あんぱんからベーグルまで揃うラインナップ
東急目黒線の洗足駅から歩いて10分ほど。武蔵小山から環状七号線へ抜ける通り沿いに、『ハセパン』はある。駅からは離れ、新しい住宅が立ち並ぶエリアだ。
親しみやすさとおしゃれさが絶妙なバランスの看板が目立つ。中に入れば、パンのラインナップはその看板のとおり。あんぱんやカレーパン、サンド類などの昔ながらのものから、クロワッサンやベーグルまでそろっている。
しかも総菜系はちょっとずつ手が込んでいて、ネギ&チャーシューのソフトフランスサンドというパンも。どんなものかと食べてみたら、ネギチャーシューの味つけが濃すぎない絶妙さで、軽い味わいのソフトフランスと見事に合っている。
さらには土曜日のみ、個数限定のだし巻き玉子サンドなるものも。豊洲から仕入れているだし巻き玉子は、甘さが控えめ。パンにはからしバターと粒マスタードが塗られていて、ぽってりとした見た目ながらしつこさはなく、パクパクと食べられてしまう。
どのパンも、びっくりするほどではないが、ちょっとずつ気がきいているのだ。そこがいい。
もちろん、昔から今のようなラインナップだったわけではない。西小山にあった頃は、菓子パンメインのラインナップだったという。
西小山から洗足へ
『ハセパン』はもともと、西小山駅近くにあった「城南百貨店」というマーケットで、1961年に『ハセ川ベーカリー』という店名で開業した。今は駅前も再開発されてきれいになっているが、西小山駅前には細く長い商店街があり、多くの人でにぎわっていた。
その後、1978年にマーケットは閉鎖となり、『ハセ川ベーカリー』は近くに建ったマンションの1階で『タウンベーカリーハセ川』として再出発。87年には現在の店主、長谷川弘信さんが店に入り、2015年には店名を『ハセパン』に変更。そして店周囲の環境の変化もあり、2019年に現在の場所へ移転した。
駅前から住宅地へ。売れ筋のパンはだいぶ変わったという。以前は買い物帰りに来る人が多く、売れ筋は甘いパンだったが、それが現在は総菜パンが出るという。住宅地ではついでに買う人より、家で食べるために買う人が多いのだろう。そのほかにも、通り沿いで、仕事の途中に買うドライバー客が増えたのも、総菜パンが人気の理由だろう。
変わっていくハセパン
また、住宅地とあって子育て世帯の家族も多いため、体にいいパンを心がけるようになった。
「マーガリンは使わず、バターのみ。食パンもガス抜きを通常より1回多く行って発酵を最大限に活かすなどしていて、そのことをホームページでアピールしています。最近の若いお母さんは、子どものために食材にこだわる人も多いので、うまく伝わればと思います」と、長谷川さん。
移転してから始めたベーグルも好評。クロワッサンなどのリッチ系は作るが、ハード系は控えめにして、ソフトフランスまで。「年配の方、お子さんも多いので」と長谷川さん。そのへんの、地域に合わせたバランス感覚が絶妙だ。
定休日も変更した。以前は日曜が休みだったが、現在は月曜と火曜を休みにして、土日は店を開けるようにしている。仕事が休みの日にパンを買いに来る人が多いのだ。これも現在の立地に合わせた変化だろう。
毎日、食べられて、ちょっと刺激的。シニア層から小さな子どもまで、喜んで食べられる街のパン屋さん。しかし、その中身は60年前から少しずつ進化していて、店のあり方やラインナップが「新しい町のパン屋さん」といえるものになっている。それが洗足の『ハセパン』なのである。
取材・撮影・文=本橋隆司