もっちりベーグルが人気

『ブーランジェリー・ビアリッツ』があるのは、西武池袋線のひばりヶ丘駅から離れた、団地やマンションが林立する居住エリアだ。そこに立つ「ヌーベルヴィラージュひばり」という、総戸数が300戸以上の大きなマンションの敷地内、裏玄関の近くにある。もちろん誰でもパンは買えるのだが、マンション内ベーカリーというかっこうなのだ。

右奥の建物群が「ヌーベルヴィラージュひばり」。
右奥の建物群が「ヌーベルヴィラージュひばり」。

こちらで人気なのがベーグル。国産小麦を使用した生地は外側はパリッと焼かれ、中はもっちり。噛み締めるたびに小麦の風味が広がり、ベーグルならではのモグモグする楽しさを味わえる。

多種多様なベーグルが揃う。
多種多様なベーグルが揃う。

バリエーションはプレーン、チーズ、チーズベーコン、りんごとクリチ、いちじくとクリチ、チョコチップアーモンドなど幅広い。限定の塩バナナという変わり種メニューを食べてみたが、ほんのりとした塩っけとバナナの甘み、香りが絶妙に合う。具材もいいのだが、なによりベーグル自体のおいしさがしっかり味わえて、人気なのもよくわかる。

店舗の前面はガラスで、シンプルなデザイン。
店舗の前面はガラスで、シンプルなデザイン。

平日でも切れることなく客が訪れ、マンションだけでなく地域にしっかり根付いている『ブーランジェリー・ビアリッツ』だが、もともとここにあったのは別のベーカリー。しかも『ビアリッツ』の前身となる店はまた別で、違う場所にあった。

もともとは店主の父が商店街で営んでいたベーカリー

そもそもの始まりは、店主である芥川隆彦さんの父が営んでいたベーカリーで、現在の店舗に近い、ピピ通りという商店街にあった。このベーカリーは大手のパンメーカーが経営するチェーン店で、父はもともとこのメーカーの本部で働いていて、定年退職後に委託という形で店を任されたという。

一方、隆彦さんは工業デザイナーとして、会社勤めをしていたが退職して父の店を手伝うようになった。パン作りはそのときに父から学んだという。父は大手ベーカリーに勤めていただけあって、パンの知識と技術は十分。さらに独学もして、さまざまなパンの製法を身につけた。

店内は入り口側がガラスで明るく、天井が高いためゆったりした雰囲気がある。
店内は入り口側がガラスで明るく、天井が高いためゆったりした雰囲気がある。

そんな折に、本部から店の撤退を要請される。店の近くにイオンモールができたこともあって、商店街自体の人出が減ってしまったのだ。

この頃には父は引退し、隆彦さんが店を継いでいたが、そのタイミングで「ヌーベルヴィラージュひばり」から、現店舗でベーカリーをやらないかという声がかかった。この場所にはもともと別のチェーン系ベーカリーが入っていたのだが、それが閉店。“ベーカリーのあるマンション”として継続するために、「ヌーベルヴィラージュひばり」が後釜を探していたのだ。

まさに絶好のタイミング。隆彦さんはそれに応え、事業計画などマンション側へのプレゼンなどを経て、2006年に『ブーランジェリー・ビアリッツ』をオープンさせた。

当時の隆彦さんは37歳。父の店がなくなるタイミングで工業デザイナーに戻る道もあったが、そうはせずに『ブーランジェリー・ビアリッツ』を始めた。それについて隆彦さんはこう語る。

店内にはイートイン、外にも席があり、焼きたてが食べられる。
店内にはイートイン、外にも席があり、焼きたてが食べられる。

「サラリーマンデザイナーだったので、手応えみたいなものが感じられなかったんです。自分が作ったものがどう売られて、お客さまがどう使っているのか、喜んでもらっているのかどうかが見えなくて、しっくりこなかった。でも父のパン屋を手伝っていると、お客さまの反応がよくわかる。これは面白いなという感じに、だんだんなっていったんです」

自分の作ったパンをみんなが楽しそうに買っていく様子を見られるのは、まさにベーカリーの醍醐味。一度味わうとクセになると聞くが、まさにその通りだったのだ。

ハード系の生地は外側バリッと、中はさっくり。
ハード系の生地は外側バリッと、中はさっくり。

「自信を持って出せるパンを作りたい」

さて、以前の商店街のベーカリーとは違い、今度は高級マンション内のベーカリー。パンのラインアップはガラリと変え、手の込んだ本格的なものに変えた。たとえば、おなじみのカレーパンもフィリングは自家製に。じっくり煮込まれた牛肉と牛スジはまろやかなうまさがあり、ごちそうといっていいおいしさだ。

特製ビーフカレーパン290円は牛肉ごろごろの贅沢な品。
特製ビーフカレーパン290円は牛肉ごろごろの贅沢な品。

ラインアップについて隆彦さんは「自分の考えとして、“こういうのでいいや”っていうんじゃなくて、自信を持って出せるものを作りたいんです。そうじゃないと、なにが良くてなにが良くないのかわからなくなるし、なによりやる気が出ないんです」と語る。

ものを作る側として、極めて誠実な考え方だと思う。だからこそデザイナーからパン職人に、さらに違う形のベーカリーに転身しても、成功できたのだろう。隆彦さんは「常連さんがいたから、なんとかやってこられた」と言ってはいたが。

どのパンも満足間違いなし!
どのパンも満足間違いなし!

今後も、国産小麦にこだわり、可能な限り天然酵母を使って、体に良くておいしいパンを作っていきたいという隆彦さん。誠実なもの作りのブレない姿勢があれば、きっと多くの人に受け入れられるだろう。

住所:東京都西東京市谷戸町2-8-27 ヌーベルヴィラージュひばり/営業時間:9:00~18:30/定休日:月・第2火/アクセス:西武鉄道池袋線ひばりヶ丘駅から徒歩12分

取材・撮影・文=本橋隆司