中トロが自慢! ツヤツヤの刺し身4種類が並ぶ特上刺身定食(盛合せ)
『ウオツネ』は、豊洲から仕入れた新鮮な魚をメインに据えた居酒屋だ。もちろんランチで提供する定食も魚がメイン。魚の種類や調理法のバリエーションがあり、海鮮丼や煮魚や焼き魚、揚げ物などよりどりみどり。取材当日は16種類も用意されていた。トロほっけ焼きやメバル姿煮付など気になるメニューは数あれど、「やっぱりここは」と、特上刺身定食(盛合せ)をいただくことにした。
運ばれてきたお盆の上には、ツヤツヤの刺し身が4種類と小鉢にご飯にお味噌汁。『ウオツネ』の2代目で代表取締役の柏井栄一(かしわいえいいち)さんが、盛り合わせの内容を教えてくれた。
「中トロが自慢なんですよ」と柏井さん。確かに中トロは、色がよく、身も分厚い。口に入れると脂がのっていてトロトロした食感が楽しめる。タイのぷりっとした身や、ブリの脂のりのよさも、ツブガイの食感もいい。
ランチに刺し身をおかずにご飯をモリモリ食べるなんて、ずいぶん贅沢に感じる。さらにお味噌汁の具がなめこと豆腐、小鉢は自家製の切り昆布の煮物、サラダにお漬物もついている。何気ない脇役たちの特別感も言うことなしだ。
街の再開発がきっかけでスーパーから魚がメインの居酒屋へ
『ウオツネ』が居酒屋としてオープンしたのは、2005年7月のこと。その前は同じ屋号で、目黒川のすぐ東で長く食品スーパーを営んでいた。その場所に今は45階建ての中目黒アトラスタワーがそびえている。元々は大正時代に恵比寿にあった鮮魚店をルーツにもち、生鮮品の中でも鮮魚の品揃えがよく、特にマグロの中トロの目利きには自信を持っていた。
その『ウオツネ』がなぜ飲食店になったかというと、すぐ隣を流れる目黒川と関係がある。今は、都内でも指折りの桜の名所として知られる目黒川は、集中豪雨や台風でずっと昔から平成まで、何度も氾濫を繰り返し、近隣に被害をもたらしていた。もちろんスーパーの「ウオツネ」も浸水被害を被った経験を持つ。
そんな背景もあって1982年から上目黒一丁目地区の再開発の計画が持ち上がり、2000年代に入って本格化。スーパーがあった場所には中目黒アトラスタワーが建設されることになった。
2代目として会社を継いでいた柏井さんは、中目黒の街に起きている変化と働き手たちの雇用確保について考えた結果、小売業ではなく飲食店に商売替えをすることにしたのだ。
「飲食についてはみんな素人ばっかり。でもオープンしたときから、ランチは夜のおまけとは考えていなかったね」と柏井さん。
スーパーで午前中だけパートをしていた人はランチのホール係を担当するなど、昼と夜でメンバーを入れ替えるシステムを作って雇用を維持。オープンから2年後にお店を現在の広さに拡張すると、一層繁盛した。
女性が1人でも気兼ねなく、旬の魚介が食べられる店
「魚がメインだから季節感が出しやすいでしょう。 秋はサンマだし、冬はやっぱりカキフライが大人気。お客さんも飽きずに来てもらえる。もちろん桜の季節は大忙しですよ」と柏井さんは、20年の間、人気が衰えない理由をそう分析する。
特にランチタイムで重要視しているのは、おなかをすかせてお店に来た人を待たせないこと。そのため、スタッフの数を絞りすぎないようにしているそうだ。
コロナ禍で多くのお店が店を開かなかったときも、ランチの営業は継続。客入りは通常の3分の1程度だったというが、お店が開いているという安心感が広まったのか、コロナ禍以降は女性客が増えたのだとか。
店内に貼られたメニューの短冊を見ても、刺し身は、マグロ、青身魚、貝類など色々。黒板にはアジフライにキスの天ぷらに「本日の煮・焼魚ありマス」の文字まであり、どんな魚が食べられるのか興味が湧いてくる。
店内は全部で41席となかなかの広さ。カウンター席も厨房前と窓辺にあって、1人客も気兼ねなく食事ができるのもうれしい。
スーパーだった頃の「ウオツネ」を知っている人も、ランチを食べに来ることがある。昼に来た人が、夜に飲みに来ることも多い。昼と夜、どちらの『ウオツネ』も長く愛されている。
取材・文・撮影=野崎さおり





