ふだんの食卓に変わらずあり続けるため
全国津々浦々、ひと昔前まではそこかしこにあった町の小さな納豆工場兼直売所。2025年7月現在、東京23区内でも見かけることはほとんどない。それならばとインターネットで検索してみたところ、公式ホームページ、オンラインショップ、販売先など、やっぱりよく分からない……というわけで、令和に残る貴重な『太平納豆』に取材を依頼。「いいですよ〜」と快く話を聞かせてくれた。
東京スカイツリーから15分ほどの場所にある『太平納豆』の創業は1946年。2代目の岡崎誠一さんと3代目の伸生さん、品質管理などを担う原大助さん、そのほか数名の従業員で10種類ほどある納豆を製造販売している。ラインアップが増えたのは、ここ数十年のこと。常連さんの要望で同じ商品の容量やパック数違いを商品化したことのほか、都内や近所の何代も続いてきた納豆工場が廃業に追い込まれ、店主から商品の引き継ぎをお願いされたことも大きい。
「それぞれの商品に顧客がついているから、なくすわけにはいかないって。その気持ちがよく分かるので『うちでよければ』と」
西新宿にあった納豆屋から受け継いだ、黒目大豆を使う「東京納豆」や、海外輸出用の納豆など商品を引き継いだことで、「太平納豆」の名は口コミだけでより周知されることになる。
「ありがたいことに各方面から卸売りの相談があったり、地元以外の方も工場まで買いに来られたり。ただ、大手メーカーと違ってできることは限られています。だからこそ今お付き合いのあるお客さまが第一。小規模であることを強みに地域の人に、お取り引き先の需要にとことん寄り添い続けていきたい」と伸生さん。とは言っても、工場での直売と近隣のスーパー数店以外に販売先を増やしたり、通販を始めたりすることはないのか問うと「今で手一杯」と笑う。
ふだんの食卓に「太平納豆」が変わらずあり続けるため、謙虚にひたむきに。廃業した納豆屋の分まで、まさに納豆のように粘り強く守り続けている。
※値段はすべてオープン価格。
取材・文=新居鮎美 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2025年8月号より





