店名の由来は、食いしん坊な料理人の居酒屋
『アンティカ・オステリア・ココ・ゴローゾ』の店主は、町島剛(まちしまたけし)さん。都内のビストロで働いたのち、知人の紹介をきっかけに1997年から『アンティカ・オステリア・ココ・ゴローゾ』で働いている。2020年にお店を引き継ぎ、2024年で丸4年。2代目として変わらない味とサービスを届けている。
「元々は『オステリア・ココ・ゴローゾ』という名前でした。全てイタリア語で、オステリアは酒場、ココはトスカーナ地方の方言で料理人、ゴローゾは食いしん坊という意味です。私が引き継いだ時点で創業25年だったので、老舗という意味のアンティカをつけて、現在の店名になりました」
実際にイタリアで留学生活を送ったこともあるという町島さんは、肌で感じたイタリアの文化や雰囲気を、お店作りに反映しているのだとか。
「食事は日常生活と密接に関わるものです。その場所の空気を感じながら生活を送って、文化を吸収できたのはとても価値ある時間でした。イタリア人のおおらかな国民性に触れて、肩肘張らないリラックスできるお店作りができたらと考えましたね。同じように留学してきた人に出会うこともあり、いい刺激になりました」
フレッシュな酸味を感じるトマトソースが魅力!濃厚卵が楽しめるイタリアンメニュー
『アンティカ・オステリア・ココ・ゴローゾ』では、ランチにオリジナルパスタやピッツァ、ラザニアやカルツォーネなどのイタリアンメニューを気軽に楽しむことができる。特にカルツォーネと、シラスとフレッシュトマトのスパゲッティは創業当初から愛される看板メニューだ。
カルツォーネはイタリアで愛される包み焼きピッツァ。表面はサクッと、中はもちもちな食感の生地は食べ応えがあり、ナイフを入れるとトマトソースとチーズがとろりと流れ出す。癖のないトマトのフレッシュさを感じるトマトソースと、スッキリとした味わいのモッツァレラチーズの組み合わせがシンプルでおいしい。
「カルツォーネは、何か珍しいメニューをと考えて、創業当初から出しています。中には黄身の濃厚さが特徴の奥久慈卵がまるごと隠れているんです。奥久慈卵は、私が引き継いだ後に地元・北茨城の素材を取り入れたいと思って使い始めました」
もう一つの看板メニューは、シラスとトマトを使ったオイルベースのスパゲッティ。シラスから香る優しい磯の風味とトマトのほのかな酸味が、意外に相性がよく、素材のポテンシャルを引き出した一品だ。
「シラスとフレッシュトマトのスパゲッティは、オープン当初からファンが多い人気メニューです。20年以上働いている私でもたまに食べたくなるほど、癖になる味なんです」と店主が語るほどの絶品を、ぜひ食べてみてほしい。
お客さんに喜んでほしい。 愛されてきたお店を支える真摯な思い
町島さんがお店を引き継いだのは、2020年のコロナ禍真っ最中。経営経験のなかった町島さんは、想像もしない状況に戸惑い悩むことが多かったという。そんな中でも、飲食店としてやることは変わらないと、お客さんが喜んでくれることを考え抜いた。
「お客さんに喜んでもらえることはなにかを考え、テイクアウトやデリバリーのサービスも行いました。食事だけでなくお酒も家で楽しんでもらえたらと、酒販免許を取り、ワインの販売にも取り組んだんです」
そんな状況の中で生まれたのが、新たな代表メニューとなったカラメルプリン。奥久慈卵の濃厚さと固めの食感が魅力だ。
「どんな人も美味しく食べられて、テイクアウトもできるメニューを作りたいと考えて開発しました。私自身もプリンが好きで、特に固めのプリンが好みなんです。卵の味わいがしっかり楽しめる食べ応えのあるプリンになっています」
お客さんに喜んでもらいたいという意思は、前オーナーからの影響もある。
「ランチメニューになっているラザニアは、元々は日替わりパスタとして出していたメニューだったんです。お客さんからの人気が高くて、レギュラーメニューとして扱うようになりました。メニューの追加やサービスへの工夫など、お客さんのことを考え抜く前オーナーの姿勢を見てきたからこそ、お客さんのためにできることはないかを自然に考えられるようになりました」
常にお客さんのことを考えている前オーナーを見ていたからこそ、町島さんもお客さんを思ったお店作りを行っているのだ。
町島さんは料理人として活躍する一方で、飲食店はお客さんにサービスを提供する場所だという意識を強く持っている。現在も、なるべくフロアに出て、お客さんの様子を見たいと語ってくれた。
「食卓を囲んで、食べたり飲んだりして楽しそうに過ごしているお客さんの姿を見るのがすごく好きなんです。飲食店の価値は、おいしい料理を提供するだけではなく、お客さんが楽しめる雰囲気を提供することも大切だと思っています。店の雰囲気、スタッフの親切さ、サービスの充実度も含めて、愛される店作りがしたいんです」
30年近く地元から愛されてきたお店を支えているのは、2代に渡って受け継がれてきたお客さんに喜んでほしいという真摯な思いだ。町島さんの想いが伝わっているのか『アンティカ・オステリア・ココ・ゴローゾ』は、親子連れからカップル、会社帰りのサラリーマンなど幅広い世代が気軽に楽しめるイタリアンとして愛されている。
シックな木の看板を目印に階段を下りれば、ウエルカムな雰囲気のあたたかな空間が広がっている。
取材・文・撮影=古澤椋子