台湾のお手軽な日常食、牛肉麵
日本のラーメン店のごとくチェーン展開する有名店もある。それが『三商巧福(サンショウコウフク)』だ。「美味しい・庶民的・安心安全」をスローガンに台湾で約150店舗を展開。方々で目にするオレンジ色の看板は、さながら我が国の吉野家(そういえば吉野家も台湾に上陸してた)。吉野家がそうであるように「今日はアソコの牛丼でいいか……」的に訪れる、お手軽な日常食である。
海外のチェーン店は、物価、人件費、食材の違いなどから割高になり、上陸すると妙に高級化してしまうケースも少なくない。大ブームとなった台湾発祥のタピオカミルクティーがいい例だ。三商巧福はというと現地同様に価格共々「庶民の味」というポジションを保つべく努めている。そういった点も評価されていいと思う。
日本1号店は2014年11月、赤坂駅間近の使い勝手のいい場所にオープン。台中の街中を撮った写真と見比べて頂きたい。看板からして「台湾牛肉麵」の名称を付け加えた以外、まるっと同じ仕様。店内も現地と同じ仕様で、家具類は現地から取り寄せたという。昔ながらの牛肉麵を、ファストフード店風の小洒落て衛生的な店内で食べられるというあたりも特徴でもある。
台湾人も納得する本場の味
肝心の味の方も、食いしん坊ぞろいの台湾人の間でもまれているからチェーンといってもあなどれない。赤坂店は週末ともなるとお客の8割が台湾・中華系だそう。スタッフも店を取り仕切る副店長の湯さんはじめほぼ日本語も使える台湾人。本場そのままの味どころか、本場そのものと化す。
店の一番人気はやはり牛肉麵748円。牛肉でダシを取った醤油ベースのスープに特製の平白麺を加えた汁ソバで、煮込んだ中落ちカルビ、野菜・ゆで玉子をそえた品。平白麺というのは、かん水を用いない独特の食感の太麺。オープン当初、食べ慣れない日本人客の間で、中華ソバともうどんともつかぬ口感の評判がかんばしくなく、苦戦したという。それも昔の話で、台湾ブームと共に現地などで食べ慣れた人が増え、今はすっかり受け入れられている。八角が隠し味の濃い目の醤油スープと、平白麺の独特の歯ごたえがマッチ。
だが牛肉麵もいいけれど、今回はあえて三宝麺を推してみたい。中落ちカルビ、牛モツのハチノス、牛すじ肉の3種類を乗せ、ディープ度を増したゴージャス版牛肉麵なり。現地でも人気のひと品。
醤油味が濃い感じがするなら薬膳塩牛肉麵もある。薬膳といってもクセはなく、あっさりした塩味で食が進む。
またどの麺を選ぶにせよ、忘れてはならないのが、無料取り放題の高菜の漬け物である。これ目あてに通っているんだなんて台湾人もいる程で、投入すれば本格度アップ。味に複雑勝つ深みがまして確かにイケる。
タピオカやアルコールも充実!
さらにタピオカミルクティーについても紹介しておかなければならない。ブームとは関係なく開店当初から供していて、3種の茶葉をブレンドし生タピオカを使って当日分のみを仕込む手抜きナシの本格派である。むっちりしたタピオカの上質な食感と、ほの甘いミルクティーの組み合わせが絶妙で、妙に高級化することもなく418円! 下手なパールミルクティー専門店より安くて美味い、知る人ぞ知る店の人気商品である。
さらに日本では新たに「呑み」の要素が加わっている。台湾は基本的に食事と飲酒は別で、食事中は酒類は飲まないのが本来のスタイル。少しずつ変わってきているけれど、『三商巧福』も台湾ではメニューにはお茶とジュースしかない。呑み呑み大好き(?)な我が国の生活スタイルに合わないので、酒類を追加した次第。
台湾ビール各種に日本酒、サワーに焼酎、紹興酒のハイボール割りに甘酸っぱい台湾乾し梅を加えた「台北ハイボール」なんてオリジナル(乾し梅の甘酸っぱいコクが次第に増して美味)まで登場。酒にあう台湾系のおつまみも充実している。写真はその一例、うずら玉子の煮付け308円。とモツ肉4種の盛り合わせ528円。日本で手に入る食材を台湾つまみ風に仕上げ、価格を抑えつつ本場の雰囲気を保つべく努めている。まるで牛肉麵の食べられる居酒屋だ。
いつかは日本のスタンダードに!
実際日本店は、本格台湾料理を気楽に味わえるファーストカジュアルレストランを目指していて、その動向を本場でも興味を持って見守っているそうな。日本の食のスタイルと融合して、あらたな展開をみせそうな勢いである。
日本での新たな支店の計画もあるという。台湾ブームの追い風に乗ってぜひ増殖して「今日はアソコの牛肉麵でいいか……」なんて言えるようになったらいいなあと台湾マニアとして思うのである。
『三商巧福』店舗詳細
取材・文・撮影=奥谷道草