悲しみのない自由な空へ、翼はためかせ行きたい~♪ と思うほどストレスのたまる昨今。せめて、都心で、近所で、バードウォッチングはできないものなのか?
「場所を選べば、都内近郊でも鳥見(とりみ)を楽しめますよ」と頼もしい返事をくれたのが、野鳥に関するさまざまな著作をもつプロバードウォッチャー、♪鳥くんだ。聞くと、明治神宮でカワセミを、六本木ヒルズでカルガモを見つけたこともあるという。
「都心の嫌われ者の印象が強いカラスも、サイズ感や飛翔時の姿を覚えておくと、その比較でほかの猛禽類の判別がしやすくなる。いわゆる〝ものさし鳥〞として覚えておくと役立つんです」
しぐさに注目すると鳥愛がさらに深まる
ご近所鳥見の舞台、今回は♪鳥くんの地元にある某湖沼へ。
「初夏に野鳥観察をするなら開放的な水辺、しかも車道から水辺まである程度距離がある沼、池、河川がおすすめです。都内なら井の頭公園や善福寺公園、砧公園などもいいでしょう」
特に、水際でアシなどがゴチャッと生えているところや、池の中島、川の中州周辺は野鳥のいる確率が高い。早速、湖沼に浮かぶ中島の方を見ると、カワウが日光浴中だ。小さくて茶色い個体が1羽いるが、それは幼鳥らしい。
「あっちを見てください。カワウたちが同じ方向に向かい、白波を立てて潜水を繰り返しています。集団で魚を浅瀬に追い詰める“追い込み漁”をしてますね」
ただ、鳥を見るだけでなく、鳥が何をしているか。そこに着目すると、ご近所鳥さんぽの楽しさがグッと深まる。花の蜜が好きなヒヨドリがクチバシを花粉まみれにしていたり、メジロがバシャバシャと水浴びをしていたり。この日は湖沼のほとりの畑に、土をついばみに来るツバメの親鳥を発見。巣を作るのため、一生懸命土を運ぶ健気な姿にキュン♥
と、背後の木から「キチキチ」という鳴き声が。あれはモズ? 鳴き声の方を夢中で指さすと、♪鳥くんから「鳥は視力がいいので、指をさすと驚いて逃げることも。なるべく指さしは小さなアクションが好ましいです」とアドバイス。鳥に近づく際は、すり足でゆっくりと。鳥が首を上げてこちらを見たら、それ以上近づかずに観察しよう。シャカシャカと音が鳴るような服装も避けた方がいい。
“鳥さんぽ”の心得
一 風のない曇りの日を狙え
曇天時は、逆光にならず鳥の色を判別しやすい。鳥が姿を見せにくい強風時は観察に不向き。
二 音や歩き方に注意しよう
野鳥に近づくときはすり足で静かに。抜き足差し足は天敵のネコのように見られるのでNG。
三 スマホで撮影は避けよう
倍率が低いスマホカメラは野鳥に近づいて、ストレスを与えがち。コンデジや一眼レフで撮影を。
四 双眼鏡はゆっくりと上げる
近距離で鳥を見つけた際、うれしくて勢いよく双眼鏡を上げると、鳥が驚いて逃げることも!
五 鳴き声をメモしておこう
図鑑に掲載の鳴き声は実際に聞いた声とズレを感じることも。自分なりのカタカナ表記でメモを。
鳴き声を何かに例えて記憶しよう
少し歩き、再び水辺に近づくと今度は「チッチッ」という鳴き声。人の舌打ちみたいな音だ。
「アオジが鳴いてますね。野鳥の鳴き声を1週間に1種類でもいいので覚えていくと、より多くの野鳥を識別できるようになります。覚えるコツは鳴き声を自分なりのカタカナ表記でメモすること。金属的な音、とかオジサンの嘔吐の音(笑)などイメージを膨らませると声が記憶に残りやすいです」
1週間に1種なら、1年で52種。よし! ♪鳥くんみたいに近所のマイフィールドに通って、鳴き声ハンティングをしてみよう。
「日々、近所の同じ場所に通うことで、発見できることもあります。例えば今日はこの湖沼で初めて、サシバの姿を見ることができました。毎日観測していなければ気付かなかったでしょう。また、去年と同じ個体が、今年飛来してきて同じ木の枝に止まった、と感じることもある。となると、その鳥に強く感情移入できますよね」
達人ならではの至言をもらい、本日の鳥さんぽは大団円。最後に、鳥見の際にあると便利な道具を教えてもらった。
「双眼鏡は倍率8倍ぐらいのもので、なるべく明るく見えるものがいいです。対物レンズ(接眼しない方)が大きいものほど、周囲が暗くても明るく見えますから。写真を撮りたいなら、ハイエンドコンデジがおすすめ。気軽に一眼レフ顔負けの写真を撮れますよ!」
誰でも一人で始められる鳥さんぽ。普段の散歩より少しだけ、耳を澄ませてみよう。そこには、いろんな鳥の鳴き声が響いているはずだから。
【東京周辺で見られる野鳥図鑑】
カワセミ
明治神宮で見かけることも!
河川や湖沼の水上に突き出た、木の枝や護岸などに止まって餌を探すことが多いので、水際で見つけやすい。そのエメラルドグリーンの羽色から飛ぶ宝石とも呼ばれ、メスはクチバシ下側の赤がチャームポイント。大きさはスズメサイズで「チイーッ」と鋭い声で鳴く。
エナガ
ふわふわボディが愛らしい
おもに平地や低山地の林に生息。体重は約8gと日本最小クラスで、丸っこい体がかわいらしい。尾羽が長く伸び、ヒシャクの柄に似ていることから、この名前が付いたとも。繁殖期にはコケやクモの糸を集め、木の枝に丸い巣を作る。鳴き声は「ジュリリ」「チュ」など。
コゲラ
戸がきしむ音がしたら、探してみて
全長約15cmと、スズメと同じくらい小さくて探しにくいが、住宅や公園の木々にも見つけられる日本最小級のキツツキ。春から夏にかけては、木の葉にいる虫を食べることも多い。目の上辺りの羽色が赤いのがオス。「ギーギー」と戸がきしむような鳴き声が特徴だ。
カワラヒワ
全体は渋い羽色だが、翼の黄色が鮮やか
空き地でタンポポの種子を食べる姿など、市街地から河原まで広い場所で見られる。繁殖後は草地の広い河原にいることが多く、この名が付いた。全体的に茶色がかった羽色だが、飛ぶと翼と尾の黄色が目立ち、探しやすい。鳴き声は高く澄んだ音で「キリリリリッ」。
シジュウカラ
ネクタイの太さで、雌雄を見分ける
市街地から山地まで広く生息。春から夏には、枝葉の部分で昆虫類を探していることも多い。白い頬と、胸から腹にかけてネクタイのような黒い線がトレードマーク。このネクタイの太いのがオス、細いのがメス(写真)と覚えておこう。鳴き声は「ピーツツ」「ジュクジュク」など。
ハクセキレイ
アナタの身近にもいる、白黒の鳥
コンビニなどの駐車場や河川敷でも見かける、遭遇率の高い鳥。体形は横長で、尾が長い。運がよければ水浴びするかわらいしい姿も! 東京では冬しか見られない鳥だったが、1970年代になってから関東で繁殖する留鳥も増加した。鳴き声は「チチン、チチッ」など。
アオサギ
都市部で見かける、最大の野鳥
主に水辺に生息。全長約93cmと存在感があり、見つけやすい。「グワァー」という大きな鳴き声に驚かされることも。青みがかった灰色の羽はアオサギ、羽が白くてクチバシが黄色い(繁殖期のみ黒)のがダイサギ、羽が白くてクチバシが黒いのがコサギと見分ける。
オナガ
麗しい見た目ながら、鳴き声は迫力
本州の中部地方から北、山地や住宅地に生息し、関西では見られない留鳥。水色の翼を広げ、水平に飛ぶ姿が美しい。カラスの仲間のため鳴き声は「ギャーイ、ギッギッ」と騒々しい。天敵のカラスを追い出してくれる、小型猛禽類のツミの巣の近くで営巣することも。
ヒヨドリ
覚えておけば、他の鳥の判別に役立つ
全国の市街地、公園で非常によく見かけるため、グレイッシュな羽色や約27.5cmというサイズ感を覚えておくと、逆に他種類の鳥を見つけるときに役立つ。興奮し、頭の羽毛を逆立てることも! 主に樹上に営巣し、5~7月に産卵期を迎える。鳴き声は「ピーッ」など。
ダイサギ
脛(すね)から上の色を見て、細かく分別
シラサギの中で最大で、全長約89cm。本州から九州の林に集団で営巣し、都市部を含め各地の水辺で生息する。細かく分けて日本には亜種チュウダイサギと亜種ダイサギが見られ、前者は脚全体が基本的に黒。後者は脛から上が薄い桃色や白。鳴き声は「ガァァ」「ゴワー」。
【ハトとカラスの見分け方】
最も身近な鳥で「判別する」快感を!
玄関を開けた先にもいそうな都会の住人(住鳥?)、ハトとカラス。実は日本のハトやカラスにはいくつかの種がいるのをご存じだろうか? まずは、漫然と見ていた身近な鳥の識別から、ご近所鳥さんぽの一歩目を始めてみては?
ハシブトカラスとハシボソカラス
左/ハシブトカラス
動物の死体や人間の生ごみまで食べる都会の掃除やさん。全長約57cmとハシボソガラスより体は大きく、クチバシは太くて大きい。鳴き声は澄んでおり「カーカー」。
右/ハシボソカラス
全長約50㎝。地上を歩き回って餌を取ることが多い。農耕地や田園地に生息するが、水辺や畑に近い市街地で出合えることも。鳴き声は濁っており「ガーガー」。
ドバト(カワラバト)とキジバト
左/ドバト(カワラバト)
全長約32cm。原種カワラバトを飼育改良した伝書バトなどが野生化。頭は濃い灰色、たたんだ翼には2本の黒線がある。鳴き声は「クックー、クックー」「グルルル」など。
右/キジバト
全長約33cm。全体的に淡いぶどう色で、首の小さな水色模様がチャームポイント。夫婦で仲良くしている姿を見かけることも多い。鳴き声は「デーデーポッポー」。
野鳥写真=♪鳥くん 取材・文・撮影(人物)=鈴木健太
『散歩の達人』2020年6月号より