クジラの刺し身が本気すぎる

『よもだそば』は、田舎風の自家製麺に化学調味料を使わないツユ、さらに種類豊富な天ぷらに和風インドカレーと、売りがやたらに多い立ち食いそばチェーンだ。とにかくどれを頼んでもハズレのないおいしさで、老若男女を問わず、高い人気を誇っている。

個人的に一番、好きなニラ天そば610円。ニラの香り甘味がたまらないのです。
個人的に一番、好きなニラ天そば610円。ニラの香り甘味がたまらないのです。

『よもだそば』は近年、立ち飲みもできる店舗を展開しており、今回の『三越前店』もその流れにある。そば屋がやる立ち飲みとなると、つまみは天ぷら類が中心であとは簡単なものになりがちだが、こちらの店は看板で「生牡蠣! くじら! 馬刺し!」とアピールしているように、居酒屋顔負けのメニューをそろえている。

推しのひとつであるクジラの刺身二種盛り合わせは、ナガスクジラとイワシクジラが、2人で食べても十分な量で600円という安さ。食べてみると、ナガスクジラはワイルドさを感じ、イワシクジラはスッキリとした味わい。臭みなどまったくなく、ねっとりと舌に絡むようなうまさは、いかにも酒がすすむ。

箸で持っているのはナガスクジラ。見た目では区別がつきにくいが、味はちゃんと違う。
箸で持っているのはナガスクジラ。見た目では区別がつきにくいが、味はちゃんと違う。

『よもだそば』代表取締役の九十九章之さんは、日本鯨類研究所のトップである人物とも懇意で、この日も「クジラは日本人が昔から食べてきたジビエですから、もっとたくさんの人に食べていただきたいんです」と語っていた。このおいしさと安さは、その熱意があるからこそなのだ。

飲みフロアの2階はテーブル席のみ。
飲みフロアの2階はテーブル席のみ。

飲みのスペースは店舗2階。メニューは1800円で60分のセルフ飲み放題で、生ビールにレモンサワーとハイボールは自分でサーバーから注ぎ、越乃景虎や加賀鳶など地酒類11種類、さらには黒伊佐錦やちんぐなど焼酎類も自分で注ぐ。ラインアップは豊富でかなりお得だ。

刺し身類以外にもモツ煮込みやくじら竜田揚げなど、さまざまにそろったつまみ類は、タッチパネルで注文すると、店員が2階のテーブルまで運んでくれる。店側の手間を極力排したことで、この安さを実現しているのだ。

オートサーバーだから泡立ちも完璧。
オートサーバーだから泡立ちも完璧。

『よもだそば』出店ラッシュのわけ

この『セルフで呑める よもだそば三越前店』で、「よもだ」と名のついた店は都内で10店舗目。『よもだそば』は長く日本橋店と銀座店の2店舗だったが、ある時期から出店ラッシュともいえる状態になっていった。日本橋・銀座以降の出店を整理してみよう。

2017年:『よもだそば名古屋うまいもん通り広小路口店』
2020年:『よもだそば新宿西口店』
2021年『よもだそば名古屋サンロード店』
2021年『よもだそば御徒町店』
2021年『よもだそば新宿西口2号店』
2022年『立呑みよもだ(有楽町)』(そばはなし)
2024年『よもだそば有楽町店』
2025年『立呑みよもだ丸の内南口店』
2025年『よもだそば二八丸ビルマルチカ店』
2026年『セルフで呑めるよもだそば三越前店』

これは『よもだそば御徒町店』。
これは『よもだそば御徒町店』。

時系列で並べてみると、コロナ禍以降、急速に拡大していることがわかる。思い出せばあの頃は、国による緊急事態宣言の発令もあって外食産業は瀕死の状態となり、飲食店の閉店が相次いだ。『よもだそば』はピンチをチャンスにと、空いた物件を狙い始めたのか……と思ったのだが、そこまで「攻め」を意識していたわけではないという。九十九さんによると、「けっこう行き当たりばったり」。基本はいい物件があったら出す。あるいは店舗のオーナー側から申し出があったから始めたというケースも多いようだ。

こちら三越前店は「いい物件が空いたから」。
こちら三越前店は「いい物件が空いたから」。

たとえば『新宿西口店』は物件が空いたから始めた。一方でJR御徒町駅のガード下にある『御徒町店』は、JR側からの提案で出店したのだという。東京駅のガード下にある『丸の内南口店』も同様だ。これにはJR側の思惑もあったようだ。駅関連施設に入っているテナントはどうしても大手チェーンが多く、画一的なラインアップになりがち。近年はそれを脱却し、多様な店揃えにする方向になってきているのだという。個性的な『よもだそば』に声がかかったのは、そんな理由もあったのだ。九十九さんに「駅関連施設に出店する」という強い意志があった、というわけではないのである。

基本姿勢はやはり「よもだ」

思えば『よもだそば』の「よもだ」は、九十九さんが育った愛媛県松山地方の方言で、「いいかげんだが憎めないやつ」という意味。その言葉は『よもだそば』のメニューにもあらわれていて、よもぎ天やチーズなど変わりダネがあったり、そば屋なのに本格的なカレーを開発したりとやりたい放題だ。しかし、ただ適当にやっているというわけではない。行き当たりばったりなところはあるが、確実に面白くなる方向を、常に目指している。そして、それを実現するために、九十九さんは労を惜しまない。だから『よもだそば』はおいしいし、面白いし、多くの人の支持を得ているのだ。

食べるときに絶対に迷う膨大なメニュー群。
食べるときに絶対に迷う膨大なメニュー群。

九十九さんらしさが出ているメニューが、店の推しである牡蠣だ。この日は生牡蠣は品切れで、いただいたのはブランド牡蠣である愛知県篠島の朋輩牡蠣を使ったカキフライ。肉厚でとにかくうまみが濃い。しかも貝類に感じられるえぐさはまったくなく、澄み切ったきれいなおいしさだ。

自家製タルタルソース付きのカキフライ800円。粒がでかい!
自家製タルタルソース付きのカキフライ800円。粒がでかい!

この牡蠣はブランド牡蠣だけを扱う商社から入れているのだが、その商社をやっている人は、九十九さんの名古屋のメシ仲間。名古屋で『よもだそば』をやっている関係で名古屋に通ううちに知り合い、「それならブランド牡蠣を店で出そう」ということになったのだという。実に「よもだ」である。ちなみに『三越前店』では朋輩牡蠣以外にも、佐賀県太良町の海男オイスターと三重県的矢の伊勢志摩プレミアム、さらにはそれ以外のさまざまなブランド牡蠣を、順番に提供していく予定だ。

いろいろなブランド牡蠣が楽しめる。
いろいろなブランド牡蠣が楽しめる。

ちなみにトップ画像の鴨せいろ850円で使われている鴨肉も、商社から鴨肉を大量に購入できる機会があり、そこから始めたもの。通常、使われている胸肉ではなくモモ肉だったため、安価だったという。胸肉以上に鴨の脂がしっかり味わえて、かなりおいしい。

鴨肉のうまみが濃い!
鴨肉のうまみが濃い!

さて、あまり「よもだ」を強調しすぎるのもよくないので、違う話を。『三越前店』ではオープン当初、二八そばを売りにしていたが、最近になって他の店舗と同じノーマルのそばに戻した。理由はツユとのマッチングがよくなかったから。よもだのツユは、カツオ、ソウダ、サバ、ウルメ、煮干し、昆布のダシで作られていて、コクとスッキリさが非常にうまくバランスされている。実はその配合、とり方などは少しずつ変え、日々ブラッシュアップさせているのだ。そこまでして作られたこのツユには、新たに始めた二八よりも、長年作ってきたノーマルのそばのほうが合うという判断だ。おいしさに関しては、ちっともいいかげんではないのだ。

食感、香りのバランスがいい『よもだそば』の自家製麺。
食感、香りのバランスがいい『よもだそば』の自家製麺。

そば屋としても立ち飲み屋としても、十分に魅力のある『よもだそば三越前店』ではあるが、九十九さんによると2つの業態を同時にやるのは難しいところも多いという。それでも、新規出店については、いい話がきているようで、いくつか動き出しているという。新しい店はそばメイン? あるいは飲み? 両方? いずれにしても、かなり「よもだ」な店になりそうで、楽しみである。

住所:東京都中央区日本橋本町1-5-1/営業時間:7:00~23:00/定休日:元日/アクセス:地下鉄半蔵門線・銀座線三越前駅から徒歩3分

取材・撮影・文=本橋隆司