やわらかい身に個性派の甘辛タレ『東屋』
2006年から5 代目として腕をふるう店主の柿田准さんは、料理の幅を広げるため和食屋で修業。創業は明治の初め、昭和初期に現在の場所へ店を移した。すべて座敷席の店内は、黒光りした廊下や縁側の障子戸など、築90年の歴史の重みを感じさせる。脂を落とすため、炭火で白焼きにしたうなぎに創業当時から注ぎ足されたタレは個性派甘辛系。さっぱりとしたなかに、ピリッと辛みがアクセント。
『東屋』店舗詳細
川越鰻の伝統とともに品格ある味を慈しむ『小川菊』
文化4年(1807)に創業した、川越随一の老舗のうな重は、見目麗しく、ふっくらとした艶やかさ。そして秘伝のタレと熟練の焼きが織りなす、さらりとした甘味を備えた味わいが、長い歴史と伝統を物語るよう。「変えないために変えるんです」と、サラリと語る7代目ご主人が選び抜いた地元米との相性も絶妙だ。戦前までは近隣の旦那衆や文人墨客も集ったという大正末期の建造の木造建築には、どこか文化の香りも漂う。お店同様に大切に磨き上げてきた上品なうな重には、川越のうなぎの来し方があふれている。
『小川菊』店舗詳細
懐かしい風情の中できりりとした味わいを『小川藤』
大正ロマン通りのにぎわいを折れ、住宅街の小道の先に、下町にありそうな懐かしさを感じる年季の入った店舗が現れる。「うなぎを高尚にしたくないんですよ」と笑う3代目ご主人。うな重のふたを開けた瞬間、フワッと醤油の香りが鼻をくすぐり、後から優しい香りがついてくる二段構え。表面の焦げ目には、見た目を超えた旨味が潜んでいる。甘みを抑えたエッジの効いたタレも「普通の材料ですよ」とさらりと言いつつも、常に工夫を怠らない。鰻裂きから焼き上げまでの全行程を、たったひとりで行い、厳しい目の行き届く範囲を守り続けている。
『小川藤』店舗詳細
さばきたての身を寝かせダレで極上に『うな吉』
慣れた手つきでうなぎをさばくのは店主の柳田勇(やなぎだいさお)さん。10年間の修業を積んだ末、開いた店は今年で34年。注文を受けてから生きたうなぎをさばき、焼き上げる。味に深みを出すために三日三晩じっくり寝かせたタレは、新鮮なうなぎの味に深みを増し、表面も艶やかにしてくれるという。最高なうなぎの味を引き出すためには労を惜しまない、それがこの道44 年の職人技だ。駅からは少し離れているが、バスに乗って行く価値はある。
『うな吉』店舗詳細
柔らかさと香ばしさが口に広がる喜び『林屋川越店』
元米問屋という重厚な建物を入ると視界に飛び込んでくる、きびきび働く若いスタッフの姿が、気持ちをカジュアルに和らげてくれる。供されるのは、香ばしい皮が潜んでるとは想像も出来ない、見るからに柔らかな身のうな重。京都から取り寄せる山椒が、アクセントを添える。うなぎは川魚専門店である本店の養鰻場で吟味されたもの。白髪ねぎと大葉を乗せたさらしねぎ丼、ささがきごぼうやねぎと共に煮込んだうな玉丼など、アレンジメニューも嬉しい。蒲焼きの端にこんがり凝縮された味もじっくりと。
『林屋川越店』店舗詳細
活気あふれる空間も、うなぎを引き立てる隠し味『ぽんぽこ亭』
街道沿いの巨大たぬきに誘われて入ると、地元の常連や家族連れでにぎわう風景が広がる。愉快な店名は「お客さんにお腹いっぱい食べてもらいたい」という願いから誕生した。食欲をそそる照りは誰にも愛される甘みゆえ。山椒の実を自分で擦るひと手間がまた楽しい。小さな店を一代で広い大店に育てた先代が考案した秘伝のタレ、うなぎのために引いた地下水と、こだわりはそこここに。長いカウンターで、1日700を超える注文をさばく職人さんたちのチームプレーを楽しみつつ待つのも味のうち。名物の天重始め豊富なメニューも、好きなものを選んでもらおうというお客さん第一主義の現れだ。
『ぽんぽこ亭』店舗詳細
取材=風来堂、高野ひろし 撮影=オカダタカオ