十数年来の常連さんが今も通う

元々は港区の麻布台でお寿司屋さんをやっていたという、店長の西山重男さん。

リーマンショックでお店が潰れ、飲食店を転々としていたところ、元オーナーと知り合い、2012年頃に2代目の店長として『汁麺屋 胡座』で働くことになった。

そこから2年後にお店を買い取り、お店の内装やメニューなど、西山さんオリジナルのものに変更したのだそう。

だからだろうか。つるっとした素材のカウンターや緑が映える椅子は、お寿司屋さんに来たような、ラーメン屋ながらどこか高級感のある空間を生み出している。

お寿司屋さんのような、高級感のある内装。
お寿司屋さんのような、高級感のある内装。

店長の西山さんがお寿司を握っていたのは、2024年の時点ですでに17、18年前のこと。それでも、当時の常連さんが今も4、5人は足を運んでくれているという。

お店のSNSで時折見られる“夜の部貸し切り”に関しても、その中の1人の常連さんが「アンタは、なかなか旨い料理を出すなぁ」と言いながら、毎月ここを貸し切っているのだとか。

お寿司屋さん時代の取材記事。
お寿司屋さん時代の取材記事。

この話を伺っている時、ちょうど店内にあるラグビーのポスターを発見。

両国という土地柄、相撲のカレンダーが貼ってあるのはわかるが、なぜラグビーなのか?
不思議に思い、質問すると「ラクビー好きの常連さんが勝手に貼っていったんですよ〜」と教えてくれた。

ラーメンがおいしいことは言うまでもないが、お客さんと深い関係を築ける西山さんの人柄が心をつなぎ留め、ここへ足しげく通わせるのだろう。

濃厚なのにサッパリとしたつけ麺

濃厚つけ麺(並)980円。
濃厚つけ麺(並)980円。

季節のラーメンと悩んだが、今回は濃厚つけ麺(並)980円を注文。

もはや褐色に近い魚介系のスープは、濃厚で魚介の旨味がしっかりと感じられるが、ゆずが入っているので後味は意外とサッパリしている。色こそ濃いものの、サラサラしていて、全く飽きない。

スープ割りを頼むと、熱々の出汁が加わり温かいスープに変身を遂げる。これもまたおいしい。

モチモチな太麺。
モチモチな太麺。

麺はというと、モチモチとした食感の太麺を使用。スープはややとろみがあるため、太麺とよく絡む。麺の量は並盛と中盛から選ぶことができ、どちらも980円ため、もっと味わいたい方は中盛でも良さそうだ。

ちなみに、つけ麺は魚介塩つけめん(並盛・中盛)980円もあり、その珍しさから多くの人が注文する人気メニューとなっているそう。

ラーメンで季節を感じる

3月の季節メニューにのせる、桜の花びら型の大根。
3月の季節メニューにのせる、桜の花びら型の大根。

1月は海老の塩そば(海老のお頭つき)、2月は海老の塩そば(豆を入れた節分バージョン)と、季節のラーメンを提供している。まさに、店長西山さんの和食の経験が活かされた一杯だ。

「鯛の出汁だったり、その時折で作るスープを味わってほしい」と言う西山さん。
このような季節に合った月替りラーメンを食べられるのは『汁麺屋 胡座』ならではだろう。

お店を訪れた3月はというと、桜鯛のアラなどで出汁を取った、さくら鯛の塩そば980円。

桜の花びらをイメージした大根が添えられているだけでなく、トッピングで桜の味玉100円や、鯛のつみれ団子100円が追加でき、ラーメンから春を感じることができる。

常連さんとの強い繋がりを大切に

岩城島産のブラッドオレンジ。
岩城島産のブラッドオレンジ。

ここでは瀬戸内生レモンサワー580円など、お酒の提供も行っているのだが、季節のラーメン同様にこだわりがある。

というのも、お店で提供しているお酒は通常の果実ではなく、全て岩城島から取り寄せたもの。

まさに写真のブラッドオレンジは、とある常連さんの友人がしまなみエリアのおいしい食材を届ける事業を開始したことから、そのつながりでお店でも提供を始めたもので、普通のオレンジと違い、コクのある甘さと爽やかな酸味が特徴的だ。

通常、常連さんやサワーをよく注文するお客さんを中心にサービスデザートとして提供しているそうだが、ブラッドオレンジサワー580円として飲むことも可能なため、是非注文してみてほしい一品だ。

近所の方から頂いたという写真と絵が飾られた店内。
近所の方から頂いたという写真と絵が飾られた店内。

この店は、お昼を除き、基本的には店長の西山さん1人で営業している。

仕込みのため、自宅にはあまり帰らず、店内で寝泊まりする生活を送っているというが、それでもお店のXとInstagramアカウントは頻繁に更新されている状態だ。

そのことについて訊ねると、これら全て常連さんが手伝ってくれているのだと言う。

しかも、手伝っているのは1人ではない。XはAさん、InstagramはBさん、中国語のメニュー作成はCさん、お持ち帰りメニューのPOPはDさんと、複数の常連さんがお店をサポートしているというのだから驚きだ。

常連さんが作成した中国語メニュー。
常連さんが作成した中国語メニュー。

このように常連さん自らお店のサポートに乗り出すほど愛されているお店は初めてかもしれない。

お店のことを知れば知るほど面白く、気がつけば滞在時間が1時間を経過。

その間「まだ仕込みもしてないし、ご飯だって食べてないから!ほら、早く帰って!(笑)」と何度か言われたが、お店の暖簾をくぐった時には「また食べに来てね」と優しく見送ってくれた。

「私もサポーターの1人になってしまいそう」。そんなワクワクする気持ちを抱えて店を後にした。

住所:東京都墨田区両国4-35-1/営業時間:11:30~15:30・ 18:30~21:30(土・祝は12:00~15:30・18:30~21:30、日は~15:30)/定休日:水/アクセス:JR総武線両国駅から徒歩4分

取材・文・撮影=SUI