府中市 DATA
面積……29.43平方キロメートル
人口……26万2162人(2025年1月現在)
競馬場とビール工場を越えて『大東京綜合卸売センター』へ行こう!
突然ですが!今回は“市場”の中に位置する、地元で話題のお店に行きます!
その市場とは、府中市矢崎町にある『大東京綜合卸売センター』、通称「府中市場」。
規模は多摩地域最大級。入居する店舗数は、生鮮食品から資材まで、70店舗を超えます。
朝早くから飲食店のプロが買い付けに来ますが、一般客の利用も大歓迎。府中市民の間では、バリエーション豊かな食事処も人気です。
今回は、JR南武線・武蔵野線の府中本町駅から歩いていくことに。その道すがらに見えるのは、巨大な有名施設群。
競馬場とビール工場……ここで、松任谷由美(荒井由美)さんの『中央フリーウェイ』の歌詞を連想する方もいるのでは。
曲中で、中央自動車道の両側にこの2施設が見えることが歌われますが、それがまさにこの府中市矢崎町・南町近辺なんです。
そういえば 前回記事で、府中を代表する菓子店『青木屋』の工場がこの近辺にあることにも触れました。サントリーのビール工場もあり、良質な湧水に恵まれることが立地選定の決め手だったそう。
……で、南へ歩くことしばらく。無事、府中市場に着きました!ついつい入り口に並んだ、青果店の野菜に目を奪われます。
で、「第5通路」という通路をどんどん奥に進むと……。
見えました!今回の目的地『AsianMeal(アジアンミール)』。スパイスとアジア食材のお店です。
まるで魔術!店頭での実演スパイスミックスを体感せよ
早速出迎えてくださったのは、ご夫妻でこの『AsianMeal』を営む海野博士(うんのひろし)さん・陽子さん。この店に通うスパイス界隈(?)の間では、ハカセさん・ヨーコさんという愛称でおなじみです。
そして看板の横に吊るされた青バナナも目をひきますが、これについてはのちほど。
しかし卸売市場と聞いて連想するのは、肉や魚の専門店。アジア専門というジャンルは、一見すると異色ですよね……?
この立地に店を構える以前、ハカセさんは立川で中華食材専門店の店長を任されていたそう。
ちょっと話は脇道にそれますが、かつてJR立川駅の商業施設・グランデュオの7階に、ワンフロアまるごと中華レストラン街という「立川中華街」が存在していました。ハカセさんの勤務店は、その階で唯一の物販店だったそうです。
そのうち、府中市場のこの一角が空くタイミングで縁があり、2005年に独立開業という形で『AsianMeal』を夫妻でオープンさせました。
ハカセさんいわく……、
「開業後、いろんなアジアの国の人が来て、あれ入んないの?これ入んないの?って、みんな事細かく教えてくれたんですよ」
ということで、中国のみならずアジア全域、と取扱食品の幅も拡大したとのこと。
もちろん各国料理店のプロご用達ですが、スパイスワークショップや出張販売など海野さん夫妻の旺盛な活動もあり、一般客も気軽に訪れやすいお店として親しまれています。
いや〜!しかし、スパイスコーナーだけ見ても圧倒的な品数ですよね。
物量を前に立ちすくむ筆者の前に、ハカセさんが「ちょっと待ってて」と一言。すると、何やら重そうな箱が登場……!
たくさんのスパイスがぎっしり詰まったボックスでした。
で、ここからはすごいです。店舗の一角で、お試し調合大会が開幕!こちらは、スパイス初心者の一般のお客さんでも体験できるとのことですが……!
まず筆者の手のひらに、木の皮の破片のようなモノをのせてくれたハカセさん。
「シナモンにも2種類あるんだけど、これは肉桂(ニッケイ)。八ツ橋の香りがするでしょ」
筆者も思わず反応。
「本当だ!八ツ橋!」
「で、ここにカルダモンと、すりおろしたクローブを入れると、チャイの香りになる」
「お!チャイだ!」
「さらに“あるもの”を入れるから、よく揉んでからかいでみて」
「おぉ〜!コーラに変わった!」
「でしょう。かぐと、無条件にリラックスする組み合わせと言われてるんです」
まるで魔術!嗅覚情報がWEB上で伝わらないのが悔しい〜!
最後には本当に、流行りのクラフトコーラみたいな香りへと変化したのです。最後に加えた“あるもの”が何なのかは、ぜひ読者の皆さんも直接体験してお確かめください。
実演に魅了されたところで、再びスパイスコーナーの棚に戻りましょう。
現状取り扱い中のスパイスの種類は、150種類ほどだそう。クミン、カルダモン……などは家庭でもメジャーになりつつありますが、筆者には全くなじみのないものが大多数。
例えば、青マンゴーの粉末「アムチュールパウダー」は、意外にも「あの酸っぱいポテトチップス」にまぶされているような強い酸味のある粉。
「パンチ・フォロン」という混合スパイスは、ベンガル語で“5つ・弾ける”という意味。炒めもの作りの最初に油へ香りを移す、「テンパリング」という工程で重宝されるそう。
で、スパイスの棚とはまた別に、香草類・ハーブ類の棚もあります。
……と、ここで。ありがたいと思ったのが、大部分のスパイスやハーブが小袋に分けて売られていること。一例として、クミンシードなら50gで240円と、素人でも非常に買いやすいお値段と量なんです。
その小袋へのこだわりについて伺うと…… 、
「新鮮なうちにどんどん使い切れるから、小分けの方がいいと思って。商品の回転もいいんです」とハカセさん。
これなら、家庭でいろいろなスパイスを試したい人にも心強い!
調味料にも目移りしちゃう……そんなアナタにまずこの3品
もちろん!『AsianMeal』の商品は、スパイス&ハーブだけにあらず。
瓶やボトルに入った調味料や、缶詰、乾物など……アジアの食品とあれば、守備範囲はものすごく広いです。
こちらでも海野さん夫妻に、アジア食品初心者でも試しやすいモノを3つ紹介いただきました。まずは、こちら……!
1品目は、「DATU PUTI スパイスビネガー」。
「フィリピンの、唐辛子やタマネギやニンニクなどいろんなスパイスが一緒に浸かったお酢。餃子なんかにも合うんですよ」とハカセさん。
続いては、中華関連の棚に移動して……、
2品目は、「DAIKO 花椒油」(ホァジャオユー)。
本場の中国山椒・花椒といえば乾燥した固形のイメージですが、これはその香りを油に移したもの。麻婆豆腐の仕上げにひと回しすると、最高とのこと!
そして、タイの食品が集まるゾーンに。
3品目は、「カノワン カオソーイ カレーペースト」。こちらを紹介してくださったのは、ヨーコさんです。
「カオソーイとは、カレーみたいな味のスープの中華麺。中華麺と揚げ麺という2種類の麺を使うカオソーイが、私はことのほか好きなんです」
このカオソーイの素をベースにして、具に鶏肉を入れて作るとおいしいんだそう。これは試したい!
雑貨にZINE、おみくじまで。「食品じゃない」コーナーもアツい!
ここまで食品を紹介しましたが、そこここに食べ物“以外”が並ぶ棚も目立つのが『AsianMeal』。それらのコーナーは、主にヨーコさんが作り込んでいるそうです。例えば、こちらは雑貨や食器の棚。
インドの小ぶりなチャイグラスに、タイの薬味入れ……。
そういえば、各国料理店で見たことあるある!という輸入小物がズラリと勢揃い。
その一角のザルの中に、「スパイスおみくじ」なる紙モノも!
この中身はお楽しみ……ということで、みなさんぜひ府中を訪れて、引いてみてください!
一枚一枚にスパイス名と運勢が書いてあり、筆者は「カルダモン」を引き当てました。スパイスの女王、という異名があるそうです。高貴〜!
グラフィックデザイナーのお仕事もなさっていたというヨーコさん。この「おみくじ」や店内の掲示物のデザインに加え、例のスパイスやハーブ小袋のパッケージも、ヨーコさんが手掛けています。
また別の一角には、ZINE(個人制作の小冊子)が並ぶコーナーも。複数の制作者による、アジア各国の旅行記やレシピについてのZINEを販売しています。
さらには、店内で「バナナのある風景展」という写真展を開催したことも。
店頭の青バナナが象徴的なこのお店で、2019年、開店15周年の節目に行ったとのことですが…… 、
「Twitter(現・X)でつながってる人たちがいつしか、アジア各国の街角にバナナがある写真を撮って、私に向けてアップしてくれるようになったんです。それがみんないい写真で」とヨーコさん。
せっかくなのでそれらをリアル空間に展示しようと、ヨーコさんがデータを集めてプリントアウト。店じゅうが、インドネシアやネパールなど、そして日本を含むアジア各国で撮影された「バナナのある風景」で彩られたそうです。
入り口を彩る看板商品たち。青バナナにササゲ、「12星座のスパイス」とは!?
そうです、肝心なのは看板の横で存在感を放つ青バナナ!
最初から筆者がずんずん店の奥に突入してしまったあまり、見落としてしまっていましたが……!“お店の顔”ともいうべき入り口コーナーを、じっくり拝見しましょう。
この青バナナ。本格的に取り扱うに至ったきっかけはやはり、青バナナを盛んに食すというスリランカのお客さんからのリクエストだったそう。
「扱っているところも少ないし、あるとしても箱単位。試しに仕入れて一房単位で売ってみたら、本当に喜ばれて」とハカセさん。
そのそばに「十六ササゲ」として陳列してある豆は、特にフィリピン出身者からの支持が厚いそう。
「ササゲはフィリピンではメジャーな豆。今ではうちで売るためだけに、隣の多摩市の仲良い農家さんが作ってくれるんです」
それら青果類に並んで、同じく店の入り口で一際目立つのは、オリジナルブレンドスパイスのコーナー。
先ほど紹介したような素材単体の小袋だけでなく、『AsianMeal』で独自に調合したスパイスも、イチオシです。
例えば「ガーリックセロリソルト」は、食塩にセロリシード(セロリの種子)、ニンニクを調合したもの。焼いた鶏肉へパラパラかけるだけで香草焼き風の仕上がりに。
鮮やかな赤色が目をひく「もえじお」も塩ベースですが……風味づけは、唐辛子・胡椒・ニンニクのトリプルパンチ!薬膳の観点では、この3種のスパイス複合作用が冷え性によく効くそうです。
ちなみに……本取材には府中市場の広報・守本さんも立ち寄ってくださいました。実は、守本さんが以前、冷え性について海野さん夫妻となにげなく雑談したことが、「もえじお」のブレンドのヒントになったのだとか。
商品紹介の大トリとして……。超個性派の、こんなオリジナルスパイスもあります。その名も「12星座のスパイス」!
その名の通り、12星座ごとの名前を冠したスペシャルブレンドみたい。
解説ボードを見ると、筆者の生まれたさそり座は……
「ミステリアスな魅力・官能的」で、用途は「やきいも・蜂蜜など」。ハカセさん、これって……?
「市場内で月に一回開かれる古道具市イベント(フチュウ フルドウグ マルシェ)に、たまに占い師さんが出店するんですよ。で、仲良くなってしゃべって、12星座ごとの性格を教えてもらったから、それをイメージして12種類作ったんです」
……いや〜、すごい!アジアを飛び出て、星の世界にまでイメージが及ぶとは。
ところで近隣スポットの話になりますが、この府中市場からほど近い『府中市郷土の森博物館』には有名なプラネタリウムがあります。地元・府中市に本社を構えるプラネタリウムのトップメーカー「五藤光学研究所」製で、ドーム径23m、水平型では関東最大級というわざわざ訪れたい立派な設備。
(ちなみに府中市場も、元は五藤光学研究所の商事部門として1966年に卸売業務を開始。現在、市場の運営主体は同社から分離独立しており、「株式会社大東京綜合卸売センター」が開設者となっています)
……というわけで、どうでしょう。『府中市郷土の森博物館』のプラネタリウムで宇宙の星々に思いを馳せたあとに、『AsianMeal』でマイ星座のブレンドスパイスを買うというのは……まさにスペーシー&スパイシー、『2026年府中の旅』のご提案でした!
取材・文・撮影=イーピャオ








