仕込みまで全て見せるオープンキッチン
「素材はもちろん、ソースからスモークまで、ここで出す料理は全てここで仕込んでいます」とシェフの福岡伸和さん。そういわれると確かにキッチンが広い。カウンターに座れば全てを見渡せる。この「見せる」キッチンも福岡さんの意図するところ。
「ランチも最初は数種類作っていたんですが、ソースから作るとなると、とても手が回らない。だから一品に絞って内容の濃い料理を出すようにしました」と話す。手作りにこだわり、裏も表も全部見せていく。そんな心意気が感じられる。
お箸で食べられる日本生まれの洋食を
ディナーはコースのほかアラカルトを用意しておりメニュー豊富だが、ランチメニューは日替わりで1種類のみ。この日のランチはオムハヤシ1000円。牛バラ肉と玉ねぎを煮込んだ特製ハヤシソースをご飯にかけて、さらにチーズ入りのオムレツをのせたボリュームたっぷりの一皿。フワフワのオムレツに潜むチーズのコクと濃厚なハヤシソースが食欲を誘う。このオムハヤシには野菜のポトフ風スープが付く。
パルメザンチーズがかかっているのに、ほんのり柚子が香るスープは和を感じさせる味。
「赤坂の『津つ井』という老舗の洋食店で修業をしました。そこのモットーが『お箸で食べられる洋食』だったんです。なので料理には和食の要素も取り入れています。私の実家が寿司店だったこともありますが」と福岡さん。
カニクリームコロッケやステーキには赤だしがつくという。さらにプラス200円で食べられるサラダも「自家製スモーク明太子のサラダパスタ」と、一工夫加えた一品だ。サクラのチップで薫製した明太子は野趣あふれる味わい。
雪景色が美しいシャレー志賀をイメージ
店内は木材の素材感を生かした造りで、その木組みはどこか山小屋風。大きく取られた窓からは明るい陽光が入る。
「スキーが好きで、良く志賀高原に滑りに行っていたんですが、そこのシャレー志賀というホテルから見える雪景色をイメージしました」と福岡さん。
窓際にはランプ、棚には使いこまれたレシピ本が並び、ジャズが流れる店内は都会にいることをひととき忘れさせてくれる空間だ。
地元、浜松町で人とのつながりを大切に
浜松町が地元の福岡さん。ランチ時には奥さんとお義母さんが手伝いに来る家族経営の店でもある。「このあたりはビジネス街一辺倒に思われがちですが、実は下町のような人とのつながりがあって、野菜や肉も地元の業者から手に入れているんですよ」と福岡さん。
店を後にしてしばらく歩くと、ビル街の隙間に昔ながらの昭和の街並みが見えてきた。
取材・文・撮影=新井鏡子