“サクッと安く”ファストフード感覚で気軽に入れる立ち飲み屋
テレビの街頭インタビューでおなじみの新橋駅前SL広場の隣にある「ニュー新橋ビル」。飲食店をはじめバラエティ豊かな“味な店”がぎっしりと詰まったワンダーランドだ。
エスカレーターで地下1階に降り、『立ち呑 破天荒』の前で足を止めた。
大きなキリンビールのタペストリーが目に入り、無性に喉が渇いてきた。生ビールが欲しい。天に駆け上がる麒麟にすがるように店に入ると、ママの木村理恵さんが威勢のいい声で「いらっしゃいませー」と迎えてくれた。
「うちは“安くサクッと飲める”店。お客さんと距離が近いので2時間もいれば隣で飲んでるおじさんと仲良くなれますよ(笑)」。あはは、手っ取り早く飲みニケーションスキルが養えそうだ。
『立ち呑 破天荒』は2015年にオープン。木村さんはこの店の2代目のママだ。
今やすっかり風格が備わっているママだが、前職は映像関係の会社のプロデューサー。社内で力を発揮していたのだが、会社の方針に納得できずに退職したのち、仲間内で「みんなでお金を出しあって安くてサクッと飲める店をやろうよ!」という話になったという。
「すぐに、料理を作る人、お酒に詳しい人が見つかったんですけど、 店をプロデュースする人がいなかったんです。それで、前職で子会社の立ち上げを経験したことがあった私が担当することになりました」
というわけで集めた資金を託され、江東区大島で立ち上げた『立ち飲み酒場 番外地』の代表者になってしまったママ。その成果から『立ち呑 破天荒』の立ち上げにも携わることになった。「最初はプロデュースだけのはずでした。今は『立ち飲み酒場 番外地』の経営は別の人に任せて、『立ち呑 破天荒』のママです」と話す。
「ママになって、まずはお酒を少しずつ飲むことから始めましたが、今は何でもいけますよ(笑)。飲食店の経営は、いろんな業種の人と出会える機会が多いから面白いですし、勉強になりますね。この店がオープンして約10年。ご贔屓にしてくださるお客さまもできて、私だけの店ではなくなりました」
そういってビールジョッキを片手にニカ〜ッと笑う。他愛のない会話がポンポンと弾んで、初めて会った気がしない。そんな気持ちにさせてくれるママは強力な“コミュ力”の持ち主。ああ、ママと一緒にお酒を飲みたくなっちゃったな。
安さの裏にママの努力と工夫がある
壁にかかっているメニューを見ると、ほとんどのメニューは300〜400円台と手軽な価格だ。組み合わせ次第ではワンコインで2品いただけるのもうれしいところ!
この安さにはさまざまな工夫が凝らされている。
「冷凍食品は今や高級品。だから、なるべく冷凍ものではなく市場に行きお買い得な食材を駆使してその日のメニューを決めます。でも、毎日メニューが違うのは逆に今日は何があるかなっていう期待を持ってもらえるみたいです」
たしかに! 近くを通りかかると、なんとなく気になってふらりと寄ってしまうあの感じ。定食屋とか古本屋にちょっと似ている。
サラダや和え物などは「ひとりで来た人が少しでもいろいろな種類が食べられるように」と、ハーフ&ハーフにも対応してくれる。いつもお客さんの立場になってサービスを提供するママの心遣いがうれしい。
ドリンクもおつまみと同様に良心価格だ。料理と合わせても1000円で飲めるなんて筆者の少ないお小遣いでも十分楽しめる。
おなじお酒をおかわりするときは同じコップで、食事が終わったらお片付けコーナーに皿やコップを戻すなどセルフ方式を取っている。そういうところも自分のペースで飲めるからいいなぁ。
看板メニューは鮮度のいいお値打ちの刺し身と、ヘルシーないくらまみれ
『立ち呑 破天荒』は、注文したらその都度料金を支払うキャッシュオンデリバリー方式で会計する。現金とペイペイのみ対応なので入店前にお財布の中身を確認しよう。
お酒は店に入る時から気になっていたビールに決めた。キリンラガーの生ビール350円と、お刺身超3点盛り800円、いくらまみれ500円をオーダーした。今日はちょっと豪勢にいこう。
お刺し身は、毎日豊洲から仕入れる看板メニュー。“超”3点盛りというメニュー通り、最低3種以上の魚が盛り付けられる。
オーダーから5分かからず注文したものが運ばれてきた。これに加えビールをおかわりしても2000円ほどなんだから、新橋界隈のお酒好きがこの店に吸い寄せられてしまう気持ちがわかるなぁ。
まずはビールでカンパーイ。ひゃ〜、コクがあって苦味もある。疲れたときは一番搾りより武骨な味わいのラガーを選ぶのが筆者の流儀。ゴクリと喉を鳴らせて筆者のカラダも歓迎している。
ジョッキを片手にお刺身超3点盛りをいただいてみた。「甘エビは塩辛になっているんです。甘エビの殻をむいて、酒で洗って塩をまぶし寝かせています」。
まったり、ねっとりとした甘エビの塩辛。熟成され旨味は強いが、醤油をつけて食べるとあっさりとしておいしいかも。肉厚のイカや上品な味わいのシマアジ、赤身ならではの旨味があるインドマグロ、プリッとした身のマダイ、このレベルのお刺し身がこの値段で食べられるのはうれしい!
続いてうに豆腐にいくらをたっぷり盛り付けたいくらまみれ。見た目も涼しげだ。うに豆腐といくらがこんなにのって500円だなんて破格すぎる! つるんとなめらかな豆腐にプチプチとしたいくらの食感と塩味が贅沢だ。
「それはね、スーパーでも売ってるビヨンド豆腐なの。本物のうに豆腐みたいでしょ? 海苔に巻いて軍艦巻きにして食べたりするみたいですよ」
ビヨンド豆腐だけ食べてもうにらしい潮の香りとコクがある。しかも本物のいくらがのっているからより満足感がある。このいくらまみれ、すごいぞ!
メニューは日替わりだが、いくらまみれは頻繁に登場するという。次に来た時には大皿料理も食べてみたいな。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢