本場・中国の茶文化を気軽に体験できる場所

早稲田大学からほど近く、早稲田通りを一本入った場所に『甘露』はある。扉を開けると、足下には半地下へ続く階段。同時に、壁一面に飾られた茶缶が目に入る。この店は、日本人夫婦と中国人夫婦が共同で経営する中国茶カフェだ。2018年のオープン以来、中国大陸と台湾で作られたお茶をバラエティ豊かに取りそろえ、中国で一般的なおやつとともに提供している。

店主の向井直也さんは、かねてから中国のお茶と文化を伝える場を作りたかったと話す。この店で提供しているお茶の種類は、烏龍茶や緑茶、工芸茶、薬膳茶などバランスよくそろえた25種ほど。季節によって入れ替わる品種もあるというが、四川省から浙江省、そして台湾まで幅広い産地のお茶が並んでいる。

このセレクトについて向井さんは、「初めて中国茶に触れるお客さんに向けて、手頃な価格で提供できることはもちろん、それぞれのお茶の違いがわかりやすいような奥行きのある品ぞろえを意識した」と話す。確かに値段を見ると、安いものでは480円でいただけるものもあり、中国茶の入り口としてふさわしいハードルの低さを感じられた。

鳳凰単欉蜜蘭香1200円。
鳳凰単欉蜜蘭香1200円。

そんな数あるお茶の中から、向井さんがおすすめするのは広東省を原産とする鳳凰単欉(ほうおうたんそう)。今回いただいたのは、単欉の中でもひと際高い花の香りと果実香が楽しめる鳳凰単欉蜜蘭香(ほうおうたんそうみつらんこう)。お茶が運ばれてきた途端、マスク越しにも伝わるフルーティーな香りに“飲欲”をそそられる。実際にいただいてみると、まるで香料を使ったフレーバーティーのような香りと味わいが口いっぱいに広がる。この香りが天然のものだというのだから驚きだ。

双皮奶(プレーン)530円。
双皮奶(プレーン)530円。

お茶のおともにぴったりなスイーツにも、向井さん夫婦のこだわりが詰まっている。向井さんが中国に赴いて取材した本場のおやつ・軽食メニューを、奥様が手づくりしているという。そのラインナップは、ミルクプリンやお汁粉などのイートイン限定メニューと、テイクアウトもできる焼き菓子など、大きくわけて7種。そこにトッピングなどの細かなアレンジが加わり、40種以上のメニューがずらりと並ぶ。また、スイーツ以外にも、点心やおこわなどの軽食メニューもそろう。本場のレシピを参考にして作られるスイーツの一部は、この店のYouTubeチャンネルでレシピが公開されている。

今回は、この店の定番スイーツである広東式ミルクプリンをいただいた。中国語で“2層の皮(膜)がある牛乳”という意味を持つ「双皮奶(しゅあんぴぃない)」の名で呼ばれるこのスイーツは、その名のとおり2層の膜が特徴。2度蒸すことで、それができあがるのだそうだ。ミルクの濃厚な味わいが際立つプリンは、とても美味しかった。

中国と日本の架け橋を目指して

店内には中国各省の地図も。
店内には中国各省の地図も。

この店では、中国茶やスイーツなどの提供のほかにも、中国の文化を伝える取り組みも行っている。定期的にイベントを開催し、中国出身の学生や社会人たちとの交流の場を提供。その内容は中国語講座をはじめ、中国人留学生が自分の生まれ育った地域について紹介する“お国自慢”など様々だ(新型コロナ感染対策期間中はオンライン開催)。

四川省綿竹市で作られている年画グッズ。
四川省綿竹市で作られている年画グッズ。

店内のあちこちにも中国の伝統的な工芸品などが飾られ、芸術文化にも触れることができる。たとえば、中国の民間絵画である年画(ねんが)を描いた傘が天井に吊り下げられていたり、ほかにもクッションなどが店内の一角に飾られていたりした。

中国の茶文化はもちろん、言葉や地域の文化なども伝えている『甘露』は、文教地区のこの街にぴったりな知性と教養を感じられる店だった。

『甘露』店舗詳細

住所:東京都新宿区西早稲田3-14-11/営業時間:11:30〜18:00/定休日:木(臨時休あり)/アクセス:地下鉄副都心線西早稲田駅から徒歩7分、地下鉄東西線・都電荒川線早稲田駅から徒歩10分

取材・文・撮影=柿崎真英