既成の味ではない、独自の味を作りたい!

船の錨が印象的な外観。入り口脇には出汁に使ったホタテの貝がディスプレーされている。
船の錨が印象的な外観。入り口脇には出汁に使ったホタテの貝がディスプレーされている。

京急蒲田駅西口から高架になっている線路に沿って雑色駅方面に歩くと、すぐに商店は途切れ住宅地になる。やがて、壁面に船の錨(いかり)や船室の窓などを飾った店が現れる。

オーナーの貝原さんは独立して今年で10年。今でも日々新しいメニューづくりに励んでいる。
オーナーの貝原さんは独立して今年で10年。今でも日々新しいメニューづくりに励んでいる。

「Voyage」とは航海のこと。常連からは「船長」と呼ばれるオーナー・貝原さんが作る創作麺は、訪れた者を新しい味の航海に誘ってくれる。

貝原さんは、家系などで修業した後、28歳のときに独立。当初はトンコツとキノコで出汁をとったラーメンを提供していたが、2年目に「独自のラーメンを作りたい」と思うようになり、それまでのラーメンの概念を捨てた新しい味にチャレンジした。

鮮魚介とキノコで出汁を取った塩ラーメンの誕生!

澄んだスープに浮かぶアラレや星麩。ホタテの形をした最中が、ホタテとキノコのスープであることを示す。
澄んだスープに浮かぶアラレや星麩。ホタテの形をした最中が、ホタテとキノコのスープであることを示す。

そして完成したのが、ホタテ、昆布、シイタケなどで出汁をとり、パキスタンのピンクの塩をはじめ、4種の塩をブレンドして作った塩ダレを使う独自の塩ラーメンだ。

券売機には「ラーメン」とだけ書かれているのが、この店の基本の味となる「ホタテとキノコの潮味」。トッピングされたホタテの形をした最中(もなか)の皮にインパクトがある。最中の下には、ホタテの貝柱や岩海苔、チャーシューなどが隠され、周囲を九条ネギ、星形の麩、アラレなどが飾る。

これは、貝原さんの故郷、石川県金沢市の名物である「宝の麩」をヒントにしたものだ。「宝の麩」は、最中に彩り麩や乾燥野菜が入っていて、お椀に入れて熱湯を注ぐとお吸い物になるというもの。

「魚を使うことが多く、郷土料理の鍋料理をヒントに創作することもあります」と話す貝原さん。
「魚を使うことが多く、郷土料理の鍋料理をヒントに創作することもあります」と話す貝原さん。

鮮魚を巧みにアレンジした唯一無二のラーメン

券売機の近くに、この日の限定麺である「福島産メヒカリのアーリオオーリオ」のPOPを掲示していた。
券売機の近くに、この日の限定麺である「福島産メヒカリのアーリオオーリオ」のPOPを掲示していた。

ラーメンと並ぶ看板メニューが「和えそば」。ホタテとキノコの出汁を使ったまぜそばで、シイタケ、マイタケ、シメジを素揚げしたフレークをはじめ、岩海苔や大根おろし、角切りチャーシューなどがトッピングされている。

また、この店の特徴の一つに限定麺がある。「仕入れ先の魚屋から、こんな魚介が入ったよという提案を受けると、それを使った創作麺を考え、限定麺として提供しています」と話す貝原さん。この日も、福島産メヒカリのアーリオオーリオと、カニの唐揚げを使ったタイ風ラーメン・プーパッポンカレーヌードルというのがメニューに並んでいた。

これまでにも、ふぐのニュータンタンメン、ズワイガニの卵とじラーメン、鮭の醤油ラーメン、生桜エビの和えそばなど、実に多彩なラーメンを作り出してきた。今度はどんなラーメンに出合えるのか、それを楽しみに訪れる常連客も多い。

サイドメニューやごはんメニューも多いので、お好みの組み合わせで『麺場 Voyage』の味を楽しもう。
サイドメニューやごはんメニューも多いので、お好みの組み合わせで『麺場 Voyage』の味を楽しもう。

夜はトッピング料理を肴に酒を楽しむ客も

内装も通常のラーメン屋のイメージとは異なる。夜は酒を楽しむ客が多いというのも納得だ。
内装も通常のラーメン屋のイメージとは異なる。夜は酒を楽しむ客が多いというのも納得だ。

店内は背の高いカウンター席とソファータイプの椅子を置いた2卓のテーブル席という構成。おつまみのメニューを書いた黒板などもあり、ラーメン屋というより、洋風居酒屋といった雰囲気が強い。

メヒカリの唐揚げ、牛すじトリッパ、焼き鶏皮ポン酢といったつまみもあり、黒毛和牛チャーシューや穂先メンマの九条ネギまみれといったトッピングの料理を肴に酒を楽しむ客も多いという。

酒の種類も多く、券売機には、「2h制 麺つき飲放」3400円というのもあった。アイデアあふれる料理が多いので、居酒屋としての利用価値も大きいラーメン屋といえるだろう。

取材・文・撮影=塙 広明