“下北沢で古着を探すなら「東洋百貨店 本館」”という時代があった
「東洋百貨店 本館」は、運営元である東洋興業が自社で管理していた、再開発でいずれなくなってしまう駐車場に造った商業施設。代表取締役社長の小清水克典さんが言うには、「開業当初、入店者の約半数が初めてお店を持つ人たちでした」。
店内を細かく区分けし、小規模で商売を始められるようにしたのは、「出店のハードルを下げ、起業のトライアルの場として使用してもらおうと考えた」から。そこに「アイデアも熱量もあるが、お金がない」という人たちが集まり、多種多様な「下北沢らしさ」の、重要な一つを形成していった。
はじめは、全部で20軒くらいあった店舗のうち古着店は7軒ほど。やがて古着ブームが進むにつれ、古着店が増えていった。
『東洋百貨店 別館』もやはり、古着店をはじめ、複数の店舗がぎゅっと肩を寄せるようにして並んでいる。これらの個性あふれる、膨大な商品の中から目当ての一品を掘り出す興奮といったら、まさに筆舌に尽くしがたい。
マニアもうなる『SMOG』の品揃え。色とりどりのサッカーユニフォームはすべてオリジナル
天井までぎっしり埋め尽くすサッカーユニフォーム。親子2代で続く古着店『SMOG』は、「両親が『東洋百貨店 本館』でオープンしました」と、店主の梶山健人さん。こちらの別館に入っている店舗は、最初は梶山さんの弟が営んでいたが、梶山さんに変わってからサッカーユニフォームを中心に展開するように。レプリカは置かず、ディーラーやコレクターから仕入れたオリジナルの古着のみを扱っているので、遠くからわざわざ足を運ぶマニアも多い。
オリジナルはレプリカとは違い、生地や縫製がしっかりしている。状態がよく、人気選手のモデルだとその分価値が上がるそうだ。さらに、その選手がMVPを獲得したり、チームが優勝した年だった場合にもぐんと需要が高まる。
サッカーユニフォームのデザインは毎年変わるうえに、ホーム戦とアウェイ戦、リーグ戦とカップ戦でも違い、その点でもコレクターの心をくすぐるのだとか。
「ここ数年で、サッカーユニフォームはファッションアイテムとして浸透してきました」
鮮やかなカラーリングが好まれ、これを着て街を歩いている姿は実に目を引く。サッカーが盛んなヨーロッパで、ミュージシャンなどの著名人がスタイリングに取り入れ、そこから火がついた。そして、彼らに憧れるファンが真似をし始め、20〜30代を中心に世界中に広まり、「デニムやスラックスを合わせたり、上からジャケットを羽織ったりして、みんな自由に楽しんでいます」。
『3びきの子ねこ』で、隙間なく並べられた商品に溺れそうになりながら選ぶ楽しみ
『3びきの子ねこ』も、『東洋百貨店 本館』開業当初からあった古着店。別館で営業する「ミカン下北店」は、下北沢2号店にあたる。
高円寺や池袋にも支店があるが、街ごとに方向性を変えていて、「下北沢はカラフルかつポップなイメージ」と店長・芳賀百合香さん。レディースの国産古着をメインにレトロなデザインのものを集め、価格帯は990円からと幅広く、初心者でも入りやすいのが特徴だ。
「以前、古着を買ったことがないという女の子が来て、『今度初めてデートをする相手が古着好きなので、着ていく服を一緒に選んでほしい』と相談してくれたことがあります」
そうやって二人で考えたコーディネートを、彼女はまるごと購入していったらしい。「喜んでくれてよかったです」と話す表情がとてもうれしそうだ。
古着の魅力を聞くと、「現代の大量生産では作り出せない質感」と芳賀さん。例えば、クロシェのようなニットから感じられる柔らかい手編みの雰囲気は、「まさに古着ならでは」。細かい装飾や、繊細なレースの模様も機械ではなかなか作れない。そんな掘り出し物を探すのも、大きな醍醐味と言える
ちなみに、昔の古着好きは、上から下まで全身ビンテージファッションで固める人が多かった。しかし、それも時代によって変化しているという。
「近頃は、古着と新品をミックスするのが主流です」
そのため、古着らしさがありつつコテコテではない、今どきの洋服にも組み合わせやすいデザインを中心にセレクトしている。
下北沢という街のルーツは、戦後まもなく駅前広場に生まれた闇市にある。「その闇市がのちに下北沢駅前食品市場になり、下北沢のにぎわいを作ってきました」と、東洋興業の小清水さんは教えてくれた。その場所も2017年、駅周辺の再開発に伴い取り壊されたが、一方で小清水さんは、大きな資本ではなく、小さな個人やお店が集合して一つの場を作っている「下北沢のDNAや記憶」を少しでも長引かせたいと考える。
「扱っている商材は違いますが、駅前食品市場のような商業施設を造りました」
個性がひしめく「東洋百貨店 本館」と、それに続く『東洋百貨店 別館』は、「個人の『人間力』が集まってできている下北沢」の縮図と言える。
2026年現在、数年後に再び「東洋百貨店 本館」を立ち上げるプロジェクトが進行中らしい。今からとても楽しみだ。
取材・文・撮影=信藤舞子








