合わせを探せられたら。うちはナチュラルワイン主体なので、食材自体の味を大切にしています」。グラスはスペイン産を中心に800円程度から揃い、ナチュラルワイン沼の入門に最適。沼の先には各国のボトルがあなたを待つ。
『bistro mele』店舗詳細
夫妻のワイン愛に満ちる大人の集会所『ワインバー T』
あるピノ・ノワールの味わいは“オーストリアの冷涼さを感じさせる、透明感のあるエレガントさと繊細さ”。小さな黒板には、その日提供する12種のグラスワインの説明がぎっしり。「元ホテルマンとして、味も料金も明確に伝えたい性分なんです」と店主の津村幸秀さん。最初は赤白計6種で始めたが、ソムリエである妻・恵美さんが加わり、現在は12種に。「文字が小さくなって『老眼で読めない(笑)』といわれることもありますが、常連さんから1周年祝いに贈られたものなので使い続けたくて」。
ボルドーのようなクラシックを大切にしつつ、国内外のナチュールも取り入れ、カテゴリーで選ばないのが津村流。ブラインドテイスティング800円もあり、ワイン党が夜な夜な集う。もともとお客だった恵美さんいわく「入店は一組最大3名までで、凛(りん)とした雰囲気もあるけど、女性一人で来やすい安心感もある。散歩ついでに、ぜひ立ち寄ってほしいですね」。
『ワインバー T』店舗詳細
取材・文=鈴木健太 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2025年5月号より