海外の美味をそのまま日本に持ち込むのは、料理店の場合、意外としんどい。その味がお客さん=不特定多数の日本人に支持されなければ、商売として立ちゆかないからだ。いつしか姿を消してしまったり、受け入れられやすいよう魔改造の洗礼を受けたりするケースが少なくない。台湾料理もしかり。約20年前、台湾の有名ルーロー飯チェーン「髭鬚張魯肉飯」が上陸、本場の味をリーズナブルに供していたが、時代が早すぎたのか消えてしまったし(金沢店のみ営業)、一方で台南発祥の担仔麺を魔改造しまくった「台湾ラーメン」は定着するなど、本場の味を貫くのは一筋縄でいかないのである。『合作社(フゥズォシュア)』の店主、黃さんも昨年2021年のオープン当初、不安にさいなまれたという。だが時は台湾ブームの最中。現地そのままの味にこだわりまくった『合作社』の小吃(シャオチー)=軽食は、当たり前のように受け入れられた。まず在留台湾人の間で話題になって瞬く間に広がり、日本人のコアな台湾好きが追随、巡礼地のひとつと化しつつある。実際、台湾で食べ歩いたことがある人ほど、この店のスゴ味に感嘆と郷愁を覚えるはずだ。

初めてなら「石頭鍋」を試してみるべし

場所は2号店とはJRの線路をまたいで反対側の、飲み屋街のさかえ通り。味のある飲食店が立ち並ぶ細い通りに入ってすぐのコンクリ打ちっ放しのビル3階に潜んでいる。白を基調とするオシャレなカフェ仕様の店内は、台湾人デザイナーによるもので、台北あたりの街角にあってもおかしくない雰囲気。壁面に台湾製白タイルを敷きつめ、表示類の文字も本場であつらえるこだわりぶりで、付け焼き刃ではない今どきの本場センスである。垢抜けていながらもどこか力の抜けている加減が、日本人には真似できないんだよなあ。

この店で供される火鍋(フォグゥオ)とは中国語で鍋の総称。中国系の人々は総じて鍋ものが好きで、季節に関係なく食べている。台湾でも大陸から持ち込まれた火鍋の料理方法が改良されたり、オリジナルが生み出されたりしており、日本で知られざる鍋がまだまだ多い。さらに、ひとり鍋のスタイルが定着しているのも特長だ。複数で楽しむおなじみの鍋もあるけれど、街を散歩していると、女性が専門店のカウンターで鍋を一人でつついていたり、カップルが各々種類の異なる鍋を楽しんでいるのを見かけたりする。『臺所』では台湾から持ち込んだおひとり様サイズの鍋で、「石頭鍋(シイトゥフォグォ)」という台湾ならではのスタイルの火鍋が味わえる。

石頭(シイトゥ)とは「石の鍋」の意味。韓国の石鍋を使った料理が、台湾で魔改造された料理だと聞く。まず鍋にごま油を敷いて肉を炒め、そこに特製スープを注ぎ、さらに野菜や具材を投入して煮込む。頃合いを見て中国醤油ベースのつけだれではふはふといただく。炒めた肉のコク&香しいごま油の織りなすスープがうまうまで、ならではのうまさである。

初めてならまずこの「石頭鍋」を試してみるべし。ランチはリーズナブルなのでおすすめだ。複数で訪れる時は鍋のサイズなど微調整してくれるが、できれば一人かせいぜい二人で行って鍋奉行から解放される鍋を体験してほしい。

現地ノリ味わえる火鍋

加えてもう一歩現地ノリに攻めてみたいなら、他の火鍋も用意されている。「焼酎鶏鍋」「剝皮辣椒鍋」「沙茶白菜鍋」の3種類だ。鍋の仕立て方のベースは同じで、主役となる素材に特長がある(薬膳鍋ほか新しい鍋も登場予定)。

「焼酎鶏鍋」は台湾の料理酒・米酒(ミィジゥ)=米焼酎を鍋に投入。煮詰めつつ火を付けアルコール分を飛ばす。そこに鶏肉ほか具材諸々を加えて、鍋に調(ととの)える。かすかなほろ苦さとほんのり甘いスープがたまらない大人味。体ぽかぽかで寒い時期にはもってこい。

日本人にとっておそらく一番めずらしいのが「剝皮辣椒鍋」だ。オクラサイズの青唐辛子の漬け物=剝皮辣椒(ポーピーラージャオ)が主役で、こいつが鍋に丸ごと浮いている様は、いかにも辛そう。ところが辛さはほぼなく、スープにまろやかなうまみを生み出しているのだから、世の中インスタ映えだけじゃわからない。さっぱりした味わいがツボ。

「沙茶白菜鍋」は、台湾定番の調味料・沙茶酱(サーチャージャン)を加えた鍋。沙茶酱は、にんにく、エシャロット、唐辛子、干しエビ等々を加えた甘辛い調味料で、独特のコクと風合いがさらにひと味効いている。

鍋以外の品揃えも充実

店主の黃さん(左から2番目)と台湾人スタッフのみなさん。
店主の黃さん(左から2番目)と台湾人スタッフのみなさん。

「石頭鍋」をふくめてどの鍋も、下準備は店の台湾人スタッフが行ってくれる。こちらはそれを待ち受けて具材を投入して心置きなく食べるだけ。具材の追加は可能。切り落としたばかりの牛肉や、豚、チキン、ラム、野菜類以外にも、貢丸(ゴンワン)=台湾式つみれ、芋頭丸(ユートウワン)=タロ芋の団子、鮮度抜群の鴨血(ヤーシェ)=鴨の血のプディング、モチモチの米血(ミィシェ)=血を混ぜた餅米など、通な品々も取りそろえる。文字だけ見ると引く具材もあるかもしれないが、『臺所』の品々はクセもなくまろやかでうまい。化学調味料なし、いやな胃もたれ感もなしというあたりは、地元の露店より品よく仕上がっているかも。

鍋とは別に『合作社』でも評判の一品ものも選り抜きを用意、古早味紅茶=台湾式甘い紅茶や、梅の台湾緑茶割りなども美味で、品揃えに隙がない。

住所:東京都新宿区高田馬場3-2-15 RESTA takadanobaba 3F/営業時間:月~金:16:30~22:00(21:30LO)
土・日・祝: 12:00~22:00(21:30LO)/定休日:火/アクセス:JR・私鉄・地下鉄高田馬場駅から徒歩2分

取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊

都内屈指の台湾小吃(=一品料理)にありつけると現地人を中心にお客さんが絶えない軽食店が『合作社』、新宿駅前と高田馬場で絶讃営業中だが、取材が縁で仲良くなった店主に、今台中で食べるならココは外せないねと、すすめられた料理店がある。台中で美味アイス店を営む友人店主も、よく食べに行くよとすすめてくれた。食のプロが口を揃えてすすめるんだから間違いなかろうと、台中散策の際に出かけたのが『好菜Küisine(ハオツァイキュイジーヌ)』である。
あまりなじみがないであろう「嘉義」から説明せねばなるまい。台湾旅行で一番人気の街は首都に当たる台北で、お次が南方の古都台南、その台南から少し北へ、台北方向に戻ったあたりにあるのが嘉義である。現地語読みでジャーイー。観光地化されすぎていない、地方都市然とした雰囲気が魅力のちょいレトロな街。かつて林業で大いに栄え、そのときの富がもたらした華やかな風情と文化の残り香がどことなく漂っている。日本統治時代の建物をリノベして、最近開館した駅前の美しい『嘉義市立美術館』を筆頭に、名所がコンパクトにまとまっている点も旅行者には都合いい。
台湾中部の台中(タイチョン)は、人口は台湾2位の広い街で、台湾散策の手練れが訪れる街のひとつ。最近魅力が認められ、日本からの旅行者が少しずつ増えているようでウレシイ。そしてこの隣に位置する街が彰化である。日本語読みで(ショウカ)、現地読みで(チャンファ)と呼ぶここは、短期旅行だと訪れる機会が作りにくいが、台湾鉄道が山線・海線の2手に分岐する要衝で、戦前からの扇形車庫が現存し、近くの山の頂に巨大大仏がでんと鎮座、名物は映画「千と千尋の神隠し」で妙に有名になった肉圓(バーワン)……と、ここならではのスポットや味が徒歩圏内にほどよく散在している。