実直なおいしさのパン
JR駒込駅の東口改札を出て右に折れると、目の前にアザレア通り商店街の入り口がある。目の前を本郷通りが走り、六義園がある華やかな北口と比べると、こちらは親しみやすいというか、下町っぽさが漂っている。その商店街の中ほどにある『パンハウス麦畑』。こちらのパンが、なかなかなのである。
たとえば定番のカレーパン。かじりついた瞬間、ぶにゅっとはみ出るたっぷりなカレーフィリングが、まずうれしい。パン生地はもっちりしていて甘みあり。スパイスのきいたフィリングとのバランスがとても良い。びっくりするような仕掛けこそないが、実直なおいしさのあるカレーパンなのだ。
ほかのパンも同様。総菜系もパンがまずおいしい。焼きそばコッペのパンは適度な軽さとしっとり具合で、具材に負けない存在感がある。もちろん焼きそばコッペもハムたまごコッペも、具材はたっぷり。しかも安い。手軽でおいしく満足度も高い、町パンの優等生といっていいだろう。
商店街にすっかりなじんだ感のある『パンハウス麦畑』。しかし、この場所でオープンしたのは、つい6年前のこと(2024年現在)。それ以前はアザレア商店街より、ちょっと東にある田端銀座商店街で、同じ店名で営業していた。
移転前から変わらないおいしさと安さ
現店主の大塚茂さんはそちらで働いていたのだが、店が立ち退きになり、当時のオーナーが商売をやめることに。
それならばと大塚さんは独立する形で、現在の場所に再オープンさせたのだ。
店の場所は変わったが、提供するパンは、基本的に変わっていない。安くておいしいパンを提供するというモットーは、以前の店のオーナーが常に言っていたのだという。また、「材料をケチらない」ということもそのままだ。
「いっぱい入れるってわけじゃないけど、ちょっと多く入れるようにしています。それだけでも喜んでもらえるじゃないですか。お客さんが喜んで、いっぱい買ってくれればうれしいですし、明日も頑張ろうって気になれますから」と大塚さん。
おっしゃるとおり。『麦畑』のカレーパンを食べて、すっかりうれしくなってしまいました。
変わらないようで変わっている
基本姿勢こそ変わっていないが、小さな変化はいろいろとある。まず、以前の店舗より広くなったこともあって、パンのメニューは拡大した。定番に加えてハード系やクロワッサン、デニッシュなどさまざまなパンを並べるようにした。下町のベーカリーだとハード系はなかなか難しい場合もあるが、現在の場所は客層も幅広いようで、わりとスムーズに受け入れられたようだ。
さらにパン自体も、地味ながらマイナーチェンジさせている。
「粉自体は変えていませんが、作り方とかは長い間に少しずつ変えていますよ。商品に関しては、うちはちょっと頑張っているかもしれませんね」と大塚さん。
そうなのだ。人の嗜好はそのときによって変わる。おなじみのパンであっても、そのときに合わせて少しずつ変えていかなければ、長く支持されることは難しい。普通の街のパン屋さんだが、『麦畑』がちょっと違うと感じたのは、その地道な進化があってこそなのだ。
姿勢は変えずにパンは少しずつ変えていく。これが地域の人に愛される町パンの正しい姿なのだろう。
取材・撮影・文=本橋隆司