絶品のラーメンを出すのは、お肉屋さん!?
「荻窪の街じゃなくても、ウチぐらいじゃないですかね? お肉屋さんがラーメンを作っているのって」――『マツマル』2代目店主の小林隼人さんは笑ってこう答えてくれた。
荻窪駅南口から徒歩3分ほど。南口仲通り商店街を歩いていくと右側から真っ赤なテントのお店が目に飛び込んでくるが、これこそまさに『マツマル』。暖簾(のれん)に提灯が掲げられ、昔ながらの中華料理屋さんといった風情で、誰もが親しみを持てる佇まいだ。
1983年に創業して以来、お肉屋さんならではの仕入れで上質な肉を使用したチャーシューが評判になり、いつしかラーメンの名店として人気を博すように。創業から40年近く経った今では、家族3代でこの店にやってきてラーメンを食べるという常連さんも少なくない。そして、タレントにも根強いファンがいて、これまでにも数多くのテレビ出演経験がある、まさに荻窪きっての名店と言える。
お肉屋さんならではのチャーシューがポイント
『マツマル』のメニューを見ると、肉野菜炒め定食やしょうが焼き定食など、中華料理店らしく様々な料理が並ぶ。それだけにいろいろ目移りしてしまいそうになるが、今回は「ラーメンなら、ほとんどのお客さんがこのメニューを頼む」という、マツマルラーメンをオーダーした。
目の前に現れたマツマルラーメンはまさに昔ながらの中華そばそのもの。鶏ガラと数種類の野菜を煮込んでとったスープと、こだわりの醤油ダレを掛け合わせて生まれる透き通るような色。これに合わせられる麺はこれまた昔懐かしい中太のちぢれ麺。スープともよく絡んでいいハーモニーを形成する。
「荻窪の醤油ラーメンっていうと、煮干しが利いた味が多いと思います。ウチも煮干しは使っていますが……そこまで煮干しを強調していないんです。せっかく肉屋をやっているということがあるので、鶏ガラの良いところを使ってスープを取ったほうがいいし、たくさんの野菜を使うことでよりまろやかにするよう心がけています」と、小林さんもスープについて教えてくれた。
そしてマツマルラーメン最大の魅力となっているのがこのチャーシュー。どんぶり全体を覆うように4枚ほど入っているが、ひと口かじるともうトロトロ。豚肉ならではの脂の甘みを感じさせ、ラーメンの味を一段も二段も上げる。数あるメニューの中でも高い人気を誇るのも頷ける。
「実はこのチャーシュー、普段のラーメンのとは別の部位の肉を使っているんです。普段のラーメンに使うチャーシューの肉はマグロで言えば赤身に当たる部分で、マツマルラーメンに使うチャーシューはいわば大トロのようなところ。それだけに脂身の甘みや旨味が普段のもの以上なんです。これを一度茹でてからタレに付け込んで3~4時間くらい煮込むのが、毎朝の仕込みですね」と、小林さんはチャーシューの秘密についても教えてくれた。
ちなみにこのチャーシューは2020年から店内でお持ち帰り用も販売。家庭の食卓でご飯と一緒に食べることを考え、少し味付け濃いめのお惣菜仕様に。3種のチャーシューを使い分けるというお肉屋さんならではのこだわり具合がなんとも面白い。
先代店主との味のチェックが毎日の日課に
鶏ガラをベースにした透き通るような味わいのスープに昔ながらのちぢれ麺、そしてお肉屋さんならではのこだわりを貫いた特製のチャーシューが合わさり、絶妙なハーモニーを醸し出す『マツマル』のマツマルラーメン。長年愛されてきた伝統の味の秘訣を最後に伺うと、小林さんは少し考え、こう答えてくれた。
「僕の父……先代店主との味見やチャーシューの仕込みですかね。どちらも朝一番に必ず行うことで、この店のラーメンの味を決める大切なものなので毎日欠かさずやっています。今はコロナの影響もあって2人が厨房に立つことはないようにしていますが、朝、必ず二人でスープの味見を行うことで店の味を守っています」
荻窪屈指の名店の味は、親子の絆が生み出していると言っても過言ではないだろう。
取材・文・撮影=福嶌 弘