店主の黒田さんは唎酒師の資格を持つ
日本酒と備長炭で焼く串焼きの専門店。店主の黒田英徳さんは唎酒師の資格を持ち、バーテンダーの経歴もある。酒に関する知識の深さや、表現力、物腰の柔らかさはそこから来ているのかも知れない。「最初は電熱で焼き鳥を焼いていた店で働いていましたが、炭火で焼いてみたいと思い炭火焼の店へ転職しました」と黒田さん。修行を積んだ後、30歳で独立し、2002年に赤羽で店を構えた。今では、お客さんの好みや料理に合わせて、さまざまな日本酒を提案している。
さらに特筆すべきは、駅前の繁華街にありながら、落ち着いた雰囲気があること。黒を基調とした店内に間接照明が優しい。これも黒田さんのこだわりだ。
食べ比べ、たどり着いた鶏は千葉産の錦爽鶏
焼き鳥に使う鶏肉は専門の業者から、その日解体した鮮度の良い鶏肉を届けてもらっている。選別は目利きの業者に任せ、部位ごとに違う銘柄の鶏肉を仕入れている。その中でも黒田さんの一押しは、千葉産の錦爽鶏(きんそうどり)。「実際にいろいろな鶏を部位ごとに食べ比べてみたのですが、錦爽鶏が一番柔らかくて、ササミなどは中まで火を通しても硬くならないんです。モモも、とびきりジューシーでおいしいですよ」と黒田さん。
「レバーも鮮度のよい白みがかったピンク色のものから、赤みが強いものまでランクがあります。うちは鶏屋さんとの付き合いも長いので、いい状態のレバーを届けてもらっています」
長年の信頼があるからこそ、手に入る逸品だ。
希少部位の焼き鳥は、食べやすい部位をチョイス
手羽元せせり、ふりそで、とりはらみ、はごいたといった希少部位の4本セットもおすすめしたい。
首の周りの肉でもわずかな筋肉の部分、一羽の鶏から60gほどしか取れないせせり。ほかにも、尾羽の付け根近くの肉、はごいたは、コリコリとした筋肉の食感と、ほどよい量の脂の旨みが絶妙だ。「希少部位の4本は、クセがなくて誰にでも食べやすい部位を選びました。それでいて味の違いがはっきりわかるもの。脂の味や弾力、食感ですね」。繊細な味の違いを、ぜひ食べ比べてほしい。
自慢の日本酒とくつろげる店を、これからも赤羽で
「日本酒は『まず辛口を頂戴!』といわれた場合は辛口の鶴齢(かくれい)小グラス(75ml)462円をお出しするなど、お客様のリクエストに答えています」と黒田さん。ほかにもダルマ正宗(まさむね)小グラス(75ml)462円など、年月をかけて熟成された古酒もある。紹興酒のように透明な金色になり、豊かな芳香を放つ珍しい一本だ。岐阜県にある古酒しか製造していない珍しい酒造のもの。クセが強いので、食後に飲むのがおすすめだ。日本酒の奥の深さを痛感させられる。そのほか、初心者にも分かりやすい味のものをそろえているので、“ツウ”じゃない人も安心してほしい。純米と吟醸酒の飲み比べもできる。
「これからも、ずっと赤羽で大事にお客様をお迎えしていきたいですね。赤羽価格としては少し高いですが……」と黒田さん。それでもほかの繁華街に比べれば安い。赤羽で、今日はしっとり静かに飲みたいなという時に覚えておきたい一軒だ。
取材・文・撮影=新井鏡子