手塚理美
てづかさとみ/東京出身の俳優。小学生のころからジュニアモデルとして活躍し、映画、舞台、ドラマと幅広く活動。2025年に芸能事務所から独立、フリーに。趣味は散歩。Instagram:tezuka_satomi
この日は猛暑だった。平日13時に銀座線浅草駅の改札に待ち合わせ。私、編集H岩は汗をふきながら俳優・手塚理美さんの到着を待っていた。
「すみません、電車の時間の検索を間違えて10分ほど遅れてしまいます」とLINEが入る。汗が止まらない。
手塚 すみません、お待たせしました! 浅草には、日の出桟橋から船で来るのが好きなんですけど、今日は待ち合わせ場所が、電車の改札でしょ。銀座線、銀座線って乗り換え案内で検索したら、行き先が、浅草ではなく銀座になっていました(苦笑)。
——大丈夫です。来ていただいてほっとしました。よろしくお願いします。
手塚 よろしくお願いします。暑いですね。まずは浅草寺さんでお参りをしてから、ロケハンをスタートしましょう。連載祈願もしなくっちゃ。
——そうですね。お賽銭(さいせん)を納めて一礼っと。さて、事前に手塚さんから、今日歩いてまわりたいロケハンリストをいただいています。
手塚 最初は、おにぎりの『宿六(やどろく)』さんに行きたいです。私はおにぎりが大好きなのに、有名な『宿六』さんにはまだ行ったことがないんですよ。
——浅草寺の裏手から、言問通りを進んで、右手の赤い看板ですね。1954年創業の、東京で一番古いとされるおにぎり専門店です。手塚さんは、どのおにぎりにしますか?
手塚 梅干をいただこうかな。
——梅干しがお好きなんですか?
手塚 私はどこのおにぎり屋さんでも、最初は梅干しをいただくことにしているんです。
店主 あの、もしかして、私が想像している人ですよね?
——よくお分かりになりましたね!
店主 オーラが違いますよ。今日はなにかのご取材ですか?
手塚 取材というか、ロケハンです。スケジュールも決めていないし、気の向くままに、出会いを楽しみたいなと思っています。
——ご主人、カウンターにはおにぎりの具がたくさん並んでいますね。おすすめの具を教えてください。
店主 お客さまには、お客さまが食べたい具がおすすめの具、とお答えしています。外国の方にはさけなど、明るい色の具が人気で、こんぶとか、おかかとか茶色系はダメみたいです。
のんびり腰を据えていられないのもロケハンの定め。熱いお茶で気持ちを静め、おにぎりは各1個にセーブ。手持ちのリストを手に、先に進むことに。
手塚 念願の『宿六』さんに行けて、よかった~。偶然、お客さんが少ないタイミングでご主人とゆっくりお話ができたし、おにぎりも食べられちゃったし、ラッキーでした。
浅草寺の表側は人がたくさんでにぎやかだけど、裏側は静かで落ちついていますね。路地に入ってみましょう。『宿六』のご主人に教えてもらった和菓子の『徳太樓(とくたろう)』さんや、豆かんの『梅むら』さんはこのへんかしら。私はおそばが好きなので、おそば屋さんがあちこちにあるのも気になります。
——この先は、どっちに行きましょうか?
手塚 吉原神社はどう?
——いいですね。吉原神社は、大河ドラマ『べらぼう』でも話題の神社です。かつての吉原遊郭にお祀(まつ)りされていた5つの稲荷神社と遊郭に隣接する吉原弁財天の合計6つの神さまが祀られているそうです。
手塚 わ、本殿の脇、その先も気になる~。行ってみましょう。あ、あれ、倉庫? その先に飲み屋さんがずらーって並んでいるのかと思っちゃった。
——見ないと分からないものですね。
手塚 あ、手水舎(ちょうずや)もあった。暑さにもうろうとして、清める前にお参りしちゃったわね。ま、いっか、なーんて。私たち、ずいぶんざっとしてる。
吉原遊郭の名残をとどめる、仲之町通りを進む。不自然に蛇行しているのは「五十間道(ごじっけんみち)」。遊郭の中が見えないようにするため、わざとS字カーブをつけたものと言われている。
手塚 この先に、大きな天丼で有名な『土手の伊勢屋』さんがあるはず……こんな大通りに面しているの? もっと細い路地に面してひっそりあるようなイメージでした。素敵な建物ね。
——明治22年(1889)創業で、建物は登録有形文化財に認定されています。残念ながら今日は定休日のようですね。
手塚 このへんに、H岩さんからのロケハンリストにあった『山谷酒場』があるはずよね。のどが渇いてこない? 『山谷酒場』って、お酒を飲めるタイプのお店かしら? ああ、行ってみないと分からないわね、そこを調査するのがロケハンだもんね……。もしかしてここ? 閉まっている!
——まだ時間が早すぎましたね。ガラス窓からのぞいてみると、飲食のメニューが見えるし、お酒を飲める店のようでは、ありました。
手塚 やっていないなら仕方がないわ、残念。
——手塚さん! あそこのお総菜屋さんはどうでしょう?
手塚 ビール売ってる?
——売ってはいないようですが、脇に小さいテーブルがあります。
手塚 昔は自動販売機でビールやカップ酒が買えて、店先でぱっと飲めたりしたんだけど。自販機、好きだったな、懐かしいな……あ! あれ、あそこはどう? 白い看板に赤い文字で「日・本・盛」って書いていない?
——そうですか?
手塚 私、遠目なのよ。
——どうしますか? 入ってみますか?
手塚 もちろん入っちゃいましょう。(ガラガラとドア開け)こんにちは、2人、いいですか?
——地元の方が集う、大衆酒場のようですね。名前は『追分』とあります。
手塚 リストになかったこんないいお店を見つけられるなんて、ほんと、ラッキー、今日は大ヒットね。では乾杯しましょう! (ビールを喉に流し込み)なんで、こんなにおいしいのかしら! きっと、浅草寺さんにお参りをしたからね。
ジョッキを重ねた『追分』で、女将さんに貸していただいたウチワであおぎながら、観音裏ロケハンの総括。待ち合わせに遅刻したことや、お店が閉まっていたことなど本当のことは盛り込んだ方がいいとは、手塚さんの指摘。次回のロケハン先の目星をつけるまでを行い終了。スマホの写真はLINEのアルバムで共有。私、H岩の想像よりもガチだったロケハン。次回もお楽しみに。
手塚理美さんが、なぜロケハンしているのか? 馴(な)れ初めはWeb『さんたつ』にて。
構成=H岩美香(『散歩の達人』編集部)
『散歩の達人』2025年11月号より





