学芸員 内田 努さん
権禰宜(ごんねぎ)でもあり、明治神宮の神職について15年。「当時と比べると外国人参拝者は10倍くらい増えた印象があります」。

大正9年(1920)、明治神宮が創建されると、その翌年、境内の北方に宝物殿が建てられた。明治天皇と昭憲皇太后の御物などが展示されていたが、重要文化財指定の建物が東日本大震災で罹災(りさい)、耐震工事などのため現在閉館中だ。

その宝物殿を引き継ぎ2019年10月に開館したのが『明治神宮ミュージアム』。建築家の隈研吾さんが設計を担当し森との親和性を意識した建物になっている。

「明治神宮は2020年、鎮座百年祭がとり行われるのですが、その記念事業の一環として、このミュージアムをつくりました。宝物殿ができてから95年以上が経ち、収蔵品を管理する環境があまり適切ではない状態になってきたので、末永く保管する目的もあります。また近年、参拝者が増えたのですが、やはり原宿駅からいらっしゃる方が多く、境内の南側にこうした展示公開施設をつくる意味が大きくなったこともありました」

1階の建物を支える柱は、森の木々をイメージしている。館内が森のように感じる効果あり。
明治神宮の成り立ちを解説するムービー。

1階は明治神宮で実際に使われている神事の道具や装束、掃き屋さんの道具、森をつくる植樹作業のジオラマなどが並ぶ「杜の展示室」、2階は明治天皇と昭憲皇太后ゆかりの御物を展示した「宝物展示室」と、企画・特別展を開催する「企画展示室」。

「2階の宝物展示室は常設になっていて、宝物殿から引き継いだものを展示しています。おふたりを描いた御尊影、儀装車(馬車)、明治天皇ご常用の御机、この3点はとくに重要です」

2階、宝物展示室の中央にある儀装車。六頭曳きの馬車。鳳凰(ほうおう)を頂いている。
明治天皇愛用の御机。大切に使い込まれた様子がわかる。
明治神宮境内の模型。
特別展の展示品にあった犬筥(いぬばこ)。ひな人形と共に飾られる道具のひとつ。※2020年10月現在は展示されておりません

100年の森を受け継いでいく

ミュージアムは森の中にあり、1階のオープンスペースからはクスやケヤキなどの樹木が生い茂る様を間近に見ることができる。基本的に境内の森は立入禁止のため、貴重な眺めである。じっと木々を見ていると、ガラス窓を越えて、森と一体化する感覚になってくる。建物空間の半分では展示を見て、もう半分では広い感覚で森をみつめるというのが、隈研吾さんのねらいのひとつだという。

オープンスペースを外から見ると、森に突きだした舞台のよう。日が落ちていく夕方の眺めもまたよし。

「館内のベンチや受付カウンター、展示用の什器(じゅうき) には、倒木など、境内で役目を終えた木々を再利用しています。本物の木材ならではの美しい木目をぜひ見てください。正真正銘、東京産の材木です」

森を大切にしてきた明治神宮だからこその試行錯誤が、随所に感じられるミュージアムである。

凹凸のある外壁面は、玉垣をイメージしている。宝物を守護する結界。

『明治神宮ミュージアム』詳細

住所:東京都渋谷区代々木神園町1-1/営業時間:10:00~16:30(入館は~16:00)/定休日:木(祝の場合は開館)/アクセス:JR山手線原宿駅・地下鉄明治神宮前駅から徒歩5分
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CAFÉ 「杜のテラス」

森の木はこんなところにも。

南参道入り口近くにあるカフェの家具にも、倒れてしまったり、枯れそうになった境内の木が使われている。ケヤキ、サクラ、ナラ、クス、カシなど種類も豊富。椅子や机には使われた木の種類が書いてある。コーヒー400円ほか軽食あり。

取材・文=屋敷直子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2020年1月号より

東京都心、原宿駅からすぐという立地に鬱蒼(うっそう)とした森がある。誰しもその名は知っているが、そもそもどんな成り立ちなのか。明治神宮には、ひとつの時代そのものの歴史が刻まれている。広大な境内を散策するための見どころを紹介しよう。