社会の不安に加えて、自分の人生その先への不安も押し寄せる、50代。が、持ち寄った本に触れると、さまざまな思考がゆるりとリセットされ、明るい光、新しい道が見えてくるような……。なーんだ、50代、これからではないか! と導いてくれる本がざくざくだ。足腰の痛みに負けず、歩き続ける誓いが、ここに往来する。

笈入さんの読書

笈入(おいり) 建志

大学卒業後、大手書店へ就職。2000年に転職し、千駄木にある『往来堂書店』の2代目店長になる。18年より、曰く「なりゆきで」社長になり、現場以外の仕事にも奮闘する日々。人の往来が途切れない、活気ある街の本屋さん復活を目指し、それをじわじわと叶えている。

往来堂書店正面トップ用
往来堂書店
地域密着の活気ある新刊書店。文豪が多く暮らした文化の街・千駄木の、不忍通りに面した書店。1996年の開店以来、コンパクトな店内にオールジャンルが揃い、隅っこの棚まで見逃したくない、生き生きとした棚が並ぶ。

『日没』

桐野夏生 著  岩波書店/2020年
桐野夏生 著  岩波書店/2020年

「権力に抑えられる面もあるけれど、常識から外れていることを認めない空気が怖くなる。リーダービリティ最高の、エンターテイメント」

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』

上出遼平 著  朝日新聞出版/2020年
上出遼平 著  朝日新聞出版/2020年

「日本では想像もつかない世界が現実にあり、そこで人々が食べて生きているということに、有無を言わさず引きずり回される強力な本」

『あいまいな会話はなぜ成立するのか』

時本真吾 著  岩波書店/2020年
時本真吾 著  岩波書店/2020年

「阿吽の呼吸、忖度。白とも黒ともつかないあいまいな表現。文字に書かれていないことが相手に伝わったり、自分が感じたりする不思議」

『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』

ヤマザキOKコンピュータ 著  タバブックス/2020年
ヤマザキOKコンピュータ 著  タバブックス/2020年

「投資はマネーゲームではなく、自分たちの未来を方向づける投票だ。望ましい未来をイメージすることを忘れてしまった私たちに」

『「差別はいけない」とみんないうけれど。』

綿野恵太 著  平凡社/2019年
綿野恵太 著  平凡社/2019年

「不当に差別されてきた人たちが声を上げ始めた一方、多数派や権力側からの露骨な差別も目立つようになってきた。現在の背景を探る一冊」

ヤマダさんの読書

ヤマダ トモコ

マンガ研究者・マンガライター・マンガ展キュレーター。マンガとサブカルチャーをテーマにした『明治大学米沢嘉博記念図書館』のスタッフとして、展示やイベントを担当する。マンガを描く、編集する以外のマンガ関係の仕事を展開。自称、「マンガ界の隙間家具的存在」。

少女マンガを語る会
『「少女マンガを語る会」記録集 座談会1999〜2000年(全4回)』
水野英子 監修 ヤマダトモコ・増田のぞみほか 編著 /2020
1930~60年代の少女マンガについて、20年前に開催された当事者たちの座談会。とても貴重な証言の数々を紙媒体にまとめておきたいとの願いが、今年ようやく形になった。
監修は、女性で唯一の『トキワ荘』住人だった水野英子。研究者を代表して増田のぞみが科学研究費を投じた。300部印刷、非売品。

『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』

田中圭一 著  KADOKAWA/2017年
田中圭一 著  KADOKAWA/2017年

「著者はサラリーマンとマンガ家の二足のわらじ。ある時、鬱になり、その体験を元に手塚治虫風の絵で、鬱を脱した人の事例を伝えています」

『おひとり様物語①』

谷川史子 著  講談社/2008年
谷川史子 著  講談社/2008年

「いろんな立場のおひとり様が登場するショートストーリーです。自分の好きな空間で本を読んでる1巻1話の扉を見て、信者になりました」

『るきさん』

高野文子 著  筑摩書房/1993年
高野文子 著  筑摩書房/1993年

「うちで仕事しておこもり生活しているおひとり様、るきさんの楽しい暮らしを、時にシュールに描いている。親友・えっちゃんとの感じも、好き」

『てぬのほそみち』

須藤真澄 著  秋田書店/1999年
須藤真澄 著  秋田書店/1999年

「著者と担当編集者が部活動のノリで、料理や手芸を紹介。私にもできそうな気がして、読みながらぬいぐるみの着せ替え帽子(ズラ)人形を作りました」

『遠くへいきたい』

とり・みき 著  東京ニュース通信社/1994年
とり・みき 著  東京ニュース通信社/1994年

「正方形の紙面を3×3に区切ったサイレント9コママンガ。開いて、ちょっと読んで閉じるだけで、遠くにいって戻ってくることができます」

『きみにかわれるまえに』

カレー沢薫 著  日本文芸社/2020年
カレー沢薫 著  日本文芸社/2020年

「タイトルの『きみ』はペットを指します。人間のいいところ、おかしなところの両方が、ペットへの対し方を通して見えます」

『きりひと讃歌』

手塚治虫 著  虫プロ商事/1972年
手塚治虫 著  虫プロ商事/1972年

「医長は伝染する奇病と言うが、若き医師桐人は異を唱えたため社会から抹殺されそうになります。小5で出会って繰り返し読んでいる深い話」

『傘寿まり子①』

おざわゆき 著  講談社/2016年
おざわゆき 著  講談社/2016年

「80歳のベテラン女性作家が主人公。高齢者が目の当たりにする問題を考えさせられつつ、80歳って意外にシャキシャキ元気かもと感じる」

『冬の蕾 ベアテ・シロタと女性の権利』

樹村みのり 著  労働大学出版センター/2005年
樹村みのり 著  労働大学出版センター/2005年

「男女平等条項の草案を書いた米国女性の話。女性の権利について考えさせられる。シンプルな絵で史実を淡々と描くスタイル。今秋再刊に」

『らんぷの下』

一ノ関 圭 著  小学館/1992年
一ノ関 圭 著  小学館/1992年

「明治後期の東京が舞台。油絵の裸婦モデルや、日本で3番目に女医さんになった人の話が登場し、今こそ読んでほしいと思う」

荻原さんの読書

荻原 魚雷

文筆家。『古書古書話』、『古本暮らし』といった著書から連想できるように、メインテーマは古本。最近は、これに街道や古道歩きが加わり、紙媒体とWebの両方にエッセーや書評などを執筆する。『毎日新聞』にラジオ番組についての連載開始。

中年の本棚
『中年の本棚』
荻原魚雷 著 /紀伊國屋書店 /2020

中年について自問自答する読書エッセー。43歳の時に開始、50歳の誕生日に最終回を書き上げた、雑誌『scripta』の連載。

『無名の人生』

渡辺京二 著  文春新書/2014年
渡辺京二 著  文春新書/2014年

「自身のことをあまり語らない著者が、人生論や幸福論を綴っている。成功、出世、自己実現などくだらないと断言していて、生きづらい人に響いている」

『新・東海道五十三次』

武田泰淳 著  中公文庫/2018年
武田泰淳 著  中公文庫/2018年

「舞台は1969年の東海道五十三次とその周辺。名所旧跡、各地の名物、高度経済成長期の只中で変わりゆく日本の風景に、夫婦漫才も織り交ぜて」

『そして、みんなバカになった』

橋本治 著  河出新書/2020年
橋本治 著  河出新書/2020年

「本当の教養とは何か。なぜこんな日本になったのか。この先どうなるのか。身だしなみの教養を拒絶した著者の、2000年以降のインタビューを収録」

『今日はヒョウ柄を着る日』

星野博美 著  岩波書店/2017 年
星野博美 著  岩波書店/2017 年

「中央線沿線に住んでいたけど、親が高齢になり実家がある戸越銀座にUターン。その間の考え方、新しいことへの挑戦など、同時代の著者に惚れ!」

『東京発 半日徒歩旅行』

佐藤徹也 著  山と溪谷社/2018年
佐藤徹也 著  山と溪谷社/2018年

「旅行のように目的地を観光するのではなく、目的地に行くまでの道中の楽しみ方を指南。これまで考えなかった自分だけのルートを歩きたくなる」

『漂うままに島に着き』

内澤旬子 著  朝日文庫/2019年
内澤旬子 著  朝日文庫/2019年

「50歳を前に『ムリかも、東京。』と小豆島に移住。家賃や住環境の問題など、都会で暮らし続けるかどうかで迷い、悩む中年の必読の書」

『人生の諸問題 五十路越え』

小田嶋隆 岡康道 清野由美 著  日経BP/2019年
小田嶋隆 岡康道 清野由美 著  日経BP/2019年

「高校の同級生だったコラムニストとCMプランナーによる対談。お互いの半生を回想しながら老いを笑い飛ばす。読むと気持ちが楽になる」

『うらおもて人生録』

色川武大 著  新潮文庫/2014年
色川武大 著  新潮文庫/2014年

「著者50代半ばのときに書いた人生指南書。全勝ではなく、九勝六敗を狙え。欠陥車の生き方や自分のフォームを持つことの大切さを説く」

『人間臨終図鑑』(全3巻)

山田風太郎 著  徳間文庫/2019年
山田風太郎 著  徳間文庫/2019年

「古今東西の著名人の没年とその生涯を列挙。今の自分の年齢と照らし合わせながら読むことで、どう生きてどう死ぬかを考えさせられる」

撮影=門馬央典
『散歩の達人』2020年11月号より