やっぱり、このベース。“酎ハイの聖地”の名店が語る宝焼酎の底力
ボール、ちょうだい。——夕方5時を過ぎれば、下町のあちらこちらの大衆酒場でこの言葉が聞かれる。ボールとは焼酎ハイボールの通称で、墨田区の北部で誕生したといわれ、鐘ヶ淵通りは「酎ハイ街道」とも呼ばれている。そんなボールのレジェンド店『亀屋』もこの通り沿いにある。
「昭和30年頃、うちも含めたこの辺の酒場4軒の店主が膝(ひざ)を突き合わせて、焼酎ハイボールの“素”を考案したそうです。ウイスキーハイボールよりも、もっと気軽に、安価に飲めるものをと考えたんですよ」と3代目の小俣光司さん。これが爆発的に広がり、それぞれの店がオリジナルを提供するのだが、焼酎に宝焼酎を選ぶ店が多いという。
「うちもずっと宝焼酎です。宝焼酎をベースにあれこれ調合してボールの素をつくるのですが、そのレシピについては門外不出。うちも僕以外は誰も知りません。思い返すと小さい頃から宝焼酎のボトルが店にあったので、父もボールの素は宝焼酎と決めていたのでしょう」(小俣さん)
飲みやすいけれど酔う、と評されてきた亀屋のボール。この味を求め近所の常連客はもとより、日本各地から人が訪れる。
おしゃれに進化した角打ちで、宝焼酎を使ったボールを出す『イワタヤスタンド』も近所にある。
「オリジナルのボールをつくるにあたり、いろいろ飲み比べて一番しっくりくるのが宝焼酎でした。すっきりしているけれど味があって淡白すぎない」と店主の岩田謙一さん。
またどちらの店主も宝焼酎の魅力について「次の日に残りにくい」と挙げていた。
「飲んだ次の日に二日酔いになるといやじゃないですか。この店では、やっぱりお客さんにゆっくりと心ゆくまで飲んでもらいたいし、体を壊さず、ずっと通ってもらいたい。そういう意味でも、一番、酔い覚めがさわやかだったのが宝焼酎です」(岩田さん)
どんな酒でも飲み過ぎは良くないが、ほどよく飲むのなら翌日に不安の少ない酒がいい。そういう視点でも宝焼酎は下町の酒場で愛されているのだ。
このうまさ、百年品質。飲み継がれる、おいしさを
甲類焼酎ならではのすっきりとした味わいでありながら、まろやかな口当たりが特長。大衆酒場などでも飲み継がれている「宝焼酎」と、樽貯蔵熟成酒3%をブレンドしたひとクラス上の「極上<宝焼酎>」。
一子相伝のレジェンドの味『亀屋』【鐘ケ淵】
戦後、東向島駅付近の洋酒バー「亀屋スタンド」から始まった。昭和30年代、現在の場所に移転し、業態を大衆酒場に切り替えたそう。「焼酎ハイボール」は2024年11月に炭酸水を変え、それまでの微炭酸から少し刺激を感じるものとなった。炭酸水を変えたことからグラスも大きなものに変更し、“ボールの素”の量も多くなっている。またそのレシピは代々、口伝えで受け継がれているという。
『亀屋』店舗詳細
料理がつい進んでしまう強炭酸ボール『岩田屋商店/イワタヤスタンド』【東向島】
昭和10年(1935)、乾物屋から始まった酒販店が2022年11月にリニューアル。店内奥を角打ちスペースとした「イワタヤスタンド」がオープンした。つまみにも力を入れていて、発酵食品も多く取り入れている。すっきり飲める焼酎ハイボールを目指したという「イワタヤボール」は、アルコール度数6.6%。スパイシーな味付けのつまみにも合うよう、ボールの素はつくられているそう。
『岩田屋商店/イワタヤスタンド』店舗詳細
※お酒は20 歳を過ぎてから。ストップ飲酒運転。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響を与えるおそれがあります。お酒は楽しく適量を。
取材・文=別役ちひろ 撮影=新谷 誠
協力=宝酒造 お客様相談室☎ 0120-120-064(9:00~17 :00、土・日・祝を除く) https://www.takarashuzo.co.jp/
『散歩の達人』2025年8月号より





