初めてなら「石頭鍋」を試してみるべし
場所は2号店とはJRの線路をまたいで反対側の、飲み屋街のさかえ通り。味のある飲食店が立ち並ぶ細い通りに入ってすぐのコンクリ打ちっ放しのビル3階に潜んでいる。白を基調とするオシャレなカフェ仕様の店内は、台湾人デザイナーによるもので、台北あたりの街角にあってもおかしくない雰囲気。壁面に台湾製白タイルを敷きつめ、表示類の文字も本場であつらえるこだわりぶりで、付け焼き刃ではない今どきの本場センスである。垢抜けていながらもどこか力の抜けている加減が、日本人には真似できないんだよなあ。
この店で供される火鍋(フォグゥオ)とは中国語で鍋の総称。中国系の人々は総じて鍋ものが好きで、季節に関係なく食べている。台湾でも大陸から持ち込まれた火鍋の料理方法が改良されたり、オリジナルが生み出されたりしており、日本で知られざる鍋がまだまだ多い。さらに、ひとり鍋のスタイルが定着しているのも特長だ。複数で楽しむおなじみの鍋もあるけれど、街を散歩していると、女性が専門店のカウンターで鍋を一人でつついていたり、カップルが各々種類の異なる鍋を楽しんでいるのを見かけたりする。『臺所』では台湾から持ち込んだおひとり様サイズの鍋で、「石頭鍋(シイトゥフォグォ)」という台湾ならではのスタイルの火鍋が味わえる。
石頭(シイトゥ)とは「石の鍋」の意味。韓国の石鍋を使った料理が、台湾で魔改造された料理だと聞く。まず鍋にごま油を敷いて肉を炒め、そこに特製スープを注ぎ、さらに野菜や具材を投入して煮込む。頃合いを見て中国醤油ベースのつけだれではふはふといただく。炒めた肉のコク&香しいごま油の織りなすスープがうまうまで、ならではのうまさである。
初めてならまずこの「石頭鍋」を試してみるべし。ランチはリーズナブルなのでおすすめだ。複数で訪れる時は鍋のサイズなど微調整してくれるが、できれば一人かせいぜい二人で行って鍋奉行から解放される鍋を体験してほしい。
現地ノリ味わえる火鍋
加えてもう一歩現地ノリに攻めてみたいなら、他の火鍋も用意されている。「焼酎鶏鍋」「剝皮辣椒鍋」「沙茶白菜鍋」の3種類だ。鍋の仕立て方のベースは同じで、主役となる素材に特長がある(薬膳鍋ほか新しい鍋も登場予定)。
「焼酎鶏鍋」は台湾の料理酒・米酒(ミィジゥ)=米焼酎を鍋に投入。煮詰めつつ火を付けアルコール分を飛ばす。そこに鶏肉ほか具材諸々を加えて、鍋に調(ととの)える。かすかなほろ苦さとほんのり甘いスープがたまらない大人味。体ぽかぽかで寒い時期にはもってこい。
日本人にとっておそらく一番めずらしいのが「剝皮辣椒鍋」だ。オクラサイズの青唐辛子の漬け物=剝皮辣椒(ポーピーラージャオ)が主役で、こいつが鍋に丸ごと浮いている様は、いかにも辛そう。ところが辛さはほぼなく、スープにまろやかなうまみを生み出しているのだから、世の中インスタ映えだけじゃわからない。さっぱりした味わいがツボ。
「沙茶白菜鍋」は、台湾定番の調味料・沙茶酱(サーチャージャン)を加えた鍋。沙茶酱は、にんにく、エシャロット、唐辛子、干しエビ等々を加えた甘辛い調味料で、独特のコクと風合いがさらにひと味効いている。
鍋以外の品揃えも充実
「石頭鍋」をふくめてどの鍋も、下準備は店の台湾人スタッフが行ってくれる。こちらはそれを待ち受けて具材を投入して心置きなく食べるだけ。具材の追加は可能。切り落としたばかりの牛肉や、豚、チキン、ラム、野菜類以外にも、貢丸(ゴンワン)=台湾式つみれ、芋頭丸(ユートウワン)=タロ芋の団子、鮮度抜群の鴨血(ヤーシェ)=鴨の血のプディング、モチモチの米血(ミィシェ)=血を混ぜた餅米など、通な品々も取りそろえる。文字だけ見ると引く具材もあるかもしれないが、『臺所』の品々はクセもなくまろやかでうまい。化学調味料なし、いやな胃もたれ感もなしというあたりは、地元の露店より品よく仕上がっているかも。
鍋とは別に『合作社』でも評判の一品ものも選り抜きを用意、古早味紅茶=台湾式甘い紅茶や、梅の台湾緑茶割りなども美味で、品揃えに隙がない。
土・日・祝: 12:00~22:00(21:30LO)/定休日:火/アクセス:JR・私鉄・地下鉄高田馬場駅から徒歩2分
取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊