お話を聞いたのは……
富岡八幡宮 参事 松木伸也さん
富岡八幡宮 神輿総代連合会 幹事長 八木利昌さん
富岡八幡宮 神輿総代連合会 副幹事長 山﨑隆夫さん
担ぎ手も観客も、一体となって熱狂する
祭は神事とにぎわいで成り立っている。3年に一度、深川八幡祭の本祭では、初日に神幸祭が行われ、神様をのせた鳳輦神輿(ほうれんみこし)が各町を巡回し、御神徳を授ける。その翌日に行われるのが神輿連合渡御(とぎょ)。前日のお礼として、各町から神輿が出される。そして、最終日、祈りを捧げるもっとも大切な神事「例祭」が執り行われる。
「神輿深川」と狂歌にあるように、祭りのハイライトは神輿連合渡御だ。大神輿54基をはじめ大小120基以上もの神輿が町を練り歩き、町中に「わっしょい!」と威勢のよいかけ声が響き渡る。別名「水かけ祭」。沿道からは豪快に水がかけられ、みんなズブ濡れだ。担ぎ手も観客も、一体となって熱狂する。
コロナ禍で祭が中止に。続ける大切さが身に染みた
深川八幡祭といえば、「わっしょい」という掛け声。「ソイヤ」でも「サー」でもない。
「8㎞もの長丁場を、神輿を担いで練り歩くからね。“わっしょい”なら“イチ、ニ”と、2拍子でリズムよく前に進めるでしょ」というのは、富岡八幡宮 神輿総代連合会 副幹事長の山﨑隆夫さん。
諸説あるが、「わっしょいは、“和を背負う”という意味からきているといわれています」と教えてくれたのは富岡八幡宮 神輿総代連合会 幹事長の八木利昌さんだ。
深川八幡祭の神輿連合渡御は、氏子各町会から選出された神輿総代連合会によって支えられている。総勢300名以上。7つの部会で構成され、各部会から選ばれた代表幹事は65名。総代の結束は固い。幹事たちは年一度の祭りのために、毎月1回、会合を開き、準備を進める。
「コロナ禍の影響で6年間、祭りが行われませんでしたが、その間も、緊急事態宣言下を除き、会合は続けました」と八木さん。それでも2023年、6年ぶりに行われた本祭では「細かい部分を忘れてしまったりして、思い出しながらの運営になったね」と山﨑さん。無事に再開できたことに安堵と喜びを感じつつも、絶やさず続けていくことの大切さが身に染みたという。
江戸の祭りに喧嘩(けんか)はつきものというイメージがあるが、こと深川八幡祭に関しては、喧嘩やトラブルはほぼない。それも、総代の統率力の賜物(たまもの)だ。『総代の心得』にも明文化されているように、渡御中の酒と喧嘩は御法度。万一諍(いさか)いがあれば、幹事が直ちに駆けつけ、大事になる前にその場を収める。
また、熱中症対策にも細心の注意を払う。「2024年は、子供神輿1台ずつにリヤカーをつけて、いつでも水分補給できるようにしています。救護体制も万全です」と八木さん。「安全第一。争うことなく、楽しく祭りを行うことで伝統が守られるのです。そのために、私もまだまだ体を張って頑張ります」と山﨑さんは誇らしげに笑う。
そもそも、水かけが始まったのも、暑さ対策のためだったのではないかといわれている。江戸以前に水かけをしていたという記録は確認されていない。
「江戸時代は旧暦8月、秋に祭りが行われていましたが、明治以降は新暦8月に行われています。そのため水かけが始まったのではないかと考えられます」と教えてくれたのは富岡八幡宮・参事の松木伸也さんだ。神社の歴史や深川八幡祭の歴史を研究し、本も3冊著している。
深川八幡祭は、江戸から続く伝統的な祭りだが、時代に合わせ、形を変えて続いてきたのだ。「昨今は担い手が減ってきていますし、今、変革の時期にあります。でも、根底にあるものは変わらない。それでいいのではないでしょうか。みんなで続けていくことが大事です」と八木さん。
さあ、2024年もまた深川八幡祭が始まる。6年ぶりの子供神輿で、初めて経験する子供たちも多い。次世代の担い手たちの躍動が楽しみだ。
2024年は子供神輿渡御を開催!
深川八幡祭は1年ごとに、本祭、二の宮神輿渡御、子供神輿渡御が行われる。2024年は8月11日の午前中に、子供神輿渡御が行われる。次世代への継承の意味を込めて、2001年から始まったという。前回は子供神輿50基、仮装神輿3基が渡御した。そのほか、8月11〜15日の祭り期間中には、石見神楽、太鼓と舞、ガムラン踊りなど、奉納行事も盛りだくさん。旧暦深川祭の日には、中秋祭も行われるので、こちらも楽しみだ。
見どころ①
各町会から、子供神輿が永代橋のたもとに大集結。大人同様に、水かけもザバザバ! かわいらしくも勇ましい子供たちの姿をぜひご覧あれ。
見どころ②
島根県浜田市の伝統芸能「石見神楽」。3時間で5演目を上演する。ダイナミックな蛇踊りが見どころの「大蛇(おろち)」が人気。
取材・文=瀬戸口ゆうこ 写真提供=富岡八幡宮
『散歩の達人』2024年7月号より