『“よむ”お酒』

無性に楽しいこと「どうでもいい酒」を飲むがごとし

パリッコ スズキナオ 著/ イースト・プレス/ 1400 円+税
パリッコ スズキナオ 著/ イースト・プレス/ 1400 円+税

昨年忘年会での会話を、あるいは飲んだものを、どれだけの人が今も覚えているだろうか。お酒とは実に不思議なものである。その名の下に、人は集い、騒ぎ、なんとなくいい気分になる。後悔しては忘れ、また繰り返す。いわば無駄ともいえるこの行為に、人は惹かれる。この魅力とはいったい何なのか――。
本書はそんなお酒の無限の可能性を追求するユニット「酒の穴」の初のエッセイ集。酒場ライターとして知られるパリッコさん・スズキナオさんの2人が交互に、お酒にまつわるあれこれを、ゆるゆると時に大真面目に綴(つづ)っている。お品書きはといえば、「ポイントカードのポイントを使ってまで飲む」「酒としらたき」「究極の酒のつまみは粒子系」……と大変くだらない(ほめています)。例えば「新しい酒のことわざ」では、「『金』に関することわざの『金』を片っ端から『酒』に置き換えたらぜんぜん違和感がない」というテーゼを提示。酒は天下の回りもの、時は酒なり、地獄の沙汰も酒次第、酒の切れ目が縁の切れ目などなど。さらには、発泡酒とて酒は酒、翌朝の麦茶に勝る酒なし、とニューことわざをも披露する。なるほど~と感心し、そんなことを発表しあう飲み会はどうだろうと妄想。自分も傑作をと考え始めたら、もう酔いの前兆だ。
翌日、内容を思い出せないような一時の楽しさを、空間や人と人との間に生まれる温度感はそのままに、言語化することの難しさに気づいたら一巻の終わり。彼らの文章の巧みさにずるずると呑(の)まれる。中毒性あり。ご注意を。(町田)

『ちくわぶの世界 東京下町のソウルフードを味わう』

丸山晶代 著 渡邉博海 写真/ころから/1500円+税
丸山晶代 著 渡邉博海 写真/ころから/1500円+税

ちくわぶの歴史、製造過程など、ちくわぶを多角的に捉えた本書。ちくわぶ愛がすごい。「ちくわぶは飲み物です」だって?! 各コンビニおでんのちくわぶ徹底比較、4時間にわたる手作りちくわぶレシピなど、世界はなかなか深淵だ。この中で特にYouTubeでも楽しめるオリジナルソング『ちくわぶ食べようよ』が気に入った。(田代)

『スマホ 使いこなしてる?』

こいしゆうか 著/マガジンハウス/1200円+税
こいしゆうか 著/マガジンハウス/1200円+税

アプリ、どのくらい入っていますか? 私は3画面にわたり、いろんなものが一緒くた……。本書は私同様スマホを使いこなせていない主人公が、「効率を上げたい」「生活を楽にしたい」など5テーマで5人の"達人"に教えを請いながら、スマホとの付き合い方を考えていく漫画。自分らしい使い方のヒントになるはず。(土屋)

『結婚の奴』

能町みね子 著/平凡社/1500円+税
能町みね子 著/平凡社/1500円+税

ゲイの夫(仮)との偽装結婚、その生活をつくるまでの日々が赤裸々に綴られる。「世間に化けて私に迫って」くる友人、「ほぼ恋愛」の感情、「正解の顔をした人」。世間一般の常識を前にたびたび現れる悲観癖、なのに行動は圧倒的にポジティブで、ぐいぐい引っ張られる。これは確かに、「たくさん生きる」人の本なのだ。(渡邉)

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。