アクセス
鉄道:JR東京駅から東北新幹線・東北本線で約1時間10分の宝積寺駅下車。
車:東北自動車道川口JCTから東北自動車道・北関東自動車道を利用し、宇都宮上三川ICまで約95km。同ICから高根沢町中心部まで約20km。東北自動車道宇都宮ICも利用可。
田園風景が間近に広がる人気イタリアン『イタリア食堂 ヴェッキオ・トラム』
「東京の店で料理長として仕入れを任されていたとき、栃木県の食材のポテンシャルの高さに感心し、2016年に妻の実家がある高根沢町への移住・出店を決めました」と代表の照井康嗣さん。地域の創業支援も受けながらの船出だったが、何よりこの町で必要とされ、謙虚な姿勢を住民が受け入れてくれたのが大きかったそう。農家をはじめ人の縁も広がり、農産物の移動販売を皮切りにカフェ、ジェラート店、加工品販売など事業を次々展開。「今後も単なる料理人の枠を超え、町の魅力を発信すべく自分なりにブランディング化していきたい。それが実現できる場所だし、今はやりがいしかないです」と思いは熱い。
のぶおばんどを率いて高根沢を盛り上げる! 地域おこし協力隊・中島伸雄さん
「地域おこし協力隊に応募した際、満員電車に揺られる東京でのサラリーマン生活が嫌なのでとも言えないので、音楽で町おこしをしますと宣言したところ採用されまして」と苦笑する広島県出身の中島(なかしま)さん。着任翌年の2017年には早くも「のぶおの音楽祭」を企画。自らものぶおばんどを結成し、“そこそこ”便利で“そこそこ”のどかな町の印象を歌った「住めば都の高根沢」が、ご当地ソングコンテストでグランプリを獲得。これを機に県の魅力を発信するとちぎ未来大使に任命された。現在はちょっ蔵広場を管理するマネージャーのかたわら、『いちごのうた』CD販売、ラジオ出演など、地域を盛り上げる活動を継続。被爆3世でもある中島さんは今年8月6日に栃木県遺族代表として広島平和記念式典に参列し、同日、「へいわのうた」をYouTubeで公開した。
最初の一歩を踏み出す駅前のお試し創業施設『クリエイターズ・デパートメント』
宝積寺駅東口のちょっ蔵広場に隣接した町営の創業支援施設。「イベントスペース―芝生―」と銘打った多目的広場を取り囲むように5棟の小さなログハウスが並び、創業希望者らに月額1万円と格安料金で最長2年間貸し出している(応募条件・審査あり)。各施設の案内や維持管理を担う「移住・定住・創業支援センター」のスタッフとして、2017年の立ち上げ当時から携わる山田祐子さん(写真左)は、「少々堅苦しい施設名ですが、隈研吾さんが手がけた駅舎を見に来たついでにでも気軽に立ち寄ってください。もしかすると、夢につながるヒントを得られるかもしれませんよ」と明るく語ってくれた。営業時間・店休日は店舗ごとに異なる。
町の木を用いたオリジナルギターも製作『デラックスケーブル』
「手先が器用で、高校生の頃からギター修理をしていました」と笑う渡辺有樹さん。就職後も口コミで依頼が来るほどの腕前で、『クリエイターズ・デパートメント』1期生を経て、町内の石蔵に工房兼店舗を移転。修理・調整がメインだが、伐採から全工程に立ち合い、町の木を使ったオーダーメイドのギターも製作。「手に取りたくなる、弾きやすい楽器を心がけてます」と渡辺さん。
自然の残る小高い丘に多彩な施設が点在『道の駅たかねざわ 元気あっぷむら』
幹線から離れた閑静な地に広がる異色の道の駅。ひと際目を引く和風建築の本館を取り囲むように、各種食事処、農産物直売所、ビザールプランツ専門店、情報提供館、宿泊施設『縄文-COTTAGE-』などが点在。施設が集まる丘から少々下った池のほとりに宿泊用トレーラーがずらりと並ぶ『GOOD DAYS INN』には、愛犬と一緒に過ごせるタイプの部屋もある。
移住・定住・創業・子育てを、町を挙げて全力サポート中
JR宇都宮駅から東北本線で2駅。烏山(からすやま)線の起点でもある宝積寺(ほうしゃくじ)駅の改札を過ぎ、東口のちょっ蔵広場を通り抜けた先にあるのが町営の創業支援施設『クリエイターズ・デパートメント』だ。訪問時、5棟のログハウスは満室で、人気のほどがうかがえる。
共に要件はあるものの、東京圏からの移住・就職に対する支援金、結婚新生活支援事業補助金といった金銭面での補助に加え、満18歳までの医療費無償化や多子世帯の第2子以降保育料無償化などの負担軽減策、英語教育の充実や海外留学に対する金銭補助といった人材育成など、役場担当部署の垣根を超えた、町を挙げての手厚いサポート体制に驚かされた。裏を返せば、宇都宮のベッドタウンでありながら、何も手を打たなければ衰退につながる危機感の表れとも言えるだろう。
これら数々の施策を丁寧に説明してくださった企画課の菅谷昌孝さんから不意に、「『たかマガ』ってご存じですか?」と尋ねられた。聞けば町内在住で、「ひばらさんのデザイン工房」代表であるグラフィックデザイナー・檜原(ひばら)朝美さんが2021年に立ち上げた地域密着型WEBマガジンとのこと。イベント、グルメ、観光、人物、歴史情報のほか、町内のマニアックでニッチな話題を発信し続けているという。さらに、「これもあれも、檜原さんが作成したものです」と冊子やチラシが次から次へと並べられていく。「ぜひお目にかかれれば」と伝え、教わった事務所へ向かった。
共感の輪が徐々に広がり、地域の活性化へと結びつく
出迎えてくれた檜原さんは、初対面にもかかわらず、『たかマガ』を始めた経緯や地域の実情を面白おかしく語ってくれた。センスのよい仕事ぶりに気さくな人柄も加わって、官民問わず引っ張りダコなのもうなずける。
改めて檜原さんが携わった作品を見返すと、『イタリア食堂 ヴェッキオ・トラム』の照井康嗣さんが旗振り役のイベントチラシや、中島伸雄さん率いるのぶおばんどのCD『いちごのうた』のデザインが含まれていた。それぞれ異なるルートで取材を進めたにもかかわらず、こんな風に次から次へと人間関係がつながっていくのが興味深い。『クリエイターズ・デパートメント』で紹介された『デラックスケーブル』の渡辺有樹さんが中島さんの活動に共感し、いちごベースを無償提供したと知ったのもたまたまだ。
前出の照井さんが、「自分も伸雄くんもそうだけど、外から来た人間が独りよがりにならないよう気を配り、地域に寄り添いながら活動することで、少しずつ人間関係をつくっていくことができたのでは。そうするうちに考えている方向性が同じ人が徐々に増え、共感につながったんじゃないかな」と物静かに語っていたのを思い出す。
「高根沢町のほとんどの小学生が僕の曲を歌えるんですよ」と中島さんに声をかけられ、半信半疑で出張ライブに同行した。ソフトな歌声に最初はおとなしく耳を傾けていた児童たちも、気づけば目を輝かせながら「住めば都の高根沢」や「いちごのうた」を一緒に熱唱している。共感の輪の広がりを目の当たりにしながら、「すごいなぁ、伸雄さん」と心の底から感服した。
【耳よりTOPIC】満を持して、思いを込めた『たかマガ』紙版を発刊!
「いずれは持ち帰って手元に残る媒体にしたいと思い、WEB版を立ち上げる際に『マガジン』の『マガ』を入れたんですよ」と高根沢探訪WEBマガジン『たかマガ』を運営する地元出身の檜原朝美さん。2026年7月に念願の紙版『たかマガ』準備号を発行。企画・編集・取材・撮影・イラスト・DTPから印刷手配・納品まで、たった一人でこなした20ページのフリーペーパーで、町内の観光施設や飲食店などに置かれた。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2026年9月号より








