下吉田にある椋(むく)神社の秋季例大祭に奉納する神事として行われる「龍勢祭」。龍勢とは手作りロケットのことで、白煙を噴いて打ち上がる様子が龍の昇天する姿に似ていることが由来だ。吉田地域を中心に27の流派があり、流派ごとに伝承された製造技術や仕掛けをもつ。
作り方はくり抜いた松材にタガと呼ばれる竹の輪っかを掛けて火薬筒を作る。「このとき空洞ができないように火薬を固く詰めるのがポイント。点火すると下から徐々に燃えて、上空300mまで飛ばす推進力を生むのです」と軽快に話すのは吉田龍勢保存会の加藤五郎さん。
年に一度の大勝負がいざ開幕
火薬筒に約20mの青竹を括り、背負い物と呼ばれる落下傘や花火玉、唐傘などの仕掛けを取り付ける。こうして完成した龍勢は芦田山の麓の櫓(やぐら)に運ばれ、打ち上げ前の口上に続いて次々と発射する。導火線に点火すると瞬く間に轟音とともに空の彼方へ舞い上がり、流派の仲間も観客も大盛り上がり。しかしアナログゆえに、筒がはねて飛ばずに終わってガッカリする流派も。
「成功して300m飛ぶのにたったの5、6秒。失敗すると1秒ちょっとで分かる。わずか10秒の戦いに一年間をかけるという意味では陸上の桐生祥秀君と一緒なんです」と加藤さんは笑う。ド派手な打ち上げの裏では悲喜交々(こもごも)の人間ドラマがあり、「それでもみんな龍勢が好きだから続けている」。2025年は24流派による30本の奉納を予定。各流派が情熱やロマンも乗せて打ち上げる手作りロケットを見届けよう。
龍勢祭
埼玉県秩父市/2025年10月12日(日)
“すっごい”ポイント
総重量約4kgにもなるロケットを上空300mまで飛ばす驚きの祭り。龍勢は花火業者ではなく棟梁を中心に火薬製造の資格保持者も加わりさまざまな制限下で作られ、命がけ!
●秩父鉄道皆野駅から臨時直通バス下車、徒歩10分
取材・文=香取麻衣子
『散歩の達人』2025年9月号より
※掲載の祭り情報は2025年7月末時点のものです。お出かけ前に最新情報を必ずご確認ください。






