ならずもの、のんき、そして「滑(なめ)らかな古着屋」
高円寺の南側で、東西方向に走る南中央通りは、駅前から延びる商店街とは異なり落ち着いた空気が流れている。『川』はその通りのビルの1階にあって、ガラス越しに余裕あるディスプレイが見える。多くの古着店に漂う「さあ、ディグって(掘り出すようにアイテムを探して)!」といった迫力は控えめで、探しやすく配置されている印象だ。
『川』はオーナーの新保さんにとって3店舗目の古着店として2019年オープン。高校生の頃から古着が好きだったという新保さんは、大学生だった1997年から高円寺の古着店「HOTWIRE(ホットワイヤー)」(現在は閉店)でアルバイトし、卒業後には店長も務めた。2004年に独立を果たしたのは、店内の内装や雰囲気作り、仕入れまで、すべて自分で手がけたいと考えたから。
全部で3つある系列店は、店名もコンセプトもインパクトが強くて、一度聞いたら忘れられそうにない。最初のお店は、高円寺南4丁目にある『黒BENZ(くろベンツ)』で、コンセプトは「デスペラード・イン・ザ・ワールド(世界のならずもの)」。『黒BENZ』を開いた2004年当時の高円寺は、古着店はアメカジのお店がほとんど。『黒BENZ』はアバンギャルドなイメージのアイテムで、明らかに毛色が違うが、新保さんはこんな店を待っている人は他にもいると感じてオープンさせた。結果、21年続く人気店となっている。
2009年オープンの2店舗目は高円寺南3丁目にある『ガイジン』で、こちらのコンセプトは新保さん曰く「世界ののんき」。軽やかでファンシーな印象のアイテムが中心だ。
そして3店舗目の『川』は「大人が楽しめる古着屋を作りたい」と開いた店だ。店名の通り水の流れや循環など滑らかさをイメージしていて、透明なハンガーや特注した曲線が印象的な什器も使われている。
仕入れはアメリカでデザインを重視
『川』や系列店に置かれるアイテムは、主にアメリカの西海岸で仕入れてきたもの。買い付けの旅に出ると、フリーマーケット、アンティークショップ、リサイクルショップなどを2週間ほどかけて巡る。お店が3店舗まで増えたのは、『黒BENZ』に合ったエッジの効いたアイテム以外にも、新保さんが気に入って「仕入れたい、きっと好きな人がいる」と感じたアイテムを販売するためだ。
直近の買い付けで仕入れて気に入っていると教えてくれたのが、レジ横の柱にかかっていた薄いブルーグレーのフリース。山脈のようなラインが全体的に描かれている。「どこのブランドですか?」と質問したら「あ、どこだろう」と新保さんは襟元のタグを確認。デザインを重視して選んでいるため、買い付け先でもお店に戻っても、ブランドはほとんど気にしていない。自身の感覚でデザインがいいと思ったものを仕入れる方針だ。
ウィンドウ付近にかけられていたブルゾンも直近で買い付けたアイテム。花模様のステッチに引きつけられるが、身頃部分はコンパクトなのに袖にボリュームがあって今っぽい。手持ちのアイテムと合わせるイメージが湧いてくる。
人や街への観察眼が反映された店作り
「『さんたつ』の読者は、こういうのが好きなんじゃないですか?」とラックから引っ張り出してくれたのは、チャイナドレスを思い起こすワンピース。タグには“Made in Italy”「Max Mara」の文字があり、モノは間違いない。シンプルながら、凹凸のある生地や襟や袖のパイピングに個性があり、散歩ファッションとして街になじむ様子が目に浮かぶ。『さんたつ』読者の傾向に限らず、人の好みや街の空気を的確に把握しているから、たくさんの人が新保さんが選ぶアイテムを求めることにつながっているのだろう。
『川』にはオリジナルのTシャツやエコバッグ、ラグが売られている。大学時代にグラフィックデザインを学んでいた新保さんがデザインしたものだ。ラグはオリジナルTシャツに施していた流線型のデザインを応用し、常連客でもあるラグブランド「MIYOSHI RUG(ミヨシラグ)」のデザイナーに誘われて制作したという。棚の上に置いたり、壁にかけたりするのにちょうどいいサイズで、部屋の雰囲気を引き締めるアクセントにもってこいだ。
買い付けはいつもワクワクするという新保さんが選んだアイテムは、洋服好きならずとも、取り入れてみたくなる。お店には続々と新しいアイテムが並ぶので、フラッと立ち寄るだけでも、すぐに身につけてみたくなるアイテムが見つかるだろう。
取材・文・撮影=野崎さおり





