オーナーの情熱が実を結んだ、有名店直伝の製法
ベーグルはユダヤ人の間で広まったパン。油分や乳製品を使わないため、ヘルシー志向のニューヨーカーたちが好むことでも知られる。日本で食べられるようになったのは1990年代中ごろ。焼く前に生地をゆでる製法のおかげで、ムチっとした食感になり、腹もちがいいなどと、じわじわと人気が出た。
『MARUICHI BAGEL』は、その人気の高まりに大きく貢献したお店。オーナーの稲木美穂(いなぎみほ)さんは、大学の卒業旅行で訪れたニューヨークで、有名店『Ess a Bagel(エッサベーグル)』のベーグルを食べて魅了された。企業に就職したあと、「日本では『Ess a Bagel』のようなベーグルが食べられない、それなら自分が作れるようになればいい」と会社を辞めてニューヨークへ。粘り強く『Ess a Bagel』に懇願して製法を学び、お店を開くに至ったという熱意の持ち主だ。
現在の店は日比谷通りに面していて、朝ごはんや昼ごはんを求めてやってくる周辺のオフィスワーカー、外国人観光客、そして代々木上原と白金で営業していたころからの常連客がまとめ買いに訪れるなど、客足は途絶えない。
『MARUICHI BAGEL』のベーグルはボリュームがあるが、特に焼きたてはやわらかくぺろっと1個食べられてしまう。そして冷めるとムニッとした食感で食べ応えばっちり。冷凍保存可能なので、常連客はたくさん買って冷凍している人が多いようだ。
初めてでも不安ゼロ! にこやかにベーグル選びをサポート
しばらく店内を観察していると、人気の理由は味と同じぐらい接客にもあるのではないかと思えてくる。ベーグルはクリームチーズを挟むなどサンドイッチとして食べられることが多いが、店頭で好みの具材を選んで作ってもらうのは、なんだかハードルが高い。さらにベーグルになじみがないと商品カードや見た目だけでは違いもわかりづらい。
『MARUICHI BAGEL』では、そんな心配を明るくにこやかな接客で拭い去ってくれる。店内に足を踏み入れて、ベーグルを選ぼうと考えていると、絶妙のタイミングでスタッフさんが近づいてくる。カウンター越しではなく、近い距離で心地よいコミュニケーションが始まるのだ。
初めてならベーグルの種類から説明してくれる。プレーンの生地にゴマや雑穀が付いているもの、生地にハチミツが入っているもの、全粒粉や玄米、お店で育てている古代麦・スペルト小麦を使ったものなど、20種類以上もある。
サンドイッチ用の具材はチーズや野菜、フルーツなどいろいろ。定番具材の一つ、サーモンに至っては産地別で選べる。
「甘いサンドイッチが食べたい」と伝えて勧めてもらったのが、バナナカシューナッツ。自家製のカシューナッツのペーストに、バナナが約一本分。土台となるベーグルは、セブングレインハニーフィグをチョイス。ハチミツ入りの生地に7種類の雑穀を加え、さらにドライのいちじくが入っているものだ。
「ベーグルはトーストしますか? 焼きたてもあるので、そのまま使いますか?」と聞かれて、焼きたてをお願いした。サンドイッチ作りの作業を見ていたら、上下にカットしたベーグルから湯気がふわっ。両方にカシューナッツペーストをそれぞれ2度塗って、バナナは約1本をきれいに並べて挟む。
サンドイッチはすぐに持ち帰れるように用意されたものもある。塩気のあるものも買って帰りたいと選んだのが、プレーンのベーグルにスモークサーモンとクリームチーズ、レタスやオニオンスライスなどを挟んだものだ。ハーフサイズながらベーグルサンドイッチらしい食べ応えと、王道のスモークサーモンとクリームチーズのコンビネーションがたまらない。
本格的な味を毎日食べられる安心と一緒に
『MARUICHI BAGEL』のベーグルは、砂糖、乳製品、卵、油が不使用なので単体なら動物性の食品を食べない人もOK。小麦粉を食べない人にはこめぱんもある。100%米粉を使っていて、弾力のある蒸しパンような、しっとりしたやわらかさ。味もほんのり甘いやさしさで、サンドイッチにもできる。
オーナーの稲木さんは、ニューヨークでベーグル作りを学んでから20年以上が経った今も「『Ess a Bagel』の手法を守って、日本で食べるべき素材でベーグルを作り続けたい」という熱い気持ちを持っている。今後はサンドイッチに使う野菜も自分たちで栽培できないかなど、一層安心して食べられる商品づくりを模索している。
ベーグルは茶色い紙袋(大きさに関わらず1枚10円。商品を直接入れられる袋を持参してもOK)に入れて、手渡しされる。そのときもスタッフさんはカウンターから出てきてくれる親切さ。まるで「いってらっしゃい」と送り出されるようで、また買いに来ようと思う。袋に入ったベーグルのぬくもり同様に温かいお店のファンになってしまうのだ。
取材・撮影・文=野崎さおり