【案内人】「東京ディープチャイナ研究会」代表・中村正人さん

長年、編集者として『地球の歩き方』の中国エリアを担当。コロナ禍で海外に行けず池袋を歩いた際に街で軒を連ねる中華料理店に着目。『攻略! 東京ディープチャイナ』(産学社)を出版し、「ガチ中華」を愛好するSNSコミュニティを運営。

蒸気の向こうには、雲南の旨味の大海が!『食彩雲南 ムーさんの蒸鍋館』

雲南蒸汽石鍋魚1人前3278円(注文は2人前から)。ド迫力にたがわぬ大ボリューム!
雲南蒸汽石鍋魚1人前3278円(注文は2人前から)。ド迫力にたがわぬ大ボリューム!

一匹丸焼きにしたスズキをカボチャベースの黄金スープとともに鍋にイン。ブワっと吹出す150℃の高圧蒸気で10分蒸したら「まずは魚だけで食べて」と、店主の牟明輝さん。フワッフワのスズキはもちろんのこと、出汁が溶けだしたスープが最高。ショウガやトウガラシの風味に柑橘の酸味が爽やかな後味を残す。さらにキノコや野菜、肉団子、ライスヌードルも加えて2度目の蒸し。とろみが強くなったスープを麺に絡ませ、ずずっとすする。強くなった甘みと野趣がクセになり、次のひと口が止まらない!

魚はスズキかタイ。具材はキノコと野菜、豚肉、肉団子、ライスヌードルと盛りだくさん。
魚はスズキかタイ。具材はキノコと野菜、豚肉、肉団子、ライスヌードルと盛りだくさん。
吹き出す蒸気にのせ芳香があふれ出す。
吹き出す蒸気にのせ芳香があふれ出す。
「雲南にはおいしい料理が多いから、知ってほしくて」と、店主の牟さん。高圧蒸気鍋は近年の雲南の人気料理だ。
「雲南にはおいしい料理が多いから、知ってほしくて」と、店主の牟さん。高圧蒸気鍋は近年の雲南の人気料理だ。

『食彩雲南 ムーさんの蒸鍋館』店舗詳細

住所:東京都豊島区西池袋1-28-1 第二西池ビル6F/営業時間:11:00~23:00/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩1分

情景垣間見ゆるウイグル料理にほっこり『Sheep man 池袋店』

上から瓦碗煮込み肉1078円、挽き肉ポロ1628円(ランチは1280円)、ミルクティー748円、ラム串418円。
上から瓦碗煮込み肉1078円、挽き肉ポロ1628円(ランチは1280円)、ミルクティー748円、ラム串418円。

品書きには羊肉や米、小麦などを主とするウイグル料理がズラリ。何をおいても、まずは名物のラム串にかぶりつく! クミンの芳香が鼻腔を抜け、柔らかな肉の食感がたまらない。「ウイグルのピラフ」とも呼べるポロの、ふくよかな味わいと相性バッチリだ。「ぜひ、ミルクティーも」とは店長のリナトさん。口に含めばビックリ。バターやチーズの塩味がふくよかに広がるではないか。日本でいえば味噌汁みたいなイメージか。現地の暮らしが見えるようで心和む。

瓦碗煮込み肉はパイ生地を取り外し、柔らかな肉や野菜とともに食べる。
瓦碗煮込み肉はパイ生地を取り外し、柔らかな肉や野菜とともに食べる。
店内にはウイグルの絨毯や食器などがあり、異国情緒満点。
店内にはウイグルの絨毯や食器などがあり、異国情緒満点。

『Sheep man 池袋店』店舗詳細

住所:東京都豊島区池袋2-47-7 フォーレセブンビル2F/営業時間:12:00~15:30・17:00~23:00/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩5分

選り取り見取り食品館×フードコート『友誼商店・友誼食府』

手前からアヒルの醤油焼き1500円、上海風焼売480円、ワンタン880円、紹興酒は1500円~。
手前からアヒルの醤油焼き1500円、上海風焼売480円、ワンタン880円、紹興酒は1500円~。

ビルのワンフロア丸ごと使った食品館のフードコートには、四川・湖南、西安といった各地の料理がズラリ。立ち寄ったのは上海料理店『大ダウツン沪邨』だ。店主の沈凱さんが「これがソウルフード!」と胸を張るのは、でっかいワンタン。レンゲで口中へ運べば、タネの肉汁とニラ、ゴマ油の風味がスープの塩味と混じり合い、やみつき。ふっくらモチ米詰まった上海風焼売や甘しょっぱいアヒルの醤油焼きといったつまみはぜひ紹興酒とともに。まるで屋台みたいでアガるねえ。

フードコートは雑多な雰囲気。
フードコートは雑多な雰囲気。
食品館『友誼商店』の方は、文字通り所狭しと食材が並ぶ。きっと、なんでも揃う。
食品館『友誼商店』の方は、文字通り所狭しと食材が並ぶ。きっと、なんでも揃う。

『友誼商店・友誼食府』店舗詳細

住所:東京都豊島区西池袋1-28-6 大和産業ビル4F /営業時間:7:30~24:00/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩1分

池袋ガチ中華の今昔物語

雑居ビルという怪しさも味わい深い。
雑居ビルという怪しさも味わい深い。

「まず、見てほしいのはここ」と、いそいそと雑居ビルへ足を踏み入れる中村さん。古くて小さいエレベーターで4階へ。がたんと扉が開き、眼前に広がるはフロア丸ごと中華食材店。調味料やお菓子、ジュース、酒。肉に野菜。なんなら生け簀(す)に魚が泳いでいる。フードコートまであるではないか!

ここは『友誼商店』。池袋で“ガチ中華”が生まれるきっかけとなった中華食材店だ。

「もともと池袋に中国の人々が集まり始めたのは1990年代の初め頃。彼らは当時、同胞向けに格安航空券の販売や中国語書店、新聞といったビジネスをしていました」と、中村さん。今やガチ中華の聖地と称される池袋ではあるが、当初は飲食店がなかったという。ちょっと意外だ。

『友諠商店』で手に入れた中国語新聞。
『友諠商店』で手に入れた中国語新聞。

「その後、1991年に『友誼商店』の前身である『知音』と同じく中華食材店の『陽光城』がオープンし、故郷の食材を求めて中国の人々が買い物に来るようになります。『人が集まるなら、飲食店を』ということで、2000年代に現地の味を忠実に再現した中華料理店が増えていったのです」

2011年の東日本大震災で中国の人々が帰国し出店が止まるも、2013年頃から再び中国人旅行者が急増。2015年9月に『海ハイディラオ底撈火鍋』がオープンした頃から店が増え始め、その後“ガチ中華”という言葉が生まれた。

「私も先日界隈を歩いてみたんですが120~130ほどの店舗が軒を連ねていました」

中村さんが見せてくれた地図は、店舗の場所を示す赤文字でびっしり埋め尽くされていた。この密度、まさにガチ中華の聖地である。

ラブホテルの1階に鎮座する店舗も。
ラブホテルの1階に鎮座する店舗も。

「面白いのがコロナ禍に店舗が急増したこと。多くの飲食店が撤退してテナントが大量に空いていたのを見て、右肩上がりの時代を歩んできた彼らは『ピンチはチャンス』という思考が働いたのだと思います」

周囲を見回すと上海や北京、四川などの広く知られている中華料理、火鍋、麻辣といった近年ブームのジャンルはもちろんのこと、雲南や湖南、ウイグルといった地方料理の店が目に映る。スイーツやカフェも軒を連ね、バリエーションが豊かだ。

中国の人気コーヒーチェーン『コッティコーヒー』。
中国の人気コーヒーチェーン『コッティコーヒー』。

「もとは『同胞向けに故郷の食事を』と始まったガチ中華ですが、店主の世代交代も進んで本国のブームを取り入れたり、日本人向けにアレンジした店舗も増えています」

現在進行形で変化を続ける池袋ガチ中華。余すことなく堪能したい!

取材・文=どてらい堂 撮影=加藤熊三(店舗)、編集部(街歩き)
『散歩の達人』2025年11月号より