使用する時季に注意! 「五月晴れ」に「小春日和」
5月のよく晴れた日には「五月晴れ」という言葉が使われることがありますが、元々は「梅雨の晴れ間」や「梅雨の合間の晴天」を指す言葉でした。五月(さつき)は旧暦5月の呼び名で、現在使われている新暦では6月に当たります。6月というと全国的に梅雨入りして日差しが恋しくなる季節です。すっきりしない天気の続く中、ふと太陽がのぞいた時の貴重な晴れ間を五月晴れと呼んでいたのです。
しかし、言葉は時代とともに変化してくものです。時が経つにつれて誤用が浸透したことから、新暦5月の晴天という意味でも使われるようになりました。現在は『広辞苑』などの辞書でも、梅雨の合間の晴れと5月の晴天の両方の意味が記載されています。
「五月」の付く言葉は他にもあります。「梅雨」を指す「五月雨(さみだれ)」や「梅雨の頃の夜の暗さ」をいい表す「五月闇(さつきやみ)」がありますが、これらは現在も本来の意味で使われています。
同じように使用する時季に注意したいのが「小春日和」です。春という字が入りますが、小春日和は春には使いません。「小春」は旧暦10月の異称で、小春日和は晩秋から初冬のおだやかで暖かい日のことを指します。
雨にまつわる誤用しやすい言葉も、実はたくさん
意外と本来の意味を知られていない天気や季節にまつわる言葉は他にもたくさんあります。「シトシトと雨が降り、関東では雨模様になっている」「明日の午後、九州ではにわか雨が降りそうだ」この2つの表現はどこが間違っているか分かりますか?
「雨模様」とは、本来は「これから雨が降りそうな空の状態」のことを指すため、すでに雨が降っている時には基本的に使いません。
「にわか雨が降る」というのは、「頭痛が痛い」のような二重表現になります。一時的に降る雨のことを「にわか雨」というため「降る」は余計なのです。
このほか「みぞれ」も重複した表現をしてしまいやすい言葉です。みぞれは雨と雪が混在している状態なので、「みぞれ混じりの雨」や「みぞれ混じりの雪」は誤った言い方になります。
低気圧は「進む」高気圧は「移動する」。ちょっとマニアックな天気の表現
さて、ここからは少しマニアックな話になりますが、知っておくと天気予報や天気に関するニュースをチェックする時に役立つかもしれません。
「メイストーム」という言葉があるように、今の時季は度々、発達した低気圧が近づき嵐になることがあります。雨や風が強い天気を「荒れた天気」や「大荒れの天気」といいますが、この2つの言葉は風の強さによって使い分けられます。雨や雪が降っていて注意報基準を超える風の吹く時は「荒れた天気」といい、風が警報級にレベルアップすると「大荒れの天気」と言うようになるのです。
また、嵐の原因になる低気圧や晴天をもたらす高気圧の動きを説明する時、気象キャスターが「低気圧が進んで雨が降る、高気圧が移動してきて晴れる」などと解説します。一方で「低気圧が移動して雨が降る、高気圧が進んできて晴れる」と言うことはあまりありません。天気の世界では、低気圧は「進む」、高気圧は「移動する」と表現することがスタンダードだからです。
なぜこのように使い分けるのかはさまざまな理由があるようですが、その昔、ラジオ放送で雑音が入りやすかった時代に天気予報を伝える際、低気圧と高気圧を聞き間違えないように表現を変えたということを新人時代に教わりました。また、低気圧は中心がはっきりしている一方、高気圧は中心がぼんやりとしていて、全体として移動するため使い分けるという理由もあるといわれています。
知っているようで意外と知らなかったという表現はありましたか? 言葉は時の流れとともに変化していくものなので、あまり堅苦しく考える必要はありませんが、お散歩中の会話にちょっとした豆知識として取り入れてみるのはいかがでしょうか。
文・撮影=片山美紀
参考:気象庁 天気予報等で用いる用語
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/mokuji.html